ゲート・ブレイカー 第一話「破門」
「ハチコ、戻ったぞ」
門関連犯罪対策特別捜査隊と書かれた扉を開き、小柄な女性が入ってくる。黒髪のポニーテール。勝ち気な瞳。
「ナナミ先輩、平気なんスか。さっきの現場で派手にフッ飛ばされてましたケド」
長身の男が立ち上がり、心配そうな視線と声を寄越しながらバタバタと駆け寄ってくる。不潔な訳ではないが、ボサボサとまとまりのない栗毛。眠そうに下がったタレ目。対照的な二人組である。
「アタシは軽いからな。確かにフッ飛ばされたが、打撲程度で済んだよ」
拳銃はひしゃげてオシャカだったがな、と両手をヒラヒラさせながら答えるナナミ。
「ん?アレはどうしたんだ」
チラ、と視線で示した先。オフィスの壁際のパイプ椅子には、全身黒尽くめの少年が俯いて座っていた。適当な長さで切り揃えられた黒髪。髪の間から覗く瞳も漆黒。肌は抜けるように白く、学生服と合わさると、一人だけモノクロームの世界から切り出されたようにも思える。しかし、右目、そこだけには色味が宿っていた。山吹色の眼帯ーーー否。
「ーーー刀の、鍔?」
よくこの距離から分かるスね先輩、と間延びした声。
「いや、あの子、さっきの現場でーーー」
しかし、状況を説明する間もなく。ズンッ、と建物全体に衝撃が走り、オフィスの壁が、砕ける。鉄筋コンクリートの耐力壁を引き裂いて、突っ込んできたのは、首なしのトカゲじみた怪物。
途端、騒然となるオフィス内で、しかし、先程の少年だけは平静を保ち、立ち上がった。
「やっぱり。殺せてなかった」
呟き、右手に構えたのは、刀の柄。
「僕に取られた首を、追ってきたんだろう?でも、返さないよ」
ゆったりと円を描くように両手を回し、右手の柄を、右目の鍔へと、押し当てる。カチリ、と音が響いた。鍔を留めていた紐が宙を舞う。
刹那。少年の右の眼窩から、粘性の闇が溢れた。漆黒の刃がズルリと顕れる。
ーーー外法、転生。
一瞬前まで少年だったソレは、黒鎧を身に纏った鬼神と化した。
【続く】
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