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東大入試ではじめて、時刻表が出題された伝説の年。【東大地理2005年第3問設問A】

こんにちは!今日は現役東大生の西岡が、勝手ながら東大地理2005年第3問A問題の解答解説を作ってみました。

この問題は、知る人ぞ知る伝説の年。「正しいバス停の時刻表を答えなさい」という問題が出た、すごい年です。受験生でなくてもこの問題なら楽しめると思うので、ぜひご覧ください!

それではまずは問題です!

問題

(1) 表1のa〜dは、①成田空港の上海行きの航空便、②東京郊外の住宅団地のバス停(最寄の駅の駅前行き)③人口約10万人の地方都市の駅前のバス停、④人口約5000人の山間部の村のバス停の時刻表のいずれかである。a〜dに該当するものの番号(①〜④)を、それぞれaー○のように答えよ。

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(2)成田空港から北京や上海に向かう航空便の利用者数は、過去10年間に増加してきている。その理由を、語群の中から適切な語句を選んで60字以内で述べよ。語句はいくつ選んでもよく、また繰り返し用いてもよいが、使用した箇所には下線を引くこと(以下の二つの小問も同じ)。

(3)地方中小都市の中心商店街では、シャッターを下ろしたままの店舗が目立つ。このように、閉鎖された店舗が中心商店街で増加している地理的要因について60字以内で述べよ。

(4)山間部の村では、民間のバス会社に変わって、自治体がバスを運行している事例が見られる。このようなバスの運行が地域社会に果たしていると考えられる役割について、語群の中から適切な語句を選んで、60字以内で述べよ。

語群
移民 過疎化 観光客 空洞化 現地生産 高齢者 自家用車 駐車場 通学者 ビジネス客 民営化 モータリゼーション Uターン 労働力 ロードサイド
(細かい表記等は一部改変しております、あらかじめご了承ください)

現役東大生の解答
(1)a-④ b-① c-③ d-②
(2)改革開放政策で観光客はもちろん、安価な労働力を背景に日本企業が多数進出したことによるビジネス客も増大したから。
(3)モータリゼーションの進展で駐車場を備えた郊外のロードサイドショップに自家用車を利用する客層を奪われたため。
(4)過疎化により民営では採算が取れない路線を維持でき、自家用車を利用できない高齢者や通学者の移動手段を確保する。

(1) 現役東大生の解説
この問題は面白いですね。バス停の時刻表を問題に使おうなんて、東大教授はやっぱり考えることが違うなぁと思います。
では解説です。
まず、aをみてください。いやあ、全然バス来てませんねえ。
これはきっと、人口が減少している村のバス停なのではないでしょうか。それを裏付けるように、(4)では「採算が取れなくなる」という話をしていますよね。きっと走らせても全然乗る人がいないよ、という話なのではないでしょうか?
このように、東大の問題は設問全体で1つの問題を形成しています。(1)がわからなかったら(2)がヒントになっていることもザラです。覚えておきましょう。ということでこれは④が正解。
次にbです。これ、よーーーく見ると、他の3つとは全然違う傾向があるんです。なんだかわかりますか?
bは、「50分」「35分」とか、そんなふうに5の倍数のみが書いてあるんです。こんなことは普通はあり得ませんよね。バス停のバスは「33分」とか「12分」とかそんなんばっかりだと思われます。
では一体なぜ、5の倍数だけなのか?それはこれが、バスではなくて航空機だからです!
皆さんも飛行機に乗るときに、「32分出発です!」って言われたら困りますよね。「ええ?何分に搭乗手続き済ませればいいのさ!」と。何百人も乗るものだから、しっかり5分刻みでしか飛行機は出発しません。bをよく見ると、それがわかるのです。
cは難しいので、dをみましょう。このdも、他にはない特徴があります。それは、7時代8時代の時間が本数が多いということです。ということで答えは①。
なんでここの本数が多いのか?これは単純で、「朝ラッシュ」です。朝に、通勤通学をするために乗る人が多いのです。そう考えると、東京郊外から東京に行く人たちが多いと考えられる②が正解、残ったcが③、となるのです。

