見出し画像

ずさんでとうさん

(自分の会社をぶっ潰したくてたまらない男たち)
 
 
 以前付き合いのあった業者の社長は、電子レンジをとても傷みつけていた。
 
 傷めつけるといっても、腹を立てて叩くというようなわけではない。食べ物を温めている状態で、忘れてしまうのだ。
 とても古いレンジで、自動では止まらない。時間を設定しなければ、いつまで経っても温め続けるという代物だ。
 
 いくらレンジ対応の弁当容器だって、限度がある。20分も30分も延々レンジにかけられれば、容器は変形し、さらには、もっとすさまじいことになってしまう。
 
 すさまじいパターンは2つあって、1つは、煙をたてる。
 ぼくはしょっちゅう出入りしていたので、入っていくときに、事務所へと続く廊下に設置してあるレンジを見るのが習慣化されていた。煙が出ているときは、有毒ガスを吸わないようにUターンして、外から社長に電話連絡しなければならない。「レンジ止めてください」、と。
 
 もう1つのパターンは、容器がとけてしまう、ということだ。
 溶ければ、当然中身がこぼれてしまう。そんなだらしのないことをする社長なので、そうなってもレンジの中をザッとしか拭かない。
 そうすると、残ったものが冷えて固まってしまう。その影響で、電子レンジは皿が回転しなくなっていた。
 
 フレンドリーな社長は、ぼくに作業場のものを好きに使わせてくれたが(そのかわりいろいろと手伝わされたが)、電子レンジは使わなかった。社長がぼくの弁当も買ってきてくれることがあったが、冷めてもそのまま食べていた。
 
 そんな気質を持つ社長だったので、杜撰経営が祟ってつぶれた。
「自分の会社なのに、人ってこんなにも杜撰になれるんだ!」と、その社長の行動を見て、ホントに不思議だった。
 
 今、その会社の場所は更地になって、家が建てられようとしている。そこを通るたびに、社長(元、だが)のさまざまな行動と、錆びだらけのレンジを思いだす。

駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。