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スキーインストラクター#1

昔の大学生はチャラかった。

チャラいことが大学生の証であるかのように、チャラさを競っていた。チャラ男でなければモテない。少なくとも僕は、そう、固くかたく信じていた。




現役受験に失敗し、理系だったぼくは浪人途中でモテる大学生=チャラい法則に気づき、ヒラリと文系に転向した。いわゆる文転である。理系は通称「ネクラ」と呼ばれ、チャラい大学生にはなれないのだ。そうやって、映画「私をスキーに連れてって」が僕の大学生活の方向性を決定付けたのだ。

スキーだ。スキーで勝負しよう。




小学生の頃から偶然スキーの心得があった僕は、白銀の王子様になることに決めた。

大学入学後、あっという間に到来した夏に丘サーファーたちの活躍を横目でグッと耐え忍び、秋の気配の人恋しさにオフコースを口ずさんで涙をこらえ、しっかり貯めたバイト代を握りしめて、いざ聖地神田へ。

ついに最新式スキー用具一式を購入したのだ。

春先に大学の授業のオリエンテーションをスルーして、スキーサークルへの入会を済ませておいたので、無事、つてのあるスキースクールへインストラクターとして参加することに成功した。




ホイッ♪スキーインストラクター

キタキタキタキタ北千住~♪

♪スキーインストラクター

ゲレンデの王者~♪


              作詞作曲 藤堂哲

ゲレンデはファンタジーの世界。スキーが上手ければすべてが許される世界である。

白銀の王国には、きっときっと、素敵な出会いが待っているに違いない。




雪国からの便りが届き、先輩にいいようにシゴかれたチーム合宿が終わると、いよいよ期待のインストラクター生活だ。胸どころか色んなトコロに期待を膨らませ、スキー学校で働きはじめた。毎朝、今日の出会いにワクワクしながら凍ったタオルで顔を拭いたものだ。

しかし、目論見は2週間で頓挫する。スキー学校へ教わりにくるのは、おじさんやおばさんと子どもばかりなのだ。託児所と化したスキースクールで、明けても暮れても子どもと雪合戦の日々。雪だんごの集中攻撃を受けたびしょびしょの背中に、ゲレンデに流れるユーミンの「ブリザード」が切ない。




そんなときであった。関西の女子高の学校行事が入ったのは。

ゲレンデを見上げると、ダイヤモンドダストが舞っているじゃあないか。見てごらん、哲。あれはきっと、キラキラと輝く天使の舞だよ。

ぶつぶつと独り言を云っている顔に雪だんごが命中したが、まったく腹が立たなかった。

つづく。

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