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White Fairy Tale

白い物語

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森には、音の妖精がいるといいます。
鳥のさえずり、木々のざわめき、動物が大地を踏みしめる音、
森の中にある音は全部、実はこの妖精が奏でている音なのです。
森の中で妖精は、そんなふうにして生き物達と一緒に楽しく暮らしていました。

ある時、この森にひとりの青年が迷い込んできました。
さえずりを聞いてはキョロキョロと鳥を探したり、
木々がさらさらと揺れるのを気持ちよさそうに眺めていたり、
動物の足音を感じて少しびっくりしたり、

そんな様子をおもしろおかしく眺めているうちに、
妖精は楽しくなってもっと色々な音を出してみたくなりました。

やがて妖精の出す音は音色となり、カラフルな音楽となり、
鳥や木々や動物達がみんな次々と踊り出しました。
最初驚いてただただ眺めていた青年も、次第にみんなの輪に入って
一緒に音楽に合わせて踊るようになりました。
楽しそうな青年の笑顔を見て
妖精はとても嬉しくなり、
次第に自分も青年と一緒に踊りたいと思うようになりました。が、
妖精である自分の姿を見られてしまえば
たちまち今後一切森の音を奏でることが出来なくなります。
森のみんなのことを思えば、姿を見せるわけにはいきません。
妖精は楽しい時間がいつまでも続くように、
木陰から様子を眺めながら
みんなのために音楽を奏で続けました。

こんなに楽しい時間は今までにないほどです。
そうして一晩みんな一緒に踊り明かし
やがて夜が明ける頃、
踊り疲れた森のみんなも、奏で疲れた妖精も
静寂のなか夢心地ですっかり眠ってしまいました。

妖精が目を覚ますと
もう青年の姿はありませんでした。
悲しくなった妖精はこのとき初めて
自分が青年に恋をしていたのだと気付きます。

妖精は青年を探しました。
ふたたび音楽を奏で、必死に森の中を探し回りました。
昨晩一緒に踊っていた鳥や木々や動物達は
妖精が自分たちの音を出してくれないので目を覚ますことができません。
それでも妖精は、ただただ青年に気付いて欲しくて
音楽を奏で続けました。
自分はここにいるのだと
初めて自分の存在を見つけて欲しいと思ったのです。

けれど、音楽が青年に届くことはもうありませんでした。
悲しくて立ち尽くしたまま、
妖精は最後に静かに自分の気持ちを奏で始めました。
誰かひとりを想って楽器を吹いたのは、これが初めてでした。
奏でながら静かに目を閉じてゆくと
その姿はゆっくりと森に溶けていき、
悲しく美しい音色だけが
森にいつまでも響き続けるのでした。

*****

私はこの曲のPVが大好きで、そこからヒントをもらっています。
森の中に見え隠れする音の妖精の物語を想像してこの写真を撮りました。

実は最初はタイトルに“白い”とあるように、雪に閉ざされた真っ白な森の中で、、、と考えたのですが、寒がりな麻子さんの身体と楽器への負担を考えてなんとか思いとどまりました。笑 

いつか本当に雪冬の写真を撮りたいと思っているので、
麻子さん、覚悟しておいてくださいね!


White Fairy Tale /  伊藤麻子 3rd Album 「Grace」 


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