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フェイク・パーカー・ソネット

元来私は太いペンが好きだ。指と接する面積も大きいので、しっかりと密着してくる感じがある。それで、指とペンが一体となって動いている感覚が得られ、安定感がある。

だが、他ならぬこの細身のペンがきっかけで、私は本当に太いペンが好きなのかしらん、と、疑念を抱くようにもなった。

このペンを持つときは、自分の指がベッドマットになったように感じる。そこに、このペンが背中から落ちてくる。接する面積はさほど大きくないが、こちらにはその背中をそっと受けとめる手応えがある。

おそらくこのペンにある程度の重さがあることが、よい方向に作用しているのだろう。こちらの指――ベッドマットにすっと収まったこのペンは、そこに居場所を得、むやみに動いたりはしない。太いペンの充満する感じとは異なるその穏やかな手応えは私を魅了した。

Waterman Mysterious Blue

文字もすらすらと書きよい。ところが、三十分ほども使っていると、突然潮が引いたように、インクがまるで出なくなってしまい、ゲップさえ出さなくなってしまうことがある。

しようがないので他のペンに持ち替え、しばらく休ませていると、またすらすらと書けるのだが、やはり三十分ほどすると、ふつりとインクが途切れてしまう。

いよいよ私は、遠ざけていたある疑問と向き合わねばならなくなった。私がソネットだと信じていたこのペンは、本当にソネットなのか。

Parker Quink Blue

私が手にしているこのペンの特徴としては、ペン先に「福」という漢字が刻印されている。その他にペン先には、「PARKER」、「18K-750」と記されている。

そして、ペン先の裏、ペン芯に「F」と字幅が記されている。

キャップリングには、楕円と矢羽根を組み合わせたシンボルマークの横に「PARKER」。両端の「P」と「R」は他よりも少し大きい。それから「SONNET」、続いて「FRANCE 」、「ⅡQ」。

Parker Quink Blue

そのシンボルマークは、矢羽根が実は矢羽根になっておらず、簡素な縦線に近い。簡略化といって済ますのは少々乱暴な気がする。

ペン先に縁起のいい「福」の文字を刻印したソネットは、実際、2007年限定モデルとして発売されていたが、写真で確認すると、「PARKER」のロゴの文字は均一である。このペンのように両端の「P」と「R」が少し大きいのは、そのソネットのロゴとしては怪しい。

改めて眺めると、胴軸の尻の仕上げがどうも甘い気がする。

そして私は、ある動画に行き着いた。

この動画の論理に従えば――、パーカーのペンには製造時期ごとのコードが付されているが、私のペンの「ⅡQ」は1990年製を示す。一方、ソネットの発売は1993年であるから、絶対的な矛盾がある。すなわち、私の手元のこのペンは明瞭に偽物である。

疑心暗鬼に陥っていたので、残念であるというよりは、妙に清々しい。なお、用紙はライフノーブルノートA5を使用した。

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