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越境

たどり着いたのは、世界の端っこ。
この先には何があるのか。何もないのか。ずっと、確かめたいと思っていた。こんな形で答えを見ることになろうとは。

今日でこの世界は終わる。
バタンと本を閉じるように一瞬ですむのか、地獄の業火に永遠に焼かれるのか、誰もわからない。もしかしたらこれは大がかりな集団催眠か何かで、目覚めたらいつもの朝だったという可能性だってある。いや。たぶん、それはない。口では笑っていても、笑顔の裏では誰もが察している。我々がいるのが最後のページなのだと。終わりはいつだって唐突だ。

かつての住宅予定地に残された謎のクレーター。巨大な穴の底は暗くて覗けない。いろんな物が放り込まれたが、その行方は確認されていない。まだ人は誰も降りたことはない。
地球の奥底へ、あるいは次元の境目に続いているのだと噂された場所に、私は一人きりで膝を抱え、風のうなりを聞いている。

皆と一緒に静かに、または馬鹿騒ぎしながら終わりを待つには私は孤独でありすぎる。誰かの隣にいながらも、いつも違和感を抱えて生きてきた。せっかく自分で選べる最期の最後の選択に、居心地の悪いほうを選ぶ理由がある? 私が選択するのは与えられる死ではなく、能動的な探究だ。


涙が乾くのを待って、立ち上がる。

目的は果たされる。向こうに届くことが出来れば。
私はクレーターから少し離れ、わずかに息を吸い込む。そして駆け出す。世界の終わりの境界を飛び越える。えいやっと。




    や 


          っ




<終>




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