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ダウン症のA君の優しい気持ちと勇気を汲んでほしい

知的障害のある人が暮らすグループホームで遅番で働いている。
夕方、利用者のみんなが仕事を終えて帰ってくるちょっと前に入って、夕飯と次の日の朝食を用意しながら見守りを兼ねて利用者と夕飯時の団欒の時をすごす。

先日仕事に入ったら、ダウン症のA君が困ったことをしたと言う。

仕事からの帰りの道で、小さな女の子が倒れていたのでびっくりして電話で救急車を呼んだのだが、じきに女の子は歩いて帰ってしまい、それを見て安心したA君も救急車の到着を待たずにさっさと帰ってしまったと言うのだ。

現場に到着した救急車は、そこに行っても誰もいないので、イタズラ電話を受けたのかと思ったらしい。
さっそく救急車からA君の仕事場やホーム、そして家族のところまで、問い合わせと苦情の連絡が来た。

A君に対して色んな人が、決して叱るような感じではないけれども、
「もう救急車なんか呼んじゃダメだよ」
「もし倒れている人がいたら、まず交番のお巡りさんに言って聞いてみて」
「救急車を呼んだならもしもう大丈夫かなと思っても呼んだ救急車が来るまではそこにいなきゃダメだよ」
そんなアドバイスばかり。
叱ってはいないけれども、でも彼の行為をとりあえず否定してしまう言葉ばかり。
「なるほど、ホームの子ならイタズラ電話をしそうだ」
などと思われてしまうとまずい。
もうこんなことはしてくれるな。

もちろん彼は困ったことをした。
救急車は、特に今はコロナ禍でいつも以上に忙しい時にこんなことをされたらたまったもんじゃない…。

厨房で夕飯の用意をしながら横のリビングルームのテーブルに座っているA君様子を見ていたら、他人にわからないように目に涙をいっぱい溜めて真っ赤になっている。
A君の尊厳が傷つけられた、ってヤツだろう、と私は咄嗟に感じた。

仕事が一段落したところでA君の側に座り、
「でも、A君は優しいよね!
小さな女の子が道で倒れてたらビックリしちゃうよね、だから心配して、頑張って勇気を出して救急車を呼んだんだもんね。偉いよ!」
と声をかけたら
「うん、ありがとう」
と嬉しそうに恥ずかしそうに笑い、ホッとしてくれたようだった。

確かにA君は困ったことをしてしまったからもう繰り返して欲しくはない。
でも、彼の優しい気持ちや、良かれと思ってやった勇気については、前提として、ちょっと誉めてあげないと可哀想だ。

こんなことをしてはダメ、については周りのみんながあれこれ口を酸っぱくして教えていた。
だから私は彼の気持ちに寄り添う役割をしておいた。
それが出来ることがまた、グループホームのお母さん目線での見守りの役割なのかなと思う。
とてもやり甲斐のあるいい仕事だなと思う。

報酬のお金と並んで(笑!)利用者さんの笑顔がもう一つの、大切なご褒美である。

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