遠野物語64

金沢村(かねさわむら)は白望(しろみ)の麓、上閉伊郡の内のなかでもとくに山奥で、人の往来も少ない。六、七年前にこの村から栃内村の山崎なる某かが家に娘の婿を取った。この婿は実家に行こうとして山路に迷い、またこのマヨイガに行き当った。家のようす、牛馬雛が多いこと、花の紅白に咲いたりしていたことなど、すべて前の話の通りである。同じく玄関に入ってみると、膳椀が取り出されている部屋がある。座敷に鉄瓶の湯が沸騰していて、今まさにお茶を煮ようとするところに見え、便所などのあたりに人が立っているように思われた。茫然として後になってだんだん恐ろしくなり、引き返してついに小国の村里に出てきた。小国ではこの話を聞いて本当だと思う者もいなかったが、山崎の方では、それはマヨイガだろう、行って膳椀の類を持って来れば長者になれるといって、婿殿を先に立てて多くの人がこれを求めて山の奥に入り、ここに門があったというところに来たけれども、眼に見えるものはなく空しく帰り来ってきた。その婿が最終的に金持になったという話も聞かない。

○上閉伊郡金沢村。

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