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きゅーのつれづれ その7

夕立:

がらがらがしゃーん。
轟音と一緒にカオリが部屋に飛び込んできた。赤いシャツが大粒の雨で水玉模様に変わっている。
「びっくりしたぁ。すごい雨だよ、きゅーちゃん。外にいたらかみなりに打たれちゃうかもよ」
タオルでぬれた足を拭いていると、次の稲光りが真っ暗なキッチンまで突き抜けた。
ごろごろごろごろ。
かみなり雲の転がる音がする。かみなりは苦手だ。もしもかみなりに打たれたら、粉々に割れちゃうかもしれない。不安で縮こまってるぼくを、ブーコがにやにやと見てる。自分だってぶつけたら割れちゃうくせに。
カオリは買い物袋からお弁当を出すとテレビのスイッチを入れた。と、ぷつんと小さい音がして画面も部屋も暗くなった。
「やだ、停電」
ぼくは暗いのには慣れているけど、カオリは苦手なようだ。玄関に置いてあった懐中電灯を持ってきてテーブルに置いた。白い壁の真ん中だけが照らされて、その周りの物はすべて色を失っていく。弁当が余計に味気なく見えると思ったけれど、カオリは意外と楽しげに箸を運んでいる。絶え間ない雨音と暗闇を裂く光が、BGMとライトアップででもあるかのように。
「そういや、隣の職場にね、かみなりさんて名前の人がいるんだよ」
カオリが話し出した時、部屋の電灯がぱっと点き、テレビも生き返った。
かみなりはさっきよりも遠ざかったみたいだ。
「なんだ、もう終わっちゃった」
カオリはさして惜しくもなさそうにつぶやくと、弁当の脇に置いてあった小銭をブーコの背中の穴から落とし込む。ちゃりん、ちゃりんと一枚飲み込むごとに、ブーコはうれしさに身震いする。
(ひゃくえーん、じゅうえーん、ご・えーん!)
 引っ越していらいの小銭だから、とびきりおいしそうだ。
カオリは弁当の空箱を手にキッチンへ立った。懐中電灯、消し忘れてるよ。シャツはまだ水玉模様のままだ。テレビの天気予報が、明日は晴れると告げている。

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