125.第5章「映画とテレビでトップをめざせ!不良性感度と勧善懲悪」
第11節「東映 一般洋画配給進出 後編」
4.東映ユニバースフィルム『隣の女』『迷プレ・珍プレ大百科‼アメリカン ブルーパーズ』『カルメン』大ヒット
東映洋画配給部が『人類創生』の不入りで洋画大作の輸入配給の断念を決定づけた1982年6月。
東映ユニバースフィルムは、セントラル・アーツが製作した『世界の空軍 ATRFORCE’82 ドッグファイト』(河辺和夫監督)を配給公開します。
この作品は、東映洋画配給部が企画し1976年11月に東映ビデオ製作にて公開し大ヒットした『世界の空軍 AIRFORCE'77』(河辺和夫構成)を現在の戦闘機でリメイクしたドキュメンタリー映画で、低い原価で製作されたにかかわらず1億円に近い配収を叩き出し再び利益に貢献しました。
10月には残酷エロス映画『悪魔のホロコースト』(リノ・デ・シルベストロ監督)とマゾ映画『毛皮のビーナス』(マッシオ・ダラマーニ監督)を配給します。
原点の残酷エロスに回帰した両作品は快調な成績を残しました。
そして12月、フランスの名匠フランソワ・トリフォー監督の新作恋愛映画『隣の女』(ジェラール・ド・パルデュー、ファニー・アルダン主演)を配給、シネマスクエアとうきゅうで公開します。
シネマスクエアとうきゅう開館1周年記念作品として上映されたこの映画は、多くの女性を集め、同館の記録を大きく塗り替える大ヒット、ロングランします。
昨年の『モスクワは涙を信じない』に続き『隣の女』も第37回外国映画の部で芸術祭優秀賞を受賞しました。
1983年1月にはポーランド映画『罪物語』(ヴァレリアン・ポロフチク監督)を公開します。
ボロフチクは、アンジェイ・ワイダ、スラヴォイ・ジジェク、テリー・ギリアム、パトリス・ルコントなど名だたる名監督たちが助監督を務めたポーランドの誇る大監督でした。
5月、スポーツドキュメンタリー映画『迷プレ・珍プレ大百科‼アメリカン ブルーパーズ』(リチャード・ジェフリーズ監督)を丸の内東映パラス他にて公開します。
この映画は配収4.2億円をあげ予想外の大ヒットとなりました。
11月には、映画配給業に進出した不動産賃貸業の地産に協力し、アラン・ドロンの初監督、主演映画『危険なささやき』を公開します。
渋谷パンテオンなど全国で公開されたこの映画は、女性ファンを集め健闘しました。
この年も12月からシネマスクエアとうきゅうにスペイン映画『カルメン』(カルロス・サウラ監督)を配給公開します。
この映画は、フラメンコ・バレエの第一人者アントニオ・ガデスがカルロス・サウラ監督とともに作り上げた現代版カルメンで、今村昌平監督『楢山節考』がパルム・ドールに輝いた1983年度のフランスカンヌ国際映画祭では芸術貢献賞を受賞した名作でした。
アントニオ・ガデスが主演し、音楽を担当した名ギタリストパコ・デ・ルシアも出演しています。
この作品も、『モスクワは涙を信じない』『隣の女』に続き3年連続で芸術祭優秀賞を獲得しました。
公開が始まると多くの女性が集まり、前年にフランソワ・トリフォー監督『隣の女』が作った記録をことごとく塗り替える大ヒットとなります。
5.東映ユニバースフィルム㈱、東映クラシックフィルム㈱に社名変更
1984年3月1日、『カルメン』が大ヒットした東映ユニバースフィルム㈱は東映クラシックフィルム㈱に社名変更します。
そして3月からロックミュージカル映画『ジーザス・クライスト・スーパースター(再映)』(ノーマン・ジュイソン監督)を新宿名画座ミラノでロードショー公開しました。
地方では『カルメン』と『ジーザス・クライスト・スーパースター』は合わせて公開されています。
