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かぞかぞ⑤ パパからの「大丈夫」という言葉

ソファーに横たわる耕助(錦戸亮)の横顔がトップカット。「家族だから愛したんじゃなくて、愛したら家族だった」は、丁寧に仕上げられているので始まりと終わりは必ずリンクしている。今回もそうだ。

良い環境(脚本、演出、スタッフなど)で演じると、どの役者も輝き、新たな魅力を発揮するものだが、「かぞかぞ」はまさにそれだと思う。毎回、知っている 役者/俳優/演者 のステキな面や、存じ上げなかった役者を知れたりする「お得」なドラマでもある。

七実を演じる河合優実

今回の七実役は、原作者の岸田奈美さんをモデルにしているはずで、岸田さんがどんな喋り方、動きをするのか、ボクは見たことがないけれど、河合優実は、見たことのないキャラクターを演じている。それは、一風変わった独特すぎる役作りでその動きといい、喋り方といい、回を重ねるたびにエスカレート(お辞儀の仕方、独創的でモダンダンスレベル😆)し、実生活では見たことのない人物になっている。
七実はある意味、マンガ的キャラにみえるから、あそこまで演ると、普通「演じすぎ~ウソ臭い」と引いてしまいそうになるはずだが、七実はホンモノに見える。キャラの芯や目的がしっかりしているから「きっとこんな子や、めっちゃ一生懸命や」って信じさせる説得力が凄い。しかも、笑いと同時に感動まで持っていける。この場面でそれを痛感した。

七実(河合優実)は、ルーペの広報として頑張って働いている。日々、沢山の失敗を重ね、謝罪して回る様子が実にコミカルに描かれる。面白い。しかも、七実は精算もうまくできず「やる気一杯!要領悪し!」で、社内の不評もかっているが、時折、ヒットを飛ばす。

「テレビの情報番組でルーペを紹介してもらえる」仕事を射止めた。それも「トレンディエンジェルのたかし」が紹介してくれる、というので社内は一気に盛り上がる。「あのたかしさんが!!」「すごい!」と必要以上に「たかしは凄い!」と盛りあげる「たかしイジリ」が更に笑いを後押しする。絶妙なキャスティングだと感心。

そして生放送の本番。「たかしのチェケラッタ情報局」コーナーのオンエア中、七実はすでに感激で感無量な様子。大阪の実家でテレビを見守る家族~母ひとみ、おばあちゃん、草太、耕助。たかしが微妙な面白さでハキハキと喋る中、カメラが回り込み、見切れないように逃げられなかった七実がテレビ画面に見切れた~たかしは、機転を利かせ七実をいじる。

【屋上 ロケスタイルで生放送中】
たかし「この、アプリを開発された、ルーペの広報担当、岸本さんです!イェー(拍手)どうやら、ボクのファンだから泣いてる」
七実「(ガチ泣きしながら、鼻声で)ファンではないです」
たかし「ちがうんだ、好きな芸人さんとかいるの?」
七実「うぇーん、い~ます~」
たかし「だれ?」
七実「でも(たかしさんとは)ちがいます~」
たかし「そう、オレ以外だ」
【実家】 ウサギ剥きしたリンゴを食べながら
ばあちゃん「ヨシ!(膝叩いて)爪痕のこした!」
草太「七実ちゃーん」
耕助「七実ちゃん」
草太「面白いね~」
耕助「面白いです」
草太「最高です」
耕助「最高です」
ひとみ「これ大丈夫なん?」
【泉(耕助の元秘書)】個人オフィス
泉「(コンビニ弁当食べながら)大丈夫ちゃうやろ」 
【屋上】
たかし「大丈夫じゃないの?」
七実「(泣きながら)大丈夫です」
たかし「ボクに会えたのが嬉しいんだよね!」
七実「ちがいます!」
たかし「ちがうのか~」
七実「あの~!!」
たかし「うん」
七実「ルーペは、虫メガネみたいに…社会に…足りないこととか…未来に必要なことを(息を詰まらせ)…発見する、お手伝いをします!(と人差し指をカメラに向ける)」
たかし「そう、しまーす!お手伝いをね!」
《絵は、耕助(錦戸亮)がかつて起業した仲間たちと一緒に笑顔で写る額に入った写真に切り替わる。耕助の隣には相棒の泉がいる》
七実(声)「します!」
たかし(声)「ね!ボクに会えたのが嬉しくて泣いてるんだよね」
七実(声)「それは違います」

