見出し画像

セミが叫んでいることは。

私は夢を見ているのかもしれない。

私の幼少期から今に至るまで、出会った全ての人たちとのことも夢の中の出来事で、自分の存在意義だとか、なぜ生きるのか、そういった小難しいことを考えるのも、全て夢の中のことなのかもしれない。

そして、いずれ自分が死んだと思って棺桶に入れられる。
冷たい、硬い、棺桶に入って、もう2度とこの世に戻ることはないと認識する。

永遠の眠りにつく…
私の人生は、幸せだったか、全力で生きられたか…その問いを最後の最後に自分に向ける一瞬を与えてもらえるかもしれない。

しかし、その棺桶が、パッカーンと開けられる。

ハイ!!
あなたの生き様、とくと拝見させて頂きました!!

んー、そうね、時々すこーしルール違反したみたいだけど、そんなに迷惑かけた訳じゃないかな。
がんばりレベルは、まぁ一般コースで。
あーでも、腹黒レベルはまぁまぁだね、自覚あり?あ、あるのね、じゃあ良いでしょう!


じゃ、とりあえず、そこの穴、分かります?
入ったら、上に行けますから。
行ったらわかりますからー!


言われた通りに穴に入って、もそもそと上に上がる。


ハイ!!
ようこそ、こちら転生室でーす!

今日からね、大体1週間ぐらい。
あなたが今まで生きてきて、実は叫びたかったこと、言い残したこと、幸せだったことでも、憎しみでも恨みでも、なんでも良いですよー、とにかく全部、叫んで、魂を空っぽにして下さいー!

ちなみにですけどね、やっぱり、ポジティブな叫びをしてる方がね、良い音は出るんですけどね。
まぁ、特に良い人ぶらなくていいです。
誰も聞き分けられませんから。

とにかく、魂を空っぽにしないと、次の人生にいけませんので、中途半端に叫ばないで下さいね。

あ、あと、ここで出会う人、次の人生でわりと重要な人になりますよ、あらゆる意味で。
なので、出来るだけ集団に入った方が、次の人生に動きが多いかもしれませんねー。
ま、それは焦らないで下さい。
どっちにせよ、ここの記憶は、次の人生に引き継がれることないんで。

叫ばない人見かけたら、それ、私たち係のものなんで、あなたの空になった魂の入れ物を渡してくださいね。
それで、転生可能になります。


とにかく、安心して叫んで下さい。
誰にも叫ぶ内容は知られませんし、これぞまさしく極楽浄土ってやつだと思いますよ!


じゃ、質問なければ、上行って下さいねー!


叫び方?
え、叫ぶことない?
いやいや、上行けば、絶対叫びたくなりますから。絶対ですよ。
だって、ホラ、魂に重さがありますから。空っぽにするの、結構大変なぐらいですよ。

大丈夫、みんなそう言うんですって!

ハイ、いってらっしゃーい!!



ああ、そうか。
こんなに叫びたいことがあったんだ。
私は叫ぶ。
それは本能なのだ。
そして感謝、願い、祈り、恨言や後悔も。
思い残したことはたくさんあるはずだ。

魂の重さが、その叫びに比例する。
魂の重さはどうやって作られるのか。

今、己の魂が、暗い深い闇の底にあるのなら、それが、あなたを作る重さになる。
今、己の魂が、幸せで安堵に包まれているのなら、それも、あなたを作る重さになる。
誰かを想うことも、何かに夢中になることも、諦めたことも諦められなかったことも。
全てが魂の重さになる。
一時たりとも、重みのない時を生きることはなく、無駄だと思えるそれも、また、重さを作る。

そうして、幾重にも積み重なったあらゆる重さを持って、人は、最後の最後に、天に上がる。

最後に、自分が生きた証を叫ぶ。
空になるまで、全てを吐き出す。




私なら、何を叫ぼうかしら。
あなたに会えてヨカッター!!から始める?
あと、ごめんなさいー!と、ごちそうさまー!
それから、ありがとう!!をいっぱい叫べたら上々だな。

だけど、それだけじゃあ、空っぽにはならないな。きっと、恨み言や後悔もたくさんたくさん叫ぶんだろうな。


………

毎年、毎年だ。
蝉時雨の下を歩く時、ふと思う。


セミは、やっと地上に出れて1週間しか生きられない。
という認識は実は違っていて。

地中で生きて、生きて、やれるだけのことをやって、生きて、その結果を付与された1週間、伝えたかった何かを叫んでいるのではないか。


地中の暮らし、こんなことがありました!
こんな出会いもありました!
こんな感動手に入れて、こんな悔しい思いもしたものです!
私なんてこんな目にも遭いました!
やれるだけの努力が出来ました!
次はこんな風に生きてみたい!
次こそ、長生きしたい!
次もきっとこういう風に生きていく!
絶対に、あの人と生きるんだ!
ミーンミンミン ミーンミンミン
ツクツクホーシ、シャアシャアシャア…


そう考えながら、セミの声を聞いてみる。
そうすると、今を大事に生きようと思うのです。
精一杯に生きて、最後に精一杯叫ぶのだ。



セミの先輩は、いったい何を叫んでいるんだろう。
地中での暮らしに何があったんだろう。


私は、最後に何を叫ぶんだろう。


暑い夏。
木漏れ日の間から、魂の叫びが聞こえる。


ーーーーーーーーーー

昔、ローリー寺西さんが言った。

「人生は実は、死んだあとに始まるんじゃ無いかって思うんです。セミの幼虫だって、まさか、自分の背中が割れて羽が生えて、地上に出ていくなんて思ってないと思うんですよ。だからね、僕たちも、今、辛いことや苦しいことあっても、それはまだ地上に上がる前のことなんだって思うんです」


中学生ぐらいだった私は、うわー!すごー!ローリーすごー!!ってなった。
今生きている自分は、最終形態じゃないんだ!?
これからさらに先があるんだ!
何が起こるんだろう。
そうであるなら、今この時も、最終形態への準備期間かもしれない。

掻き立てられた想像は、いつも、心のどこかで私を支える。今の私、これからの私、どこへ向かうか、少しドキドキするのだ。




セミの生態は、なんだかロマンを感じますよね。
うるさいぐらいのセミがハタと鳴き止む天候になると、なんだか不安にさえなります。
雨があまり降りすぎませんように。
あの子達が、最後の瞬間まで叫ベますように。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?