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近ごろ生まれた変化について

私は万年筆が好きで、それと比べればボールペンにはさして関心もなかった。だが、万年筆も使い始めて四五年も経つと、どんな場面にも何がなんでもそれを使うのだという、焦燥にも似た気持もようやくにして治まってきた。

そうして幾分落ち着いてみると、やはりインクの性質から、万年筆は持ち運ぶのにはあまり向かず、移動が多いときにはより堅牢なボールペンがその力を発揮することに改めて思い至った。薄々勘づいてはいたことを、ついに認めたわけである。

万年筆を旅行に携帯して大きな問題が生じたことはないが、インクのちょっとした漏れや飛び散りも勘案するなら、やはりボールペンの優位性が浮上する。また、旅行にはその目的があるわけだから——、意気込んで万年筆を複数携帯してみたものの、結局使うヒマがなかったなどということも起こりがちである。そこで、旅行にはボールペンを一本携えて済ますことにした。

パイロットのタイムライン——このボールペンは、時間に係る〈PAST(過去の)〉、〈ETERNAL(永遠の)〉、〈FUTURE(未来の)〉、そして〈PRESENT(現在の)〉という四種をラインアップしている。タイムラインの四種はどれも全長12㎝ほどだから、上着のポケットにスッと収まってよい。私はそのなかの〈PRESENT〉を旅行に携えることにしている。

首軸が半透明で、ペン先を繰り出すためのバネが透けて見えるところが、他の三種と比べ、やや安っぽいと見る向きもあるやもしれない。しかし、私にはむしろその雰囲気がしっくりと来た。

さて、パイロットといえば、どこか列車を思わせる面構えと、山吹色のボディの幸せな融合—―先日手に入れたキャップレスがかわいくてしようがない。

ただ、このキャップレスは細字なのだが、私はふだん中字くらいで気儘に走り書きをすることが専らなので、活躍の場がさほど増えず、書くよりも愛でる時間が多くなってしまう点が不満といえば不満だった。

そこで、これは本稿冒頭の述懐とまるで一貫しないが、このキャップレスをもっと使いたいがために手帳をつけてやろうと思いついた。

私は年頭のたびに今年こそは手帳をつけよう、つけようと目論んでいた時分もあったが、いつも続かない。初めのうちこそスケジュールをきちんと記載するが、そのうちには字が甚だしく乱れはじめる。日付に結びついた枡だの欄だのは便利なようだが、書ききれない日があれば、何も書くことのない日もあることが、私をどうも落ち着かない気分にさせる。いうまでもなく手帳に空白の美学など求めてはいない。

そうなると、手帳を開くことが億劫になり、ついには手帳をつけていたことさえ忘れてしまうまでに時間はかからない。いつからか私は、もう手帳を使わないことにした。適当な卓上カレンダーを窺いながら、日常的に使っているノートの余白にメモをとればそれで足りた。アポイントは会合が終わればもう忘れたってよい。そのほうがすっきりする。それで何年も過ごしてきた。

ところが、久方ぶりに手帳を使ってみたところ、これはやはり便利ですね。よく練られている。

そういえば、外出中の着信にカレンダーアプリを確認したいが、通話中では開きづらいということが何度かあった。もうそんな残念な思いはしなくてすむ。何より、当日までに何日残っているか一目でわかるのがありがたい。柄でもないが、先勝だから午前中にしようと行動を決めるのもおもしろくなってきた。

もっとも、まだ二月だから、いつまで続くかは知れたものではない。

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