また、東映クラシックフィルムは『カルメン』で優秀外画輸入配給特別賞を受賞しました。
続いて柳の下の2匹目の泥鰌を狙い、G・Wに、『迷プレ・珍プレ大百科‼アメリカン ブルーパーズ2』(ダグラス・イエリン監督)を全回と同じく丸の内東映パラス他全国に配給ロードショー公開します。
また1週前には、ニューロックコメディ映画『チーチ&チョン スモーキング作戦』を公開しました。
しかし、『迷プレ・珍プレ大百科‼アメリカン ブルーパーズ2』『チーチ&チョン スモーキング作戦』共に期待外れの結果に終わります。
9月、東映クラシックフィルムは洋画ではなく東北新社、幻燈社製作の日本映画『湾岸道路』(東陽一監督・草刈正雄主演)を配給しました。
この映画は、『四季・奈津子』『ザ・レイプ』『セカンド・ラブ』の企画製作者幻燈社前田勝弘と監督東陽一のコンビが、片岡義男の人気ベストセラー小説を原作に手掛けた作品で、東映クラシックフィルムはこの『湾岸道路』から日本映画の配給も手掛けるようになります。
フランスのポルノ映画『エマニュエル』(フランシス・ジャコべッティ監督)と同時上映にて渋谷東急系で公開しました。
東北新社が中心となったこの2本立ては都市部を中心に女性を集めました。
今回の興行は、東北新社の植村伴次郎社長と東映クラシックフィルムの佐藤真宏常務が同郷というつながりから配給を受託したもので、この後も東北新社との関係は続いて行きます。
11月には西ドイツで作られたカニバリズム(食人)映画『トランス愛の晩餐』(エックハルト・シュミット監督)を公開しました。
そして1985年1月、アントニオ・ガデス主演、カルロス・サウラ監督作品『血の婚礼』を名画座ミラノにて公開します。
この映画は、昨年12月に公開し大ヒットした1983年製作の『カルメン』に先立つ1981年に同コンビが作った作品でした。
3月、東北新社の植村伴次郎が製作した桃井かおり主演『生きてみたいもう一度 新宿バス放火事件』(恩地日出夫監督)を配給しました。
4月GWには、CBS・ソニーグループが製作したシブがき隊主演の日本映画『バロー・ギャングBC』(和泉聖治監督)を単独作品として配給します。
5月からはシネマスクエアとうきゅうにてフランス映画『愛しきは、女 ラ・パランス』を公開しましたが、この映画も苦戦しました。
7月にはスタジオぴえろが制作したアニメ映画、新谷かおる原作『エリア88』(鳥海永行監督)と岡崎つぐお原作『ジャスティ』(高橋資祐監督)を配給公開します。
6.その後の東映クラシックフィルム配給作品
1985年、当時の東映洋画配給部は、1982年に洋画作品の配給を断念して以来主にアニメや角川映画を配給してきましたが、4月に角川との提携を解消、東映本番線とは別に自主製作に乗り出します。
半面洋画の輸入を続ける東映クラッシックフィルムは、満を持して12月、ジーンハックマン、マット・ディロン主演『ターゲット』(アーサー・ペン監督)と「やぶれかぶれ 一発勝負‼』(サヴェージ・スティーヴ・ホランド監督)の2本立て、続けてロバート・デュバル主演『ライトシップ』(イエジー・スコリモフスキ監督)と『哀愁のエレーニ』(ピーター・イエーツ監督)の2本立てを配給公開しました。
1986年3月から東北新社と共同配給のジョージ・A・ロメロ監督『死霊のえじき』を公開しヒットします。
この年9月に公開したバイクレースドキュメンタリー映画『プライド・ワン』も、同時上映のブルック・シールズ主演『青い誘惑』(ディック・ローリー監督)と併せて堅実な数字を残しました。
12月には徳間ジャパン製作『GREY デジタル・ターゲット』(出崎哲監督)とムービック製作『強殖装甲ガイバー』(渡辺浩監督)、アニメ映画2本立てを配給しました。
