㉟　第3章「躍進、躍進　大東映　われらが東映」

第5節「大衆娯楽主義　新東映城のお姫様」

　1953年、若手俳優を募集するために始まった「東映ニューフェイス」オーディション。そこから新たなスターが次々と生まれます。

　1953年10月に行われた第1期募集最終選考で、中原ひとみ（中原里子）、南原宏治（則武卯和二）、山本麟一（山本麟市）など男性7名、女性16名の計23名が選ばれました。

1953年11月5日発行東映『社報』第18号より　

　1955年7月に決定した第2期募集では高倉健（小田敏正）、今井健二（今井俊一）、五味龍太郎（五味勝雄）などの男優8名とともに、丘さとみ（菱田美恵子）など女性11名が入社しました。

1955年9月15日発行東映『社報』第33号より

　1956年4月の第3期募集では、里見浩太朗（佐野邦俊）、大村文武など男性9名に、桜町弘子（沖山真琴）、大川恵子（加古啓子）など女性20名が選出されました。

1956年6月11日発行東映『社報』第40号より

1956年11月10日発行東映『社報』第44号より

丘さとみ

　1953年3月、高校在学中に応募した「日本シンデレラ姫コンテスト」でミス・シンデレラに輝いた菱田美恵子は、翌年卒業後、コンテストを主催したRKOラヂオ映画社日本支社に入社し、支社長秘書に配属されます。

　1955年、菱田は映画館主からの紹介を通じて東映にスカウトされ、7月、ニューフェイス第2期生として入社、早速、京都撮影所に配属され、丘さとみと命名されました。

1956年7月10日発行東映『社報』号外より

　撮影所に入所するとすぐに撮影に入り、8月公開の内出好吉監督『御存じ快傑黒頭巾 新選組追撃』お照役で映画デビューします。

1955年『ご存じ快傑黒頭巾』内出好吉監督・お照役

　1955年『幻術影法師』丸根賛太郎監督・娘百合枝役

1956年『若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷』深田金之助監督・おみよ役

1956年『日輪太郎』松村昌治監督・亜矢姫役

　若手アイドルの伏見扇太郎の相手役を務めた丘は、健康的で愛くるしい容姿で人気を集め、高千穂ひづる、田代百合子の移籍もあり、続いて中村錦之助や東千代之介、大川橋蔵などの相手役として、お姫様やおきゃんな町娘など様々な役柄を演じ活躍しました。

