遠野物語72

栃内(とちない)村の字琴畑(ことばた)は深山の沢にある。家の数は五軒ばかり、小烏瀬(こがらせ)川の支流の水上である。これより栃内の民家まで二里を隔てている。琴畑の入口に塚がある。塚の上には木の座像がある。だいたい人の大きさで、以前はお堂の中にあったが、今は雨ざらしだ。これをカクラサマという。村の子供これをおもちゃにし、引き出して川へ投げ入れまた路上を引きずりなどしたから、今は鼻も口も見えぬようになってしまった。あるいは子供を叱り戒めてこれを制するが者がいたら、かえって祟りを受け病気になることがあるという。

○神体仏像は子供と遊ぶのを好み、これを制止するとお怒りになることはほかにも例が多い。遠江小笠郡大池村東光寺の薬師仏(『掛川志』)、駿河安倍郡豊田村曲金の軍陣坊社の神(『新風土記』)、または信濃筑摩郡射手の弥陀堂の木仏(『信濃奇勝録』)などはこれである。

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