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「峻嶮の訪灯~山峡の灯台~」

灯台訪問の魅力をお伝えする「訪灯シリーズ」。今回は海辺にあるイメージのある灯台とは一風変わった訪問の魅力をお伝えします。

 「訪灯シリーズ」はこちらでまとめて読めます
 有料マガジン(500円):灯台訪問を楽しむための六ヶ条

灯台の楽しみ方は様々ですが、その内の一つに「灯台訪問」があります。一般的な灯台のイメージは、風光明媚で視界のひらけた岬の突端にポツンと佇む白亜の灯台の情景を思い浮かべる方も多いでしょう。

しかし、灯台に至る道のりは様々で、全国津々浦々の灯台の中には険しい山中に設置されているものもあります。

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通常、灯台が本来備わっている機能的な側面から「人が行きやすい」「人が集まりやすい」場所には建てられていません。
灯台は大原則として「航海の危険があるところ」「船から見えやすい場所」に設置されています。

それは必然的に「人が行きにくい岬の先端」などであることが多くなります。時には「人が殆ど足を踏み入れない山の中にある断崖」であることも。

そんな灯台に全身全霊で立ち向かおう、という奇特な灯台マニアもいます。
※勿論、立入禁止区域や命の危険が及ぶ領域には踏み込みません

そこまでハードなものでなくとも、山の中に建てられている灯台というのは存外と多いものです。

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そもそも日本は四方を海に囲まれた国ですが、国土の3分の2が森林という自然豊かな地理・地形を有してもいます。そのため、沿岸部は必ずしも浜辺ではなく急峻な地形になっていることも多いのです。

「リアス式海岸(溺れ谷)」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、地形の部分的な沈水によって生じた樹枝状の入り江を持つ海岸です。谷が海面下に沈んで溺れ谷となっており、海岸付近の斜面は急で山地が直接海に迫ることもあります。

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国土地理院のデータベースによると、日本にはリアス式海岸が36ヶ所ほど例示されています。

 参考:(国土交通省)国土地理院 > 海の作用による地形

沿岸部の地形の特徴として、他にも「岩石海岸」「波食棚」「海食崖」「海岸段丘」などが特に沿岸部が急峻な地形です。いずれも、長い年月をかけて、海が陸地を削りとり形作った造形美です。

特にリアス式海岸は、四方を海に囲まれた日本の特徴的な地形として紹介されることもありますよね。

これらの地形の多くは自然の景勝地として、国定公園に指定されていたりもします。ただ、国定公園に指定されていることが「=人の訪れやすさを担保している」ことではなく、さらにその中でも灯台は孤高の存在として扱われていることも多々あります。

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そのような灯台は、中型の沿岸灯台であることが殆どで、そのような灯台訪問は時にトレッキングのように健康的で楽しく、時に命がけの登山のようにスリルと達成感を求める行為に近しいです。

目的の灯台に至るまでには無数の藪を搔き分けて、倒木を乗り越え道なき道を進み、数多の蜘蛛の巣を搔い潜りながら、時にはクマ除けの鈴を持ち野生動物たちとの遭遇にも警戒しつつ、一歩足を滑らせたら転落の危険のある岩場や崖をつたって近寄らなければいけません。

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人里離れたところにある灯台は海上保安庁の方が保守点検でしか人が訪れないような場所で、到達してみたらなんてことない普通の灯台(は言い過ぎですが)です。決して見栄えの良い状態で維持管理されている灯台ではありません。それだけは断言しておきます。

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それでもなお、灯台を目指すのは何故か。

それは秘境巡りや登山などに近い感覚なのかもしれません。お城や寺社仏閣であれば「人が集まること」を想定して建造されるので比較的到達しやすいでしょうが、山峡の灯台たちはそうではありません。

これは如何に自分自身の頭脳と身体を使って目的の灯台に至るかを試そうという挑戦心をくすぐります。

言い換えると「(自身の力で乗り越える)灯台へ至るプロセス」と「(どんなトラブルが発生するか分からない)偶発的なスリル」を楽しんでいるのだと思います。

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目的の灯台に至るまでに自身の欲求は充足されており、訪問した灯台は結果としての単なる"ご褒美"や"おまけ"なんだと思います。
だからこそ、変哲のない灯台でも外観以上の情動で愛でることができるのです。

日本の自然が織りなす風景美を堪能しながら、日本の先端にある灯台を訪ね、さらに自身の知恵と身体を全力で駆動させ汗をかく。

そんな灯台訪問を運動感覚で体験してみてはいかがでしょうか。

村上 記

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ちょっとした心構えの違いで灯台訪問が楽しい旅の思い出の一つに変わりますので、灯台を訪れる機会に思い出して頂ければ嬉しいです。

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年々その数を減らしている灯台を護るため、灯台を訪れる魅力などをお伝えするプロジェクト。灯台マニアの方のみならず、灯台のある風景を通じて地域の魅力を再発掘したり、地元の原風景を護りたいと願う方々の想いを大事にしていきたいです。