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『29歳のクリスマス』の夜めいた記憶を

『29歳のクリスマス』というドラマがあったのをご存知だろうか?
1994年の作品で、山口智子・松下由樹・柳葉敏郎が織りなす、3人の男女の友情と、仕事と恋を題材にしたドラマだ。
キャッチコピーは「ひとりになりたい夜もある」「ひとりじゃ淋しい夜もある」
オープニングはマライヤキャリーの『All I Want For Chirisutmas Is You』
今もクリスマスシーズンになると、必ずどこかで流れているこの名曲が爆発的にヒットした時で、あらゆる店でこの曲を耳にしては、「ドラマ観てる?」と友人と盛り上がったものだ。

当時私は高校生で、このドラマに心底憧れていた。
ひとりになりたい夜も、ひとりじゃ淋しい夜も、なんとなく理解ができるようになってきた、鼻息荒いