学際研究を始めてみよう!

電気通信研究所(RIEC)の新屋です。
初めての投稿なので自己紹介がてら研究紹介をしたいと思います。

筆者は理論物理学を専門としており、第一原理計算という手法や統計力学的な手法を用いて物質の特性を予測する計算物質科学研究を行っています。あらゆる物質は原子から成り立っており、原子をさらに細分化すると原子核と電子に分けられることはご存知だと思います。その中でも電子は膨大な数が存在するため物質全体の性質も支配しており、電気の通りやすさや磁石の性質といった特性は電子の状態次第で決定されます。筆者の用いる第一原理計算という手法は量子力学(ミクロな世界の物理を記述する力学)に立脚した手法であり、電子状態の計算を通して物質の特性を予測することができます。また、第一原理計算に加えて統計力学的な手法を用いると原子スケールのミクロな世界の情報から素子サイズのマクロな系における情報も知ることが可能となります。筆者はこれらの手法を駆使してスピントロニクス材料や熱電変換材料に対して、実験で観測された物理現象のメカニズム解明や新しい物質の探索などを行っています。

このように理論物理学は平たく言うと数式や理論を駆使して物理現象を記述する学問です。ここまで読んで頂いた皆様は物理学というものは「THE理系分野」であって材料系の研究やせいぜい化学系の研究にしか活用できないんじゃないか、と思われたのではないでしょうか。実は物理学は他分野との親和性が非常に高く、意外な分野で活用されていたりします。例えば経済学との学際分野に経済物理学というものがあります。経済物理学では物理学者が用いるような量子力学や統計力学に基づく物理的な手法を用いて経済現象の解明を行います。その対象は為替や株式といった市場や法人・個人の所得まで様々ありますが、要は筆者が物理学を駆使して物質の構成要素である電子が生み出す物理現象を記述したように、経済物理学では経済の構成要素である人間が生み出す経済現象を記述するのです。この他にも生命や生物、情報といった所謂理系分野、人文・社会学系といった文系分野においても物理学の知が活かされている学際研究もあります。

このような学際的学問が生まれたのは物理学で得られた確固たる理論や知見が実は他分野にも活用できるということがわかったからですが、学際研究の種は実はあちらこちらに転がっていたりします。若手アンサンブルプロジェクトではそのような種を交配して新たな学際研究の芽を出すお手伝いをしています。実際に行われた学際研究はHP(http://web.tohoku.ac.jp/aric/archives.html)にてご覧になれます。

研究者の方々のマッチングの機会として当プロジェクトでは定期的にワークショップを開催しておりますので、学際研究にご興味のある方は是非ご参加ください。「自分の研究はニッチだからなぁ〜」と参加を躊躇われている研究者の方も、需要は意外なところにあるかもしれませんし、全くかけ離れた分野の研究からインスピレーションを得られることもあると思います。次回のワークショップ開催は11月を予定しておりますので、たくさんの方々のお申込みをお待ちしております。

また、学内の若手研究者による連携を促進することをねらいとして、複数部局の研究者で構成された共同研究グループに対する研究費の助成も行っております。この助成金は学際研究だけではなく、新たな研究のスタートアップや研究テーマの拡張を行う若手研究者を支援するものです。これまで採択された課題はHP(http://web.tohoku.ac.jp/aric/grant.html)からご覧になれます。

ワークショップやグラントに関する情報はHP(http://web.tohoku.ac.jp/aric/index.html)にて随時更新していきます。

(新屋ひかり・電気通信研究所(RIEC))

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?