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潜って、上がって、微調整

2020年4月、突然リモートワークで働くことになった。これまでも事務所に戻るよりも効率がよければ外出先や自宅で仕事をしていた。だからすぐに対応できるつもりだったのに、想像以上に戸惑っている自分が居た。家の中でパソコン越しの議論と報道のチェックを繰り返す日々に、どう向き合ったら良いのかわからないまま一日が終わっていく。

どうにかならないものかと、仕事を始める前に家の側を流れる野川を歩くことにした。ちょうど冬眠から目覚めた亀が、甲羅干しを始めるころ。万年も生きると言われる亀を見つめたら少しは心が穏やかになるだろうか。歩き出すと、さっそく亀の家族を見つける。今日は特に大所帯で、陽の光を浴びて甲羅もよく乾いてる。

ふと、川岸の家のベランダで布団を叩く音。同時に亀の一家が川に潜る。案外音に敏感なんだ、と思っているうちに、辺りを窺いながらそろりそろりと再び甲羅干しの体制づくりが再び始まった。お互いに顔を見合わせたり、ちょっとずつ体制を変えて支え合ったり、繊細なやりとりが交わされている。飛ぶことも走ることもできない亀が長生きなのは、この細やかさの為せる業なのか。そう信じたくなる春。

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