若手アンサンブル事業に参加させていただいて~新任委員の感想~

電子光理学研究センター(ELPH)の時安です。令和三年度より若手アンサンブル事業の運営委員の末席に名を連ねさせていただいております。この記事の執筆時点で、委員としての活動はだ3カ月程度です。しかしながらこの短い期間に、複数回の打合せ、若手アンサンブルワークショップの開催、またグラントの選考の活動に参加し貴重な経験をさせていただきました。今回の記事では、これらの活動に対する私の感想、また学際的な研究の意義について私見を述べさせていただきたいと思います。

私が若手アンサンブル事業の打合せに参加してまず驚いたのは、委員の先生方の熱意です。コロナ禍の中であるためzoomでの開催でしたが、学際的であるとはどういうことかについて、真剣に議論されており、圧倒されました。最近、研究で徹夜ができなくなったり、昔ほど研究に熱意が無くなっており、自分も年取ったんだなぁと思っていたのですが、私とほぼ同年代の先生方が議論されている姿を見て、自身がまだ若手だと呼ばれる世代なんだと自覚したした次第です(笑)。

ここで、私自身について少し述べさせてください。私の研究テーマは物質を構成する原子、原子核、核子、さらに小さなクォークの振る舞いを解明することを目指しております。いわゆる「基礎科学」に属する研究であり、役に立たない学問分野だとしばしば揶揄されることもあります。税金を使って研究させていただく以上、何かしらのメリットを提示しなければならないのは当然のことです。私自身も日ごろから自分の研究が何の役に立つのかについて考えておりましたが、自分の中で腑に落ちる答えが思いつきませんでした。しかしながら若手アンサンブル事業に参画する中でひとつの光明が得られました。それは基礎科学で用いられる「考え方」はあらゆる分野に応用できるということです。基礎科学はそれのみで有用性が発揮されるのではなく、他分野との関連の中で初めて有用性が発揮されるのだと気づきました。基礎科学で用いられている概念を他分野に輸出することによって、その分野に何かブレイクスルーが起こせるのではないかとひそかに企んでおります。(余談ではありますが、ある基礎科学の大家が、講演の後に聴衆に「あなたの研究は何の役に立つのか?」と聞かれた時の答えが個人的に気に入っております。曰く「あなたが言う役に立つという定義を明らかにしてください。それについて証明して見せます。」と。)

5/20に行われた若手アンサンブルワークショップにおいて自身の研究について発表する機会が得られたのですが、これもとても良い経験になりました。自分の専門分野の学会で研究発表を行ったり、また市民講座などで一般の方々に自身の研究を紹介する機会は多くありますが、他分野で活躍されている研究者の方々の前で自身の研究について発表した経験はこれまでほぼありませんでした。専門分野での発表では前提知識を仮定して、発表を行いますし、また一般講演ではほぼ前提知識を仮定せずに発表を行います。研究者の方々の前で発表するのはこのどちらとも違った感覚で新鮮でした。不正確にならないように用語を一般的に使われるアカデミック用語に置き換えたり、また他分野で似たような例がないかと調査したりと非常に良い刺激になりました。またそのように資料を作っていく中で、自身の研究分野の位置づけを広い視野から見つめなおすことにもなりました。学際的な研究は異文化交流により新しい学問分野を創生するという面もありますが、自身の研究分野について深く考えなおす機会としても重要だと思います。

またワークショップで興味深かったのが、様々な学問分野の研究文化です。基礎科学はたった一つのグラフを作るために十年以上の時間をかけることはよくあります。一方、材料開発の分野では1年前と同じ研究を続けていると、最先端についていけなくなるという風にお聞きしました。タイムスケールがかくも違うのかと驚きました。また基礎科学では数十年前に行われた実験結果に思わぬ大発見が隠れているということも多々あるのですが、これらは文系学問の文献調査につながるものがあるなと気づきました。こういった研究文化の共通点、相違点を明らかにすれば、メタ学問として面白そうだなと感じております。

最後に、私が所属する電子光理学研究センターについて少しだけ紹介させていただきます。電子光理学研究センターは1966年に東北大学において原子核物理分野の研究施設として発足し、今に至ります。今年で発足55年であり、数ある付置研の中でも、かなり歴史を持つ部類に入るかと思います。電子光理学研究センターでは電子を光速近くまで加速するための実験装置、加速器を4台保有しております。センター名称にある「電子光」とは余り聞きなれない言葉かもしれません。我々は加速器により加速された電子ビーム、また電子ビームから生成される高エネルギーの光ビームのことを電子光と呼称しております。電子光を用いて、原子核を構成する陽子の大きさの測定、放射線同位体を生成して薬剤の基礎開発、また物理学の基礎理論から予言されていながらまだ発見されていない粒子の探索といった研究を行っております。また電子ビームから光ビームを生成するメカニズムの解明や、手法の新規開発なども行っております。

光はそのエネルギーを変えることにより、携帯電話の通信に用いられたり(電波)、食べ物を温めたり(赤外線)、物を見たり(可視光)、物体の内部を透視したり(エックス線)、元素そのものを変換したり(ガンマ線)様々な用途に用いることができます。これは光が純粋なエネルギーであるという一面を表しており、その使用法はまだまだ多くの可能性を秘めております。学問のブレイクスルーは他分野からのアイデアの輸入によって起こることは歴史が証明しております。今後、若手アンサンブル事業を通じて、学内の他分野研究者と光ビームの新しい可能性について議論を深めていきたいと思っております。また、我々が長年にわたり電子光理学研究センターで培ってきた知見を用いて、他分野の発展に貢献できればと思っております。

(時安敦史・電子光理学研究センター(ELPH))

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