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小売パートナーの事業が成功するために

注)この記事は”10Xに入社して見えてきたPMFの実現方法”のパート2となります。パート1から読まれることをオススメします。

サマリー


僕たち10Xが取り組んでいるネットスーパーの複雑性として、CXを維持するために品揃えの拡充や、適切なサプライチェーンやオペレーションが重要であるというお話し。それに立ち向かう小売の戦いの歴史や、10XがWhole Productを提供し、ビジネスを成功に導こうとしているかについて書いた。

ネットスーパーというビジネスモデルの複雑性


いきなり辛みをぶちまけると、僕たち10Xがベットしている食品ネットスーパーは非常に複雑で面白いビジネスモデルだ。

そもそもカスタマーが買い物を完了させるのが難しい

その薄利な小売ビジネスの構造から、ECは往々にして最低購入金額を設けている。”3,000円以上購入で送料無料 or 290円の送料支払い”とかのやつだ。
僕たちが取り組むネットスーパー事業では一つ一つの商品単価が非常に少額となる。皆さんが普段買い物するスーパーの商品単価を思い浮かべていただけたらわかると思うが、大体平均250~300円くらいの商品単価だ。

よってカスタマーは最低購入金額をクリアするために、一度の購入で大量の商品をカゴに入れなければならない。具体的に最低購入金額が3,000円ならば15アイテム前後、5,000円ならば22アイテム前後をカゴに入れる、いわゆるバスケットビルディングという行為が必要となる。

ネットスーパーを使ったことがある方ならわかると思うが、このバスケットビルディングをするためには、非常に時間がかかる。アプリを開いて30分程度向き合いながら、向こう数日の献立や、冷蔵庫の余り物を考えながら、なんとか最低購入金額をクリアするのだ。

こちらは僕たちのあるパートナーの実際のデータだが、会員登録後、3ヶ月経ったカスタマーは1ヶ月に平均18,837円の買い物をしている。一度の買い物単価が大体6,000円程なので、カスタマーはこのバスケットビルディングをひと月に3回もこなしていることになる。

このバスケットビルディングを行う際に重要となる要素の一つが商品の”品揃え”である。
取り扱う商品があまりにも少ないと、カスタマーはバスケットビルディングの途中で欲しいものがなくなってしまい、途中離脱してしまう。
もちろん、無闇矢鱈と商品を取り扱えばいいわけではないのだが、”品揃え”を増やすというレバーは顧客体験の担保として非常に重要となる。

取り扱う商品自体が難しい

では、商品を沢山揃えておけばいいのかと言われると、そこでまた取り扱う商品の難しさがでてくる。

ネットスーパーが扱う商品は温度管理が必要だ。最低でも常温、冷蔵、冷凍の3温度帯に分かれ、その上冷蔵の商品は賞味期限が短い。
いちごやバナナなどのド定番の商品を店舗や倉庫に保管できる日数などせいぜい1~2日。しかも痛みやすい。

特に日本のカスタマーは欧米などと比べ圧倒的に商品への期待値が高い。
Amazon Freshの時にもかなり苦労したのだが、例えばとある商材は欧米なら棚に保管できる期間が5日あるところ、日本は2日しか保管できないのだ。
棚に保管できる期間を過ぎるとそれらは廃棄処分されてしまい、直接ロスとしてPLにヒットする。

更に難しさに拍車をかけるのが商品の季節性だ。
よくAmazon FreshのUSの同僚との電話会議では「アメリカなんて11月の感謝祭のターキーくらいしかないけれど、日本は季節のイベント多すぎや。なんで豆撒いたり、太巻き食べたり、鰻食べたり、しかも冬に近づくにつれて北の方から鍋の材料がスパイクしていくんや・・・」なんて会話がよくあった。

日本のネットスーパーにおいて、どの商品を、いつ、どれだけ取り扱えばいいのかというのは、非常に難しい問題となる。
季節性や発注量を見誤ると、すぐに欠品し、これまた顧客体験を毀損するリスクになる。

サプライチェーンが難しい

じゃあ欠品してたら他の店舗や他の倉庫から取り寄せればいいんじゃない?これもよくカジュアル面談などで聞かれる質問だが、ここでサプライチェーンの問題がでてくる。

もともと利益率が高くない食品小売において、複数の配送元から一つの配送先に商品を配達すると、間違いなく赤字になる。
Amazonみたいに、家電などで利益を確保できていて、消費財やネットスーパーは多少赤字でも吸収できる、というようなビジネスモデルではないのだ。

