ラミー2000、万年筆のスウィートスポット
ラミー2000はスウィートスポットが狭いという話をよく聞きます。それゆえ、ペン先が左右のどちらかに少し傾く(回る)と、とたんに線はかすれ、さらに傾く(回る)ともう何も書けなくなる、と。
だから、「このペンを使い始めて、うまく持てるようになるまでに二週間を要した」といった、不平というよりはむしろ誇らしげな声を聞くこともあれば、ただただそのスウィートスポットに関する不平を聞くこともあります。
(むろん、特に問題を感じたことはないという場合はあるのでしょうが、どうしても不平のほうが目立ちやすい面があります)
まあ、そのへんは気持ちの持ちようといったところがあって、私も購入前にそのスウィートスポットについては聞いていましたが、〈スウィートスポットがないというわけではなく、あるのだから、書いていればそのうち、そこでうまく書ける持ち方に自然となってくるさ〉と楽観的に考えました。
もっとも私は、人に見せる予定のない走り書きに使うので、しばらくうまく書けない日々が続いてもいっこうに困りませんが、もっと即戦力を期待する場合に、〈慣れるまでに一週間も二週間も待ってられるか〉という考えが出てくるのにも肯けます。
私は2020年1月にFineを、2021年3月にMediumを買い求めましたが、幸いこれまで、そのスウィートスポットに関して難しさを感じた記憶がありません。
ところが、分厚いノートに以前書いたもののなかに、綴じた中央の付近で薄くなっている筆記があるのをたまたま見つけました。その分厚いノートでは、綴じた中央付近で紙が丸まってしまい、下り坂になります。
私がペンを傾け(回し)たわけではないのですが――いやむしろ紙に合わせて傾け(回さ)なかったために、ペンと紙との接し具合が変わり、スウィートスポットからは遠ざかり、線が薄くなってしまったものでしょう。
ただ、人に見せる予定のない走り書きなので、多少線が薄くなろうが気にはならず、ラミー2000で書く線が薄くなってしまうことがあることも、私の記憶には残らなかったのだと思われます。
そう考えると、私があまり気に留めていないだけで、これまでにラミー2000で書くなかで、線が薄くなったり、引けなくなったりすることも、間々あったのかもしれません。特に使い始めの頃には、そうしたこともあったのではないかという気がだんだんしてきました。
まあ、本人が忘れてしまっているわけですから、昔の筆記を引っ張り出して、かすれたところや、私が二度書きしているところはないかとチェックするのも野暮でしょう。
ここで私が思い出したのは、パイロットのウェーバリー(WA)というペン種のことです。そのペン先は、やや反り返ったような形状をしていて、それにより筆記角度が多少鋭くなろうが、緩くなろうが大らかに受けとめ、安定した筆記体験を担保してくれるとのことでした。
しかし、その大らかさと引き換えに、書いた線の濃淡の機微は減じられてしまうといいます。
私はラミー2000で書く線の濃淡が好物なのですね。線の濃淡は、字幅、インクフロー、もちろんインク……複数の要素の兼ね合いから生まれるのでしょうから、これは正しいとも云い得ませんが、ラミー2000のスウィートスポットの狭さが、その濃淡の機微に貢献している可能性はあります。
だから、ラミー2000のスウィートスポットの狭さは難点とはいえず、むしろ福徳ではないのかと私は思いました。
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