見出し画像

昨今の荷物の遅延で、思い出したこと

 もうだいぶ前。クロネコヤマトの宅配はあったけれど、業務用には佐川急便と日通があって、まだまだゆうパックの知名度は低かったか、あるいは名前が郵便小包だったかもしれない時代の話。

 わたしは輸入に関係がある会社に勤め、おもに海外商品が入国した後の、国内物流を担当していた。そのため物流業者さんとは多少のお付き合いがあった。

 あるとき、ある倉庫にある商品を買いたいと思った同僚が「この在庫、1個うちに送ってほしいので、倉庫に頼んで」と言ってきた。上司に声さえかけておけば、さほど問題にはならないことだが、倉庫に本来お願いしている業務は取引先の企業向け出荷であったため、いちおうは例外扱いである。社内関係者がらみの作業があまり一度に重ならないように工夫しつつ、わたしは倉庫に手配していた。

 当時は、いまほど「○○時ころに到着」などの配送依頼はなく、午前かどうか、くらいの枠しかない会社がほとんどだったと思う。そしてわたしの同僚は、わたしに手配を依頼する際に○○時などということは一度も言わなかったので、助かっていた。

 ところが商品が到着する当日になって、その母親から息子(わたしの同僚)に「出かけたいけれど、荷物はいつ届くの」と電話があった。わたしはその電話に出ていないので、母親が困りきって電話してきたのかどうか、あるいはただなんとなく聞いてきたのか判断ができなかったが、電話に出た息子本人は、真剣な顔をしてわたしに言った。いつ届くの、と。

 そこでわたしと、先輩の男性社員とが、ふたりして「前もって何時ころと頼んであったならともかく、自分の家の事情で、何時に配達してくれとか、すぐ持ってきてとか、普通は言えるものじゃないはず」と説明したのだが、同僚は「だってうちの母親が出かけられなくて困っているわけだから、すぐ持ってきてもらいたいんですよ」と、まったくかみ合わない状態になった。

 わたしが運送会社に「早くしろ」などと言わないと気づいた同僚は、なんと自分で出荷元の倉庫に電話をはじめた。その理由もはっきりと「親が出かけられなくて困っているんです」と。わたしは恥ずかしくなってしまったが、相手の側もさすが商売なので「できるだけ調べてお答えします」と、努力してくださったようだ。

 当時は全国的な配送網が確立されている会社はほとんどなく、たとえば近畿圏を○○という運送会社グループで出発したら、関東圏で□□が受け継いで、あとはその会社が知っているドライバーに声をかけて配達してもらうようなスタイルが多く、出荷元の倉庫とその取引先運送会社は、苦労してドライバーさんに確認をとってくれたのではないかと思う。ついでに書くなら当時はまだ携帯電話がほとんど普及していなかった。会社が社員にポケベルを渡していればポケベルで連絡をとれた程度、という時代だ。

 同僚は「まったくもー、親が出かけられない」と怒っていたが、わたしはなんともやりきれない思いがした。

 なおその同僚、逆をやったこともある。つまり誰かが強く「あれは何時ころ届くの」と言ってきた際、誰も時間に関する依頼など受けていなかったのに「担当が間違えまして、すぐやります」と、勝手にわたしを悪者にしていた。頼まれていない話をでっち上げてまで、自分はいいこでいたいのだ。

 はらわたが煮えくりかえる思いがしたが、数え上げればきりがない。わたしが会社をやめてのちに、いくつかせいせいしたと思えることのひとつが、その同僚と顔を合わせなくてよくなったことである。

 さて、これを書いているあいだに、わたしの待っていた荷物が届いた。夕方の買い物に出かけてこよう。


家にいることの多い人間ですが、ちょっとしたことでも手を抜かず、現地を見たり、取材のようなことをしたいと思っています。よろしくお願いします。