かぞかぞ⑤から抜粋
たかしのチェケラッタ情報局

笑いながらみていたボクは、七実の「ルーペは、虫メガネみたいに…社会に…足りないこととか…未来に必要なことを(息を詰まらせ)…発見する、お手伝いをします!(と人差し指をカメラに向ける)」という部分で、激しく感動し涙が込み上げてきた。河合優実は、決して人を笑かそうなんてせず、実直に、必死に生きる七実の心情を実直に演じてるからこそ、その場面だけではなくそこに至った七実の数々の想いを胸中に重ねて演じているからこそ、人の胸を打つのだ。技巧に見えない天然の超絶的演者、とでも言おうか、素晴らしい。大久明子Dの手腕も、河合優実との相性もバッチリだ。七実のセリフのバックに、気づかない位の音量で薄くピアノ劇伴を挿入してあった(二度見して気づいた)無理やり盛りあげない姿勢、さすがです。

ドラマ制作は、ついPやDに注目がいくけれど、典型的な集団作業だから、チームに誰がいるかでドラマのディテールや質感は変化する。ADさんの作りもの(劇に登場する雑誌、新聞、ポスター、パンフレット)や用意する弁当(美味いかマズいかで全員の士気に影響したり、役者の演技に影響したりもw)、衣装メイクさんの仕事はモチロン、何気ない会話で作られる空気感は特に演技に影響する(人間だから)、スタッフひとりひとりが重要なファクターとなる、長丁場になる連ドラの場合は特にそうだ。「かぞかぞ」においては、草太担当の俳優、安田龍生さんの存在は特に大きいはず。ダウン症の方と仕事をした経験はまだないけれど、メイキング映像などでうかがい知る限り、なかなか大変でやり甲斐のある仕事だと思う。安田さんのやり方ひとつが凄く影響すると思う。ご自身も俳優なので、草太役を自分の中で演じながら、周りの動きに神経を使いながらやっていると思う。その結果が、七実ちゃんや錦戸パパとのやり取りに出ていると思った。すごく草太のことを好きなんだろうなぁ。出演もされるようなので楽しみです。
安田さんのInstagramに草太とのエピソードが色々書いてあります😄☟

錦戸亮

改めて触れなくても皆、分かってることやけど、今回の錦戸の演技アプローチは一番好きかもしれません。パパ大好き、草太大好き~などの草太とのペア感しかり。「七実は面白いから日本中に、いや世界中に友だちができるで」「まだ誰もしたことがない仕事、七実ならできる」などのセリフも少しも誇張せず、自然な口調で言う。真意がぜんぶ増し増しで伝わってくる、錦戸マジックとか、錦戸メソッドとかいうと亮は嫌がると思うけど(とか言いながら言ってるし 笑)その「まんま感」は唯一無二やと思う。いい役者や。

耕助と七実

塾帰りを愛車VOLDOで迎えにいった車内で、「みんなの仕事300」という本を七実に渡して
耕助「受験勉強の前に、将来の夢を考えろ。ここに載ってない仕事な」
七実「は?」
耕助「まだ誰もしたことない仕事さ、七実ならできる」
七実「意味分からん」
笑う耕助

かぞかぞ⑤

VOLDOへの耕助の愛着は、奈美さんのお父さんの愛車VOLVOへの強い想いを踏まえてのことのようです。VOLVOを売らなければならなかった状況もあり、印税などで再びVOLVOを購入したエピソードが世界的な反響にもつながったということです。お父さんのVOLVO愛好家っぷりは、結局「家族を喜ばせたかったんだと思う」と奈美さんは語っていました。10話という制限の中に、岸田家の様々なエピソードを、工夫して反映してある実に愛情深いドラマなんだなぁ、と改めて思い知りました。だから「かぞかぞ」は面白いんだ、と思います。

早織 小林リュージュ

かぞかぞを見ていると、ちゃんと存じ上げなかった役者陣が毎回、登場するのも楽しみの一つ。終盤、七実をインタビューするWEBマガ編集者を演じた小林リュージュも良かった…ワンポイント出演だと、つい意気込んで演じすぎることがあるが、この人は、実に自然にいい塩梅で泣いていた。きっと、七実が演じやすいように、という意識がある役者なんだと思う。だから必然的に七実もいい演技をしていた。キャッチボールで昂った感情をダイレクトに受けつつ、自分も泣いてまわぬようキモチを押し殺して返していた。

余談だけど、玉置浩二がデュエットする際は、徹底的に相手をたてる。声量や節回し、佇まいすべて、相手を引き立たせて歌う。歌唱力に差があればあるほど魅力的に相手を立たせる。それを見聞きする観客は夢見心地になる。玉置さんとは90年代に、日曜劇場「メロディ」でご一緒し、小泉今日子とのキスシーンで「台本にないセリフをマイクが拾わない音量で耳元で囁いたらどうだろう?」と相談したら実にうまくやって、本番でキョンキョンはポッポロ涙を流し、メチャいいキスシーンが撮れた(笑)。カットをかけたら「も~何やってんの~」と嬉しそうに文句を言い、玉置さんと一緒に腹を抱えて笑ったことがある。その時も、玉置さんは相手役を立たせる時に一番、実力を発揮していたし嬉しそうだった。「芸」に必要不可欠な要素だと思う。かぞかぞでも、皆さんそれをやっている。錦戸も草太に対しては特にそれを徹底している。余談が過ぎました💦 小林リュージュさんは鈍牛倶楽部所属と知り、相変わらずいい役者を揃えている、と思いました。

小林リュージュ 早織

いずみ「何か困ったことでもあんの?」
七実「私が迷惑かけてるんです。信頼ゼロで、頑張っても裏目に出てばっかで、どうしたらいいか分からんくて」
いずみ「信頼か・・・」
七実「どうしたら手に入るんですかね」
いずみ「信頼を勝ち得るにはココ(ハート)が強ないと」
七実「精神論やん」
いずみ「あかんか?社長(耕助)ってな、何かするとき『それってオモロいんか?』っていつも言うてたやろ?」
七実「家でもよう言うてたような気がする」
いずみ「せやろ。社長も起業して苦労してたから『まず自分も相手もオモロいって気持ちになるか考えろって。シンプルなんやけど、オモロいか?オモロくないか?って。二択やと、何かみえてくるもんがあって役に立ってん
七実「わたし、パパが教えてくれたこと思い出さんようにしてました」
いずみ「七実ちゃんの中には社長が生きてるで」
七実「ほな、大福食べたら喜ぶかな?」
いずみ「喜ばはるわ」

かぞかぞ⑤

いずみを演じた早織さんも、社長との歴史や時間を感じさせ、七実に対してもフラットに対峙している佇まいがとても魅力的だった。七実に優しくし過ぎないのが、とてもいい。素敵な役者さんだと思った。後日、ヨーロッパ企画の俳優、諏訪雅くんや石田剛太くんから聞いたんですが、早織さんはもうすぐ公開されるヨーロッパ企画の映画「リバー流れないでよ」(原案・脚本 上田誠、監督 山口淳太)や、秋の本公演「切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック」にも出演するらしいので楽しみです。

山根「NETメディアHOPEの山根と申します。今日はルーペでの活動を中心に伺えれば、と思います。もともとルーペに参加されたきっかけは?」
七実「もともとは、母が高校生の時に車椅子になったんです」
山根「あ…っと、つまり障害者について考え始めたのはお母さんが初めてというわけですね?」
七実「ああ、弟がダウン症なので、そうでもないんですけれど」
山根「あ、と、では、え、、お母さんが車椅子になってからは、お父さんと支えあって」
七実「父は中学生の時に亡くなってるんです」
山根「え・・・すみません、、(動揺)」
七実「いえ」
山根「そんな辛いことが多い人生だったんですか」
七実「いや、辛い事っていうか、ぜんぜん大丈夫なんですけど」
山根「分かんないな・・・どうしたらそんなに強く生きられるんですか?」
七実「ああ・・・父が亡くなる直前に、七実は大丈夫って言ってたらしくて、言霊っていうんですかね、そう言い聞かせてたらホンマにそうなって、ああ泣いてもた」
山根「(涙を押さえながら)ああ、すみません(指も震えている)」
七実「いぇいぇいぇ(と、泣きそうになるのをグッと押さえて)あの、ルーペの話はいいんですか?こんな話オモロいですか?

山根「まず、読者の興味関心を集めることが一番なので。岸本さんの壮絶な人生は、様々な世代の、関心が集まることでしょうと思います」
七実「そしたら、話しますけど、ルーペの新サービスの話がしたいんで、注目が集まる記事にしてくださいね」
山根「ハイ、間違いなくします!(カメラマンに)顔のヨリも撮っといて」
七実「あっ(と、笑顔をつくる)」

かぞかぞ⑤

この後、会社で、経理担当に軽くからんだあと、WEB記事を見る七実。記事になったことを喜ぶ七実。見出しは、~悲劇だらけでも、大丈夫~、小見出しは、父からの「大丈夫」という言葉何でも乗り越えられる無敵のスーパーウーマン!...読んでいるうちに複雑な気持ちももたげてくる。
海の底の様なブルー照明の店内で働くマルチのカットが短く入り、風呂に浸かっている七実。

NET メディア HOPE

【浴槽】
七実「(ボソボソと)大丈夫、大丈夫・・・大丈夫、大丈夫」
走馬灯のように色んな言葉やイメージが七実に押し寄せる
WEBマガジンを読む七実
ひとみ「パパも七実は大丈夫って言うてたやろ」
パパが残したノート
七実「(ボソっと)悲劇だけでも大丈夫・・・悲劇だらけでも大丈夫、悲劇だらけでも、大丈夫」
と、浴槽にボチャッと頭を沈める
プールの中を泳ぐ七実のイメージ、マルチや、会社で失敗した自分を咎めるようなまなざしで見る人たちの視線、昔、耕助や家族で道端を歩いた時のイメージ、教室で先生がクラスメートたちに話している「岸本さんには障害のある弟の草太君で苦労している、学校にいるときは岸本さんを助けるつもりでみんなで草太君の面倒をみてあげて」「はーい」居心地悪くうつむいている小学生の七実、医者「12時55分、ご臨終です」ひとみ「耕助…」、ソファーに横たわる耕助に七実「パパなんか死んでまえ」、様々な場面で大丈夫と言う自分、沖縄の自分、沖縄の海で笑う耕助、、浴槽から立ち上がる

七実「大丈夫やない!(悲痛にさけぶ)大丈夫やない、ぜんぜん大丈夫やない、なんで死ぬ、なんで死ぬねん、はやく謝らせろ、大丈夫やない(暴れて泣き、また浴槽に倒れこんで)・・・パパ・・・パパ・・・会いたいぃ」
薄目が開いたまま亡くなった耕助の顔
ひとみ「耕助、耕助(泣く)」 七実もベッド横にいて
七実「パパ パパ (と泣く)」
《最後になってしまった会話が悪夢の様によみがえる》
耕助「うっとうしいなぁ」
七実「パパなんか死んでまえ」
ソファに横たわる耕助の背中
目を開く耕助 *トップカット
横で膝を抱えている七実
ソファで体を起こし七実を見つめ、後ろから抱きかかえる耕助
耕助「ごめんなぁ…」
朝陽が差し込む中、遠くから3回響いてくる打音とカラスの声
その音とともに消えていく耕助
一人残る七実
耕助の手を握る娘の手
耕助の一刺し指を握る赤ちゃんの小さな指

かぞかぞ⑤
親と子

浴槽で、泣き叫ぶ七実の姿は悲痛だけれど、彼女は亡きパパからの大きな愛情を感じてもいる。かぞかぞを5話まで見てきたボクらには、痛いほど七実の無念さ、寂しさ、悲しさなど全てがヒシヒシと伝わってくる。時系列通りに描くのではなく、色んな想い出と現在を行ったり来たりしてチョイ見せしていってくれるし、描き方がユーモアに包まれているから、見やすいうえに哀しい事とのギャップで感動も深まる。稀有なドラマだ。

人には誰でも大切な人がいる。大切な人が亡くなったあと、とり残された者たちはその喪失感とどう向き合うのか?どう乗り越えたのか?「かぞかぞ」で描かれている岸田ファミリーの生きざまから、毎回大いに勇気をもらっている。

七実の肩を抱く耕助 ごめんなぁ…


家族だから愛したんじゃなくて、愛したら家族だった
【出演】河合優実/岸本七実,坂井真紀/ひとみ,吉田葵/草太,錦戸亮/耕助,美保純/大川芳子,早織/いずみ,福地桃子/マルチ(天ケ瀬環),丸山晴生/首藤颯斗,奥野瑛太,古館寛治/TVP,たかし,小林リュージュ/NETメディアHOPE山根 ほか 草太担当:安田龍生
【原作】岸田奈美,【脚本】市之瀬浩子【演出】大九明子

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