(2)現役東大生の解説
この問題の解答を考える前に、みなさんに1つ質問です。
この問題文を読んだ時に、みなさんはどこが一番重要なポイントだと思いますか?
「北京や上海」でしょうか?確かに大切なポイントですが、もう一個注目するべきところがあります。
「過去10年に」です。
これは、地理の問題だけではなく、東大入試全般に言えることなのですが、出題者は絶対に、無駄なことはしません。出題者は、意味のないことは絶対にしないんです。
例えばミステリー小説で、「あれ、こんなところに絵が飾ってあるよ!なんの絵なんだろうこれは?」みたいに主人公たちがトークしている場面があったとします。それって絶対、なんかの伏線ですよね?その絵が犯人を指し示す証拠になっているかもしれませんし、その絵が盗まれる事件が起こるかもしれません。何かはわからないけれど、意味ありげに描写されたのなら、絶対に意味があるのです
これと同じで、東大入試の問題は、絶対に、絶対に、無駄な情報はないのです。
何が言いたいかといえば、ここが「過去10年」なのには何かしらの理由があるのです。過去5年でも、過去20年でもなく、過去10年であることに必ずなんらかの意味があるはずなのです。
では、「過去10年」、中国で1990年代に進んだことといったらなんなのか?
これは、改革開放政策の進展と市場経済の進展です。
中国という国が、改革開放政策による経済特区の設立を契機にして、2000年前後で爆発的な経済成長を遂げたというのは、東大受験生多しといえど知らない人はいないくらい有名な話です。というか2000年代の東大の問題はマジでこの話題ばっかりです。それくらい、中国の経済成長を重視しているということなんだろうなぁと類推しています。
この問題のキモは、それをきちんと思い付くことができるかどうか、そしてそれを「航空便利用者が増えた」ということに結び付けられるかどうかです。
ぶっちゃけた話、それが書けてなかったら多分、語群をきちんと選べたとしても0点です。
「え、観光客が増えたんじゃないの?あ、模範解答もそんな感じだ!やったあ!」って思う人とかいると思うのですがそれも多分0点になります。かわいそうですね。
それくらい、大切なのは「過去10年」からの「改革開放政策」なんです。
で、ここにつながる語群の言葉を探してみると、
・観光客 ・労働力 ・ビジネス客 ・現地生産

なんかがあてはまりそうですね。
そこでいくと北京と上海は旅行でもいく人が多いですから、改革開放が進展する中で中国情勢が安定し、北京・上海に行く旅行客=観光客が増えたというのはあると思います。
で、あとはビジネス客ですね。北京や上海には日本企業も多く進出したはず。ということはビジネス客が多く渡航していても違和感がないですよね。
問題は、現地生産と労働力です。
現地生産という言葉は、多くの予備校・多くの解答例で「日本企業の現地生産が拡大したから」という使われ方をしていました。でも、個人的にはこれはちょっとないんじゃないかなあと思います。というのは、「現地生産」っていうのは日本の製品を中国で作って中国で売ることなんですよね。でも中国人って、2000年代前半ではまだ、日本の製品買ってないと思うんですよ。
確かに中国に日本企業の工場は多いんです。でもそれは、安価な労働力を使って日本の製品作らせて、そのまま日本に輸入する「メイドインチャイナ」方式が多いんです。「現地生産」は「海外で買ってもらうための製品を、海外(現地)で作っちゃうよー」ってこと。なんかそれっておかしい気がするんですよね。
ぶっちゃけ僕はこれ、トラップなんじゃないかと思います。これを選んだ人間を「はいダメ、わかってないねえ」と嘲笑うための語群。
だから僕は、「安価な労働力を求めて日本の企業が進出したから」という解答を作っています。

