遠野物語13

この老人は数十年の間山の中でひとりで住んでいた人である。良い家柄なのに若い頃財産を失ってから、社会とのつながりを断って、峠の上に小屋を作り、甘酒を往来の人に売って生計を立てていた。運搬業の人たちはこの翁を父親のように思って、親しんでいた。少し収入の余りがあれば街に降りてきて酒を飲む。赤毛布にで作った半纏を着て、赤い頭巾をかぶり、酔えば街の中を踊りながら帰ったりするが巡査も咎めない。いよいよ老衰してから、故郷に帰ってかわいそうな暮らしをしていた。子供はすべて北海道へ行き、翁ただひとりなのである。

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