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短編小説

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自作の短編小説をまとめて表示するためのマガジンです。
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記事一覧

おやつさん (短編おやつ屋シリーズ 7)

 店を引き継いでから初めてのことだった。 暑さはつづくものの蝉の声が増してきた八月下旬か…

杜地都
3年前
2

わたあめと、にゅうどう(短編:三題噺)

 こちらは、先日わたしが拝読している読む人さんがお題を提供された「イヤホン、コーヒー、入…

杜地都
3年前
2

不思議な店

 店の一部でペンキを塗り替えると話すと、もぐもぐさんはしばらく店にやってこなかった。そろ…

杜地都
4年前
2

予防マニュアル

 軽い空腹もあったが、何より珈琲が飲みたかった。目の前の男は延々としゃべっている。感覚が…

杜地都
4年前
3

もぐもぐさん

 ひとりでやっている店なので、月に何度かでも来てくれる客は、だいたい記憶している。  1…

杜地都
4年前
3

小豆の声

 正月は三が日を店休とした。  元日は近所の神社に詣でて、人の減った商店街や川沿いを散歩…

杜地都
4年前
1

透明な家

 大晦日だ。帰省する場所もなければ大掃除をするほどの広さもない家で、玄関だけ片付けてドアに買い置きの正月用リースを貼りつけた。あとは午後にでも、のんびり年越しそばでも食べればいい。夕方からは正月用に買ってある食材の切れ端をつまみながら動画配信サービスを見るのもいいだろう。  小さいが由緒ある神社の影響で、年が変わるころには界隈の道が初詣の人間で賑やかになる。自分だけの時間は早いうちに楽しんでおこう。  ふと、画面を伏せておいたスマホから光が漏れてきた。表示を見ると「編集部

粉雪と、おおまが

 暖冬と思いきや粉雪が舞う夕暮れ、客が帰ったあとのテーブルを拭いていると、人の気配があっ…

杜地都
4年前
1

うまい話と、その内側

 夕暮れに自宅近くで人が立ち話をしていた。珍しくはない光景だが、こちらの姿に声をひそめた…

杜地都
4年前
1

12月のライオン

 あまり活動していないが決まりなのですみませんと、近所の店が町会費の集金にやってきた。つ…

杜地都
4年前
3

たい焼きの味

 もとは客として顔を出していた店を引き継ぐことになって十余年、いまの客の多くはわたしが二…

杜地都
4年前
5

やはり知り合いでは、ない

 用件のわからない突然の誘いにも、断る理由が思いつかないほど退屈していた。今週は仕事もな…

杜地都
4年前
4

ふたたび、くねり

 固定電話はめったに使わない。ひさしぶりにそれが鳴ったとき、初秋に病院から問い合わせのあ…

杜地都
4年前
2

風さんからのたより

 田舎から電話があったが、用件をなかなか言わない。具合でも悪いのか、困ったことがあったのかと、それとなく水を向けても、言いよどむ。  もうそろそろ出かけるから切るよと言ってみたところ、ようやくひと言「風さんが来た」と、つぶやいた。  聞き間違いかと思ったのだが、相手の沈黙を思えば、たしかに風さんなのだろう。  今度はどこの風景だと尋ねると、昔の農村らしき絵柄とのこと。  いったい何年ぶりだろうか。  わたしが小学生のころには、すでに「風さん」はわが家に定着していた。多い