遠野物語21

右の孫左衛門は村には珍しい学者で、いつも京都から和漢の書物を取り寄せて読みふけっていた。少し変人だといってもいい。狐と親しくなって家をお金持ちにする術を得ようと思い立ち、まず庭の中に稲荷の祠を建て、自分が京都に行って正一位の神階を請けて帰り、それから日々1枚の油揚げを欠かすことなく、自ら社頭に供えて拝んでいたので、後になって狐は馴れて近づいても逃げなくなった。手を伸ばしてその首を抑えたりなどしたと言う。村にある薬師の堂守は、自分のところの仏様は何もお供えしなくても孫左衛門の神様よりはご利益ある、とたびたび笑い話にしたという。