　それらの作品を通じて数多くのファンを獲得、1957年に雑誌『平凡』の人気投票でベストテン入りを果たし、連続6年にわたりそこに名を連ねます。

1957年『旗本退屈男 謎の紅蓮塔』松田定次監督・お千賀役

1957年『大菩薩峠』内田吐夢監督・お松役

1958年『清水港の名物男 遠州森の石松』マキノ雅弘監督・夕顔役

1958年『裸の太陽』家城巳代治監督・森田ゆき子役

1959年『大菩薩峠 完結編』内田吐夢監督・お松役

1959年『あばれ大名』内出好吉監督・多恵役

1960年『暴れん坊兄弟』沢島忠監督・津留役

1960年『天保六花撰 地獄の花道』マキノ雅弘監督・三千歳役

1960年『危うし！快傑黒頭巾』松村昌治監督・曹麗花役

1961年『新吾二十番勝負』松田定次監督・由紀姫役

1961年『剣豪天狗まつり』小沢茂弘監督・磯姫役

1961年『宮本武蔵』内田吐夢監督・朱美役

1961年『若さま侍捕物帖 黒い椿』沢島忠監督・お君役

　時代劇映画が陰り始めた1962年、東映の専属を離れ、フリーとしてテレビの現代劇に積極的に出演しながら、東映映画にも出演を重ねます。

1962年『若き日の次郎長 東海道のつむじ風』マキノ雅弘監督・お蝶役

1962年『あの空の果てに星はまたたく』関川秀雄監督・堀本早苗役

1962年『紀州の暴れん坊』中川信夫監督・おいく役

1962年『血文字屋敷』工藤栄一監督・園絵役

1963年『勢揃い東海道』松田定次監督・光駒役

1963年『血と砂の決斗』松田定次監督・奈々役

1963年『十三人の刺客』工藤栄一監督・おえん役

1964年『人斬り笠』松田定次監督・おれん役

1965年『色ごと師春団治』マキノ雅弘監督・お千代役

1965年『蝶々雄二の夫婦善哉』マキノ雅弘監督・綾子役

1965年『任侠木曽鴉』工藤栄一監督・関のお六役

1965年『宮本武蔵 巌流島の決闘』内田吐夢監督・朱美役

　1965年12月、丘さとみは結婚のため、『宮本武蔵 巌流島の決闘』を最後に芸能界を離れました。

　丘さとみは1955年から10年余りの俳優生活の中で、148本の東映映画に出演し、東映時代劇映画に花を添えました。

1955年第2期ニューフェイス丘さとみ

桜町弘子

　1956年、沖山真琴（臼井真琴）は高校卒業後の4月、第３期ニューフェイスに合格します。

1956年10月10日発行東映『社報』第43号より

　半年間の研修後、京都撮影所に配属され、翌年1月公開の『大江戸喧嘩纏』佐伯清監督に松原千浪という芸名でデビューしました。

1957年『大江戸喧嘩纏』佐伯清監督・お妙役

1957年『ふり袖捕物帖 ちりめん駕籠』松村昌治監督・その江役

1957年『隼人族の叛乱』松田定次監督・奈津役

1957年『上方演芸 底抜け捕物帖』松村昌治監督・お八重役

　そして、『ふたり大名』深田金之助監督から桜町弘子と改名し、量産される東映プログラムピクチャーに様々な役柄で出演しました。

1957年『ふたり大名』深田金之助監督・琴姫役

1957年『忍術御前試合』沢島忠監督・さぎり役

1958年『直八子供旅』佐々木康監督・お新役

1958年『鶯城の花嫁』松村昌治監督・竹姫役

1958年『旗本退屈男』松田定次監督・菊路役

1959年『丹下左膳 怒涛編』松田定次監督・お艶役

1959年『忠臣蔵 桜花の巻 菊花の巻』松田定次監督・おかる役 

1959年『美男城』佐々木康監督・千草役　

1960年『丹下左膳 妖刀濡れ燕』松田定次監督・萩乃役

1960年『水戸黄門』松田定次監督・糸路役

1960年『嫁さがし千両勝負』小沢茂弘監督・お澄役

1960年『若さま侍捕物帖』佐々木康監督・おいと役

1961年『新吾二十番勝負』松田定次監督・お縫役

1961年『赤穂浪士』松田定次監督・お咲役

1961年『橋蔵の若様やくざ』河野寿一監督・お雪役

1961年『幽霊島の掟』佐々木康監督・初絵役

1961年『反逆児』伊藤大輔監督・花売り娘しの役

1961年『権九郎旅日記』工藤栄一監督・由利姫役

1962年『お姫様と髭大名』工藤栄一監督・雪姫役

1962年『右門捕物帖 紅蜥蜴』松田定次監督・お志乃役

1962年『血文字屋敷』工藤栄一監督・お妙役

1963年『勢揃い東海道』松田定次監督・おすず役

1963年『旗本退屈男 謎の竜神岬』佐々木康監督・菊丸役

1963年『中仙道のつむじ風』松田定次監督・真壁志保役

1963年『狐雁一刀流』松村昌治監督・おたい役

1963年『柳生武芸帳 片目水月の剣』長谷川安人監督・静役

1963年『右門捕物帖 蛇の目傘の女』河野寿一監督・おりん役

1963年『新吾二十番勝負 完結編』松田定次監督・お縫役

1963年『銭形平次捕物控』平山亨監督・お夏役

1964年『風の武士』加藤泰監督・ちの役

1964年『集団奉行所破り』長谷川安人監督・お駒役

　時代劇映画が任侠映画に変わってからも桜町はやくざの姐さんや芸者などの役で出演を続けます。

1966年『骨までしゃぶる』加藤泰監督・お絹役

1967年『懲役十八年』加藤泰監督・石岡比佐子役

1968年『侠客列伝』マキノ雅弘監督・お仙役

1968年『博奕打ち 総長賭博』山下耕作監督・おつや役

　桜町弘子は1993年の和泉聖治監督『民暴の帝王』で主演の小林旭の妻役を演じるまで146本の東映映画に出演し、東映男性スターたちの相手役として長きにわたり貢献しました。

