遠野物語22

佐々木氏の曽祖母が歳をとって死んだ時、棺に納め親戚の者達が集まってその夜はみんな座敷で寝た。死者の娘で乱心のため離縁させられた婦人もまたその中にいた。喪の間は火の気を絶やす事を嫌う風習なので、祖母と母の2人だけは、大きな囲炉裏の両側に座り、母のほうは傍に炭の籠を置き、時々炭を足していると、ふと裏口から足音がする。誰か来たと思って見やると、亡くなった老女であった。いつも腰が曲がって着物の裾を引きずってしまうので、三角に取り上げて前に縫い付けているのはまさに生前の通りで、縞目にも見覚えがある。あらまあ!と思う間もなく、2人の女が座っている囲炉裏の脇を通り過ぎ、裾で炭取に触り、それが丸い炭取だったためくるくると回った。母は気の強い人なので振り返って後を見送ったところ、彼女は親戚の人々が寝ている座敷の方へ近寄っていくやいなや、気の狂った女のけたたましい声が「おばあさんが来た!」と叫んだ。その他の人はこの声で目を覚ましてただ驚くばかりだったと言う。

○メーテルリンクの『侵入者』を思い出させる。

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