あしたの、ラプソディ・イン・ブルー

 あの日潮くんが皐月(さつき)ちゃんの前で絞り出したことばを、わたしはきっと忘れることができない。潮くんはいまにも泣きそうに俯いていて、皐月ちゃんは、なにか不思議なものでも見るような瞳で彼を眺めていた。ちいさなからだとその両腕に、わたしにはほとんど読めない五線譜と音符をたくさん抱えて。三階の廊下の窓が結露していた、高校三年の冬の朝。雫は窓ガラスをなぞって落ちていったけれど、潮くんはまだ唇を噛んだままだった。

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