だからこそ、スペースの限られた1拠点に、欠品や余剰が出ないように最大限チューニングされた商品数量を補完し、当日や翌日という短納期でカスタマーまで配送する必要がある。

オペレーションが難しい

先に述べた通り、ネットスーパーは一度の買い物での購入点数が15~22と非常に多くなる。かつ、店舗ではその多品種多数量のオーダーを何十オーダーと同時に対応しなければならないため、オペレーションの難易度が非常に高い。
従来のネットスーパーでは紙のチェックリストなどで実施していたため、間違いも発生するし、オペレーションコストが非常に大きくなってしまうのだ。

それでもネットスーパーに挑戦したい小売事業者


上記に挙げた難しさは、ほんの一部分で、まるであっちが立てばこちらが立たずのような非常に難解なパズルのようなビジネスだと思っている。

そんなネットスーパーだが、”ネットスーパー & ブーム”でググってみると色々な記事がでてきて、現在第三次ブームと呼ばれているようだ。
第一次、第二次と様々な小売企業が挑戦し、撤退していった。
その中で本当に黒字化できるのか?という疑問を抱えつつ、それでもコロナの在宅需要に後押しされ、また海外での爆発的なネットスーパーの伸びを遠目に見ながら、日本の小売事業者もこの事業モデルの成功を模索しているのが今の市場だ。

10Xが提供するWhole Product


ここでまた都合の良いことに、先日矢本が10XただのProductではなく、Whole Productを創っていくんやと言っていたので、それを拝借しよう。(ほら、こういうタイミングで言語化されたものが落ちてきてるって、便利でしょ?)

彼のブログの中で、10Xが提供するものはWhole Productであるということを書いているのがこちらだ:

Stailerは「パートナーが、ネットスーパーを実現できる」というコアプロダクトから、例えば「多様な外部システムを連携できる」といった機能によって期待プロダクトを目指し、さらに商圏分析サービスなどを通じて拡張プロダクトを満たします。
更にオペレーション構築のためのバックヤードやセンター倉庫の設計サービスと、その実現に必要な機能やインテグレーション等の顧客価値をより完全に満たしていくための「機能と非機能」のロードマップがあります。
これをすべて達成することで理想プロダクトを目指しています。
つまり、製品と、補完的なサービスによって顧客により完全な価値を提供する(ことを目指す)ため、StailerはWhole Productであると言えます。

https://yamotty.tokyo/post/20220811

前段で述べたネットスーパービジネスの難しさと、ネットスーパービジネスの二度の撤退の背景を加味すると、ただネットスーパーを立ち上げるProductを提供していても成功しないことは容易に想像できる。

このビジネスモデルはリアル店舗の運営の延長では決して解けず、かつ、ただカスタマーアプリや店舗スタッフの作業アプリを提供すれば勝手に成長していくモデルでもない。Productの機能提供だけに留まらず、現状どのようなビジネスの状況になっているのかを理解した上で、どのような品揃えを揃えるべきか、どのようなサプライチェーンを構築すべきか、またどのようなオペレーションプロセス設計すべきかという非機能の部分の最適化が必要不可欠となるのだ。

実際に我々のパートナーの中でも、黒字化を実現できている店舗がでてきており、10Xの中でもネットスーパーを成功させるため(黒字化を達成し、かつトップラインを増やしていく)の必要条件のようなものの解像度が、ここ1年で急激に上がってきた。

10Xは、日々カスタマーの声を反映させて進化する(機能となる)Productと、さまざまな知見をベースとした補完的な(非機能の)サービスによって、顧客により完全な価値を提供するWhole Productを目指している。

これが現在の小売パートナーの皆様に共感していただけるポイントだと考えている。

最後に


この回でFlywheelについても語ろうと思っていたが、そこに入り込む前にしっかりと10Xや小売パートナーが立ち向かっている課題について説明したほうが後のお話がわかりやすいと思い、少し厚めに書いた。

次こそ、どのような取り組みを通じてWhole Productを目指しているのか、もう少し具体的なお話をしていこうと思うので、お付き合いいただけると幸いだ。

Twitter(https://twitter.com/mani_0417)でも色々つぶやいているので、是非フォローください。

おしまい

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