(2)改革開放政策で観光客はもちろん、安価な労働力を背景に日本企業が多数進出したことによるビジネス客も増大したから。

(3)現役東大生の解説
シャッター通り商店街がなぜ増えたのか?
という質問な訳ですが、これはこの問題全体で考えて行くと答えが出ます。
この問題は、バスや航空機にフォーカスを当てていて、いわば「乗り物」が主題になっていますよね。この⑶も、もしかしたら乗り物が関係あるのかも?とか考えると、答えが見えて来ます。
まず、シャッター通りってどこにあるものでしょうか?
皆さんの周りの商店街を思い出してください。多くの場合、商店街は駅から一本道のところにずらっと並んでいますよね。駅から家に帰る途中で買う、と。
車ではなく駅で買い物に来ることを想定していて、いろんな店が並んでいる。八百屋もあれば魚屋も、肉屋もある。それが商店街です。
でもみなさん、最近商店街に行きます?多分、行かないですよね。なんでかといえば、コンビニでなんでも揃うし、スーパーの方が一括で買えるからです。いちいちお店を変えなくていいわけです。
さて、この問題の文には、「地理的要因について」と書いてあります。地理的要因、というのは言葉がぼんやりしていますが、まあ「スーパーの方が一括で買えて便利だから」っていうのはちょっと違う気がします。
でもそこで行くと、この買い物の形態の違いは必ず答えに反映できるはずです。そう思って語群を見ると、
駐車場
とあります。つまり、自動車だと大量かつ楽に買い物ができる、ということを書けばいいとわかるわけです。
逆に、対比して考えてみると「商店街」というのは駅からの客を考えているから駐車場がなく、大量には買えないわけですね。過疎化が進んだ今の日本では、需要が少なくなってしまうというわけですね。
「増加」というのは「変化している」ということを指します。つまりは、元々は大丈夫だったのに今はダメになったということ。そこにはきっと、変化の理由がある。そう考えるとここに横たわっている問題は、駅ではなく車による移動な訳ですね。
ということで解答例はこちらとなります。

(3)モータリゼーションの進展で駐車場を備えた郊外のロードサイドショップに自家用車を利用する客層を奪われたため。

過疎化、という言葉を入れてもいいような気がするのですが、流石にそれだと語句が多くなりますし、⑷でも使うことになりますから、ちょっと難しいですね。
代わりに「モータリゼーション」は使えそうです。車ばっかり使ってるよっていう語句はまさにこの問題にぴったりです。

⑷現役東大生の解説
最後の問題は、自治体運営のバスについて。
この問題は、多分近代交通システムの研究をしている工学部の先生とかが出したんだろうなあ、と東大の中にいると感じます。過疎化が進んで、こういう問題に対してどのように対処するのかというのが結構授業の議題になっているからです。
自治体と民営。その違いを考えればこの問題は簡単に答えが出ます。要は、「営利目的かどうか」。金儲けしたいのなら民間がやればいいし、ビジネスチャンスがあるならやればいい。でも、⑴で見たように、バスの本数が少なくなっている。バスだって走らせるのはただじゃありません。こんなに本数が少ないところよりも、本数が多くてお客もいっぱい乗る路線の方にバスを持って行きたいと考えるのは民営企業としては当たり前ですよね。
でも営利が目的でないのなら、バスも維持できる。自治体は、そういう機能があると考えられます。
そしてこの問題は、⑶と関連して考えるともっと深く理解できます。そもそもなんでバスが必要なのか?それは、高齢者が自家用車を運転できないからです。⑶で答えたように、今や日本はモータリゼーション。地方では移動のために車を持っている人がほとんどです。だからバスも鉄道もいらない。しかし高齢者は免許を返納していて生活ができないなんてこともあります。そうすると、バス以外は使えないわけですね。自転車に乗るわけにも行かないんです。
そして、同じ理屈で車を使えない人がいます。学生です。免許持ってなかったら通学できないわけです。
語群をみてください。「通学者」。これ、変だと思いません?だって「通学」って、学生だけじゃないですか。普通なら「通勤者」って書きますよね?これが「通学」なのは、理由はただ1つで、18代以下、「免許を持っていない人」のことを指しているからだと考えられます。まあ早い話が、この問題のためにこの語句は用意されているのです。
と言うことで解答例としては、

(4)過疎化により民営では採算が取れない路線を維持でき、自家用車を利用できない高齢者や通学者の移動手段を確保する。


・まとめ


いかがでしょうか?いやーこの問題、面白くないですか?実社会に結びついていて社会人でも楽しめると思いますし、問題同士が結びつきあっていて非常に見ていて楽しいです。この楽しさの何割かでも伝わったら嬉しいです!

「※注意」
東大は解答を公表しておらず、本企画はあくまで現役東大生が考えた「答案例」だということにご留意いただければと思います。
解答として正しいものかどうかは、こちら側も全力で「答案」を作成させていただきますが、もしかしたら間違いを含んでいる場合があるかもしれません。その場合は、ぜひご指摘いただければと思います。




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