遠野物語46

栃内村の林崎に住む何某という男、今は五十歳に近い。十年あまり前のことである。六角牛山に鹿を撃ちに行き、オキを吹いたりしていると、猿の経立がいて、これを本物の鹿だと思ったのか、地竹を手でかき分わけながら、大きな口をあけ嶺の方より下って来た。胆を潰して笛を吹くのをやめたら、やがて脇にそれて谷の方へ走って行った。

○オキとは鹿笛のことである。

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