1987年度 東映クラシックフィルム配給作品
ジョージ・A・ロメロ監督『死霊のえじき』のヒットを受け、東映クラシックフィルムは1987年3月、スチュアート・ゴードン監督のスプラッタームービー『ZOMBIO 死霊のしたたり』を公開します。
同時にショー・コスギ主演のアメリカ”ニンジャ”ムービー『ニンジャ THE NINJYA』(サム・ファステンバーグ監督)が上映されました。
この2本立ては話題を呼び、急速に普及し始めたビデオも両作品で2万5000本以上を売り上げるヒットとなりました。
前年の1986年2月、長年にわたり黒澤満や独立プロの作品を配給してきた東映セントラルフィルムが解散し、これによってこれまで洋画の配給が中心だった東映クラシックフィルムは、独立プロなどが製作した日本映画の配給も増加します。
1987年6月、フィルム・クレッセント製作、寺尾聡主演『星の牧場』(若杉光夫監督)を配給しました。
10月21日からは東映ビデオ製作の梅田香子原作『勝利投手』(芝田浩樹監督)と吉田聡原作『湘南爆走族Ⅲ』(西沢信孝監督)、2本のオリジナル・アニメを配給します。
この2本はビデオ販売を主目的にその宣伝のために劇場公開したものでした。
11月、東映クラシックフィルムは、幻燈社の前田勝弘が製作した今井美樹主演『アラカルト・カンパニー』(太田圭監督)と名取裕子主演『愛はクロスオーバー』(栗原剛志監督)の2本立て作品を配給します。
東映クラシックフィルムが初めて配給した日本映画『湾岸道路』(1984年9月公開)も前田が企画製作した作品でした。
1988年度 東映クラシックフィルム配給作品
東映クラシックフィルムは、1988年2月、徳間書店他製作、田中芳樹原作『銀河英雄伝説外伝/わが征くは星の大海』(石黒昇監督)、ムービック他製作『恐怖のバイオ人間 最終教師』(芦田豊雄監督)、2本のアニメ映画を配給します。
3月にはイギリスの小説家クライブ・パーカーが監督した『ヘル・レイザー』とアメリカのマイケル・ゴ―ニック監督によるオムニバス映画『クリープ・ショー2 怨霊』、ホラー映画2本立てを公開しました。
前作の『クリープ・ショー』はスティーヴン・キングが脚本を書き、ジョージ・A・ロメロが監督したオムニバスのホラー映画で、シリーズ第2作の今回はロメロが脚本を書き、前作の撮影監督だったゴ―ニックが監督しています。
また、魔導士ピンヘッドがインパクトを与えた『ヘル・レイザー』も人気を集めシリーズ化、現在まで12作続く人気シリーズとなりました。
4月には東北新社と共同でアル・パチーノ主演のイギリス映画『レボリューション めぐり逢い』(ヒュー・ハドソン監督)を配給します。
5月、漫才師の横山やすしが企画・製作・レース場面監督・出演の4役を担当した『フライング 飛翔』(曽根中生監督)を東映と共同で配給しました。
日本船舶振興会の笹川良一が製作協力したこの作品は、堅実な成績をあげます。
7月、東芝映像ソフトがビデオ販売するアメリカ映画『ティーン・ウルフ2/ぼくのいとこも狼だった』(クリストファー・レイチ監督)とトーマス・ハウエル主演の青春映画『サマー・デイズ』(ピーター・ダグラス監督)を配給しました。
10月には人気のオールディーズライブハウス「ケントス」が製作した青春映画『この胸のときめきを』(和泉聖治監督)公開します。
全国に展開するケントスに集まる若いファンを集めました。
またこの月、シネマスクエアとうきゅうにてイタリア映画『流されて2』(リナ・ウェルトミューラー監督)を公開します。
同監督の前作『流されて』は1978年5月に東映洋画配給部が配給しました。