1956年第3期ニューフェイス桜町弘子

大川恵子

　1955年、高校を卒業し名鉄デパートに勤務していた加古啓子は雑誌『平凡』のミス平凡に選ばれ、翌1956年、東映第3期ニューフェイスに合格しました。

1957年3月13日発行東映『社報』第47号より

　研修後、東京撮影所に配属され、社長の大川博に気に入られ大川恵子という芸名をもらい、1957年2月公開、榎本健一主演『とんちんかん八百八町』石原均監督に出演、映画デビューします。

　1957年『とんちんかん八百八町』石原均監督・お絹役

　次々作、小沢茂弘監督『多情仏心』で早くも主演佐野周二の相手役に抜擢されました。

1957年『多情仏心』小沢茂弘監督・お澄役

　気品のある古典的な美貌が時代劇に向いているとされ、この作品の後、京都撮影所に転属し、『さけぶ雷鳥（三部作）』内出好吉監督で主演尾上鯉之助の相手役を務めました。

1957年『さけぶ雷鳥』内出好吉監督・青池小百合役

1957年『若さま侍捕物帖 鮮血の人魚』深田金之助監督・うつぼ姫役

1957年『朝晴れ鷹』松村昌治監督・織江役

1957年『旗本退屈男 謎の蛇姫屋敷』佐々木康監督・立花浅茅役

1958年『神変麝香猫』小沢茂弘監督・由美役

1958年『緋ざくら大名』加藤泰監督・鶴姫役

1958年『千両獅子』内田吐夢監督・雪姫役

1958年『伊那の勘太郎』加藤泰監督・おせい役

1958年『怪猫からくり天井』深田金之助監督・お信役

1958年『殿さま弥次喜多 怪談道中』沢島忠監督・お小夜役

1958年『大岡政談 幽霊八十八夜』佐伯清監督・玉川小糸役

1958年『快傑黒頭巾』松村昌治監督・早苗役

1959年『丹下左膳 怒涛編』松田定次監督・弥生役

1959年『忠臣蔵 桜花の巻 菊花の巻』松田定次監督・内匠頭夫人役

　尾上鯉之助など若手スターの相手役を務め、美人女優として人気が上昇してきた大川は、伏見扇太郎を相手役として、隅田朝二監督『姫君一刀流』で初主演を飾り、姫君、若衆、武家娘、芸者、酌婦などの役柄を早変わりで演じました。

1959年『姫君一刀流』隅田朝二監督・義姫役

1959年『新吾十番勝負 第二部』小沢茂弘監督・お縫の方役

1959年『恋山彦』マキノ雅弘監督・お品役

1959年『江戸の悪太郎』マキノ雅弘監督・浪乃役

1960年『人形佐七捕物帖 般若の面』山崎大助監督・お照役

1960年『草間の半次郎 霧の中の渡り鳥』内出好吉監督・おけい役

1960年『暴れん坊兄弟』沢島忠監督・千賀役

1960年『水戸黄門』松田定次監督・継の方役

1960年『素浪人百万石』松村昌治監督・美乃役

1961年『赤穂浪士』松田定次監督・瑤泉院役

1961年『八荒流騎隊』工藤栄一監督・刀根役

1961年『橋蔵の若様やくざ』河野寿一監督・鶴江役

1962年『故郷は緑なりき』村山新治監督・雪子の姉富代役

1962年『暴れん坊一代』工藤栄一監督・おきく役

1962年『きさらぎ無双剣』佐々木康監督・志乃役

　時代劇映画の衰退が言われた1962年、大川恵子は結婚を機に『きさらぎ無双剣』佐々木康監督を最後に芸能界から引退しました。

　大川恵子は1957年のデビューから1962年に引退するまでの5年強の間に93本の東映作品に出演、お姫様役が良く似合う、その美しい姿は今も東映時代劇の中で生き続けています。

大川恵子

　1957年に高千穂ちづると田代百合子が東映を去った後、ニューフェイス出身の丘さとみ、桜町弘子、大川恵子の三人は、大友柳太朗、東千代之介、中村錦之助、大川橋蔵、伏見扇太郎、尾上鯉之助など東映スターの相手役を務め、新たに「東映城のお姫様」と呼ばれました。

　三人のお姫様は1958年松村昌治監督『鶯城の花嫁』で大川の松姫、桜町が竹姫、丘は梅姫として共演しました。