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【報酬未払いで逃げた取締役】中村が中村を追う 2話

その後、取締役社長である中村から直接携帯に連絡が入ったのは、6月末のことだった。それまで、何度電話をしてもスタッフは「わかりません」「折り返します」を繰り返していたのだ。

多分、再三電話をして催促していたのは、私だけではないだろう。よくある話だが、ライターは編集者とのつながりで仕事を受けることが多い。会社→ライターではなく、編集者→ライターという図式だ。

今回、この雑誌に携わるフリーランスのほとんどが編集長からの業務委託だった。スタッフは全て一任されていたのである。そのため、私が制作会社の取締役である中村とは、一度しか会ったことがない。

雑誌の制作会社は、芸能プロダクションを軸としたN社がメインで、出版形態であるNプロダクションは子会社という扱いだった。どちらも同じワンフロアにあり、扉ひとつで分けられている。

子会社であるNプロダクションの取締役は、雑誌広告を統括する持田という男だった。この男は非常にうさんくさく、仕事の進め方が雑で、私は持田と美容整形の広告で組んだことがあるのだが、二転三転話が大きく変わるのは当たり前

その度に詳細を確認しても返事が曖昧で、何度もラフを作り直さなければいけない散々な目にあった。さらに、撮影当日ヒアルロン注射をする予定のインフルエンサーが「別の仕事があるから帰る」と言い出したのである。

広告代理店の担当者にこれら撮影の不備をライターせいにする、という散々な男だった。その持田が6月に入ってNプロダクションの取締役を辞任し、取締役が交代するという趣旨の書面がメールで送られてきた。

内容は取締役が交代し、新しく就任した取締役の代表者の名前と未払いの件についての謝罪、今後傘下であるNプロダクションではなく、N社の事業として取締役社長の中村氏から個々に連絡をするということが書かれてあった。

そして6月末、中村から直接電話がかかってきた。まずは謝罪と未払いになった理由を説明した。中村の言い分は、こうだ。「印刷会社に印刷代金未払いで口座を差し押さえられていて、動かせるお金がなかった」という。

現在はすぐに報酬が払える状態ではないが、「必ず自分の責任において返済する」と電話口では、とても誠意のある口調で謝罪した。その話を聞いた上で「いつ振り込めますか?」と尋ねると「返済できる目処がついているため、7月半ばには振り込みます」というので、私はそれに合意し電話を終えた。

7月上旬、再び中村から連絡が入った。「中村さん(私のこと)、ギャラが未払いのところ申し訳ないんですが、別冊付録の制作について契約上途中で打ち切りにできないため、制作を続けてもらえませんか」というのだ。

この時点で、私の未払金はおよそ70万円。さすがにそれはできない、と断った。その後、さらに編集長からも連絡がきて「書籍化までが契約なので、途中解約をすると契約違反で賠償金が発生してしまう」と説得される。

しかし、私はその契約内容は関係がないこと、こちらの業務委託契約についても違反してることを伝えた。「もし、きちんと報酬を支払えるなら他のライターを雇えばいいんじゃないですか」と、私は言った。

「今まで作ったスケジュールや集めた資料も全部、新しいライターに渡して、引継ぎまで責任を持ってやりますよ」と。もしも、私がやらなくちゃいけないのなら「7月半ばの振り込みが確認できるまでは、仕事は受けられません」と言い切った。そんな当然のことだと思った。


グレーゾーンの知的障害者の家族のコミュニティや生活のあり方などをもっと広めたいと思っています。人にいえずに悩んでいる「言葉にしたい人」「不安」を吐き出せるような場所を作りたいです