1989年度 東映クラシックフィルム配給作品
1989年1月、バンダイ、若松プロダクション他製作のオムニバス映画『キスより簡単』(若松孝二監督)とバンダイ他製作『とっておきVirgin Love 童貞物語3』(福岡芳穂監督)を配給します。
同日、鈴木則文監督設立の独立プロアジャックス製作の佐藤浩市主演『文学賞殺人事件 大いなる助走』(鈴木則文監督)も公開しました。
4月に『カンフーキッド・続集』(チェン・チー・ホワ監督)を配給した東映クラシックフィルムは、同月、東芝映像ソフト製作の『変幻退魔夜行 カルラ舞う! 奈良怨霊絵巻』(石山タカ明監督)と士郎正宗原作『ドミニオン』(真下耕一、石山タカ明監督)、2本のアニメ映画を配給します。
9月にはマルコ・ベロッキオ脚本監督ホラーミステリー映画『サバス』を公開しました。
10月に再び東芝映像ソフト製作の喜多嶋隆原作世良公則主演『CFガール』(橋本以蔵監督)とテレビドキュメンタリーを劇場用に再編集した映画『カルガモさんのお通りだ』(佐藤孝吉監督)を配給した後、11月11日、ユピテル・コミュニケーションズ・インターナショナル製作椎名桜子原作・監督『家族輪舞曲(ロンド)』を配給します。
この月18日にはゴールデン・ハーベスト社製作のユン・ピョウ主演のアクション映画『検事Mr.ハー 俺が法律だ』を公開しました。
同日公開、倉田保昭が企画製作・主演した香港との合作映画『ファイナルファイト 最後の一撃』(後藤秀司監督)も配給しています。
12月にはパトリック・スウェイジ主演のSFアクション映画『スティール・ドーン 太陽の戦士』(ランス・フール監督)を公開しました。
1990年度 東映クラシックフィルム配給作品
1990年2月、東北新社と共同でマット・ディロン主演『カンザス カンザス経由→N.Y.行き』(デヴィッド・スティーヴンス監督)を配給します。
この後、3月、モーリス・ドリュオン原作フランスとの合作アニメ映画『チスト みどりのおやゆび』(丹野雄二監督)を公開しました。
8月にはアジャックス製作『びんばりハイスクール』(鈴木則文監督)と、東映と共同でサモ・ハン・キンポー製作、ユン・ピョウ主演『ユン・ピョウ in ポリス・ストーリー』(チェン・タン・チュウ監督)を配給します。
9月、角川書店他製作のアニメ映画『ロードス島戦記』と『天上編 宇宙皇子』、11月3日、マコ・エンタープライズ製作、和久井映見主演『タイガースメモリアルクラブバンド ぼくと、ぼくらの夏』(小平裕監督)、23日から野村秋介が監修し若山富三郎最後の主演作『斬殺せよ 切なきもの、それは愛』(須藤久監督)を配給しました。
7.東映クラシックフィルムから東映アストロフィルムへ
1991年2月、テレビ東京製作若村麻由美主演『フィレンツェの風に吹かれて』(和泉聖治監督)を配給します。
5月3日、トミー・チョン監督・主演のコメディ映画『ファー アウト マンだ‼』、11日、中京テレビ他製作・中川安奈主演の青春映画『ふたりだけのアイランド』(すずきじゅんいち監督)を公開しました。
続けて5月25日、ホラー映画『ペンタグラム 悪魔の烙印』(ロバート・レズニコフ監督)を配給します。
この映画を最後に、6月1日付で東映クラシックフィルム㈱は発展的に解消、6月1日公開のアドベンチャー映画『テラコッタ・ウォーリアー 秦俑』(チン・ショウタン監督)、9日公開『ブロスBROS やつらはときどき帰ってくる』(トム・マクローリン監督)などから東映アストロフィルム㈱がその業務を引き継ぎました。
1980年代、東映ユニバースフィルム、東映クラシックフィルムは東映の映画事業にピンポイントで西洋アートの香りと恐怖、そしてエロスを残した会社でした。