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きゅーのつれづれ その8

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せっかくの休日なのに、今日も朝からざあざあ降りだ。
しばらく洗濯をさぼっていたせいで、部屋は色とりどりの洗濯物で大にぎわい。
カオリは赤に白の水玉シャツをしきりと気にしている。
「こんなシャツ、あったっけ?」
こないだまでただの赤いシャツだったのを忘れてるんだ。だからってよその洗濯物が紛れ込むわけもないので、カオリは無理やり自分を納得させた。
「きっとずいぶん前に買ったんだね」
そうじゃないよ、と声をかけたけど、カオリは背中を向けたまま。いつものことだ。カオリが耳を澄ましてれば、まれに届くこともあるんだけど、たいていぼくの声が通り越してしまう。まあ、耳が良すぎて何でもかんでも聞こえたら頭がおかしくなっちゃうさ。
インターホンが鳴った。
「トウラさーん」
隣のミズノさんだ。ワンピースは紺地に白い水玉模様。片手にさげた傘から流れ落ちる水が、玄関をひたひたと黒く染める。三和土に黒い丸が広がっていく。
「雨続きで困るわよねえ、これ、間違ってうちのポストに入ってたの」
と差し出した水色の封筒も、端が少しぬれていた。
ミズノさんが帰ったあとも、カオリは玄関に立ったままその封筒をなめるように見つめていた。裏返したり戻したり、透かして見たり。ここからカオリの表情は見えなかったけど、すごく興奮してるんだとわかった。それもとても楽しみなことだ。だって、両方のかかとが上がったり下がったり、ジャンプしたいのを必死で我慢してるから。

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