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絶対音感と移調楽器

新入生の皆さん、初めまして!吹奏楽団二年の宮崎です。
私は現在、応援部吹奏楽団に所属しているわけですが、吹奏楽に関しては中学の頃から続けており、長いこと楽器を触ってきました。友達に楽器を吹いているという話をしているとき、ときどきもらう反応が「じゃあ絶対音感あったりするの?」というものです。実のところ私は絶対音感を持っています。今回はせっかくなので、私が感じている絶対音感がどのようなものかご紹介したいと思います。
絶対音感とは皆さんご存知の通り、基準となる音を聞かずとも音の高さが分かる能力のことです。なぜ分かるのかと聞かれるとなかなか説明に困ってしまうのですが、私はよく「色」に喩えています。ちょっと実験してみましょう。下の画像を見てください。「?」がついている丸は何色か分かりますか?

多くの方はすぐに赤色と分かることでしょう。その通り、正解です。「なぜ赤と分かったの?」と聞かれても「そう見えるから」という他に説明のしようがないはずです。私にとっての音の高さも同じ感覚です。
「絶対」音感という名前なので、機械のように正確に音の高さが分かるのではと思われることがたまにあります。もちろんそういう人もいるとは思いますが、残念ながら私はそこまで正確には分かりません。ここでの「絶対」は「相対」に対する語なので、「比較しないで」という意味しか含まれておらず、正確さはまた別の話ということですね。そんなわけで、せっかく絶対音感があるというのに合奏で音を合わせるのはいつも苦労しています。

さて、ここまで絶対音感について紹介してきたわけですが、これは決して私が自分の能力を自慢したかった訳ではありません。実は、吹奏楽において絶対音感は必ずしも役立つ便利な能力では無いのです。ここからは、吹奏楽をやる上で絶対音感はむしろ障害になるということを説明したいと思います。
おや、宮崎くんがテナーサックスを吹いています。ちょっと様子を覗いてみましょう。まず楽譜が目に入り、五線との関係からどの高さの音かを認識します。この場合はソですね。音の高さが分かったので適切な指の形を作りましょう。頑張って覚えた運指表を思い出しながらソの指の形を作ることが出来ました。それではいよいよ息を入れてみます。
「ファーーー」
なんということでしょう。ソを吹いたはずがファの音が鳴ってしまったではありませんか。

……茶番を失礼しました。真面目に説明します。
音の高さには「ドレミ…」といった名前がついているということはご存知かと思います。「ドの音」といえば、ピアノだろうがバイオリンだろうが同じ高さの音である、というのが常識でしょう。しかし、多くの管楽器は、ピアノやバイオリンなどとは異なる名付け方を採用しています。具体的に紹介すると、ピアノでのドの音に対応するのは、トランペットではレ、アルトサックスではラ、ホルンではソだったりとかなりまちまちです。
これには歴史的な理由が絡んでいます。かつて管楽器は細かい音程の調整ができなかったため、演奏する曲の調ごとに大きさの異なる楽器を用意して吹き分ける必要がありました。ですが、だからといってその楽器一つ一つに対して運指を覚えるのはとても大変です。そこで、違う音が鳴ることは一旦置いておいて、同じ運指なら同じ名前が対応するようわざとずれた名前を付けたのです。時がたち、技術が向上してどんな調の曲も同じ楽器で吹けるようになった現在でも、この慣習が守られています。

ここで、勘のいい読者の皆さんは気付いたことでしょう。「楽器ごとにドを変えたら指が覚えやすくて便利!」という論理は、絶対音感には効果が薄いどころか逆効果です。どの楽器の音かにかかわらずピアノ基準のドレミとして聞こえてきてしまうのですから、頭の中が大混乱です。少し体験してみますか?以下の画像の「?」に入る言葉はなんでしょう?

答えは「緑」です。ゆっくりと考えれば規則性を見出して答えることが出来るとは思いますが、これと同様のことを楽器を演奏しながら次から次へとこなしていくのはだいぶ無理があると思いませんか?そう、無理があるんですよ。

ということで、ここまで読んでくださった皆さんなら移調楽器を吹くことがどれだけ大変か分かっていただけることと思います。ところが、私は長いこと吹奏楽をしてきたにもかかわらず、この大変さを実感したのは大学に入ってからでした。実感したきっかけは楽器を変えたことでした。私が中高で担当していたトロンボーンという楽器はピアノと同じ名付け方を採用していて、聞こえてくる音とずれがなかったのです。大学でテナーサックスを吹くようになって初めて、吹いている音と聞こえてくる音が違うという違和感に悩まされることとなりました。初めは聞こえてくる音を無視して演奏しようとかなり努力をしましたが、結局のところ上手くはいきませんでした。現在は方針を変え、五線の読み方と運指を全てずらして覚え直すことで聞こえてくる音を一致させる、という形で上手くいっています。まともに楽譜が読めるようになるまでに一年が経ってしまいました。

さて、新入生に向けた文章だというのに、気付いたら移調楽器に対する愚痴だらけの文章が出来上がってしまいました。大変申し訳ございません。まあ、日々こんなことばっかり考えているような人もいるくらい、いろんな人がいる部だよということが伝わっていればいいなと思います。

申し訳程度にこの団体の良いところを伝えてこの文章を締めましょうか。応援部吹奏楽団には私のように新しい楽器を始めた人が多くいます。そのため、ここで散々述べたような苦労をしてきている人も多いです。新たなことに挑戦している人がたくさんいる環境だからこそ、大学に入って新しいことをやってみたいという人にうってつけな環境だと私は思っています。ぜひ、応援部吹奏楽団で、新しい吹奏楽を始めましょう!

吹奏楽団二年 宮崎拓真

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