椿
私ごとだが、髪には天然の椿油を使っている。
なんだか長いまっすぐな黒髪を想像してしまうかもしれないが、当然そんなわけはない。生まれついてのいわゆる天然パーマで、かつ剛毛。おまけに髪の量が著しく多く、ひとつの毛穴から通常の2,3倍発毛している。髪の毛を伸ばそうものなら、固く太く頑固に強い捻じりを伴って巻いた髪の毛が、引力に逆らって上へ上へと伸びてゆく。そのさまはまるで、
「とうもろこしみたい」
だそうな。
このとうもろこしを頭につけた幼児の写真は、結婚の折スライド映像で公開され、可愛らしい幼少期映像を期待していた披露宴出席者に悲鳴をあげさせ、涙を流して腹をかかえるほど苦しませることになってしまった。まことに不徳の致すところである。
結婚生活も4年を迎えたころ、中古住宅を購入した。当時、水に関係の深い仕事をしていたせいで、戸建を手に入れるときは「水」にお金をかけようと決めていた。活水器、軟水器なるものを導入し、とどめに口に入るものには電解水素水を使うように整えた。
そのおかげか、オンボロ住宅の水道の赤さびが止まり、水回りに水垢がつかなくなり、肌もつっぱらなくなり、出汁もよく出るし野菜やごはんがおいしくなった。なにより腸の具合も文字通り快腸で、体調が崩れることもほとんどない。天然由来の石鹸がしっかり泡立つのでシャンプーもボディソープもいらなくなり、洗濯は化学洗剤をやめ重曹を使うことにした。そうして、肌に触れるものをすべてオーガニックコットンなど天然由来のものへ刷新した。
椿油も、その一環だ。
椿油は、奈良時代の女性が髪を整えていたと文献に記述が残っているほど、昔から日本人に親しまれてきたという。オレイン酸が豊富とのことで、そのせいか髪と肌になじみやすいように思う。
「巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を」
とは令和元号でにわかに脚光を浴びた万葉集、巻第一の歌番号五四、坂門人足なるお方の歌。奈良県御所市の東にある「巨勢山」(行ったことも見たこともないが)に、椿の花が咲き乱れるさまに思いを馳せ歌ったものだそうだ。
ミヤビですな。
齢も半世紀を超え、年のせいか近年頑固だったとうもろこしもスッカリ勢いがなくなり、椿油さまのいうことをおとなしく聞くようになった。
さびしい限りだが、もう他人様を涙させるようなこともないのだろう。
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