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短編(おやつ屋シリーズ)

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書いている短編のうち、「おやつ屋」をまとめました。平日の夕方数時間に開店する、昔ながらのおやつ屋。洋菓子を出す場合は日本語の名前をつけねばならない先代の言いつけを守る約束になって… もっと読む
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記事一覧

おやつさん (短編おやつ屋シリーズ 7)

 店を引き継いでから初めてのことだった。 暑さはつづくものの蝉の声が増してきた八月下旬か…

杜地都
3年前
2

たい焼きの味

 もとは客として顔を出していた店を引き継ぐことになって十余年、いまの客の多くはわたしが二…

杜地都
4年前
5

12月のライオン

 あまり活動していないが決まりなのですみませんと、近所の店が町会費の集金にやってきた。つ…

杜地都
4年前
3

粉雪と、おおまが

 暖冬と思いきや粉雪が舞う夕暮れ、客が帰ったあとのテーブルを拭いていると、人の気配があっ…

杜地都
4年前
1

小豆の声

 正月は三が日を店休とした。  元日は近所の神社に詣でて、人の減った商店街や川沿いを散歩…

杜地都
4年前
1

もぐもぐさん

 ひとりでやっている店なので、月に何度かでも来てくれる客は、だいたい記憶している。  1…

杜地都
4年前
3

不思議な店

 店の一部でペンキを塗り替えると話すと、もぐもぐさんはしばらく店にやってこなかった。そろそろ姿を見せるかという2月中旬、履き物屋の隠居が店で桜餅をほおばりながら「最近アルバイトを雇っているのか」と尋ねてきた。  もぐもぐさんのことだろうか。厨房を見せてくれと言われた日からすっかりうちとけて一緒に餡を作ったことはあるが、働いているわけではない——そう言おうとしたが、話は違った。若い男が店の片付けをしているのが見えたという。  誰でしょうねと答えておいたが、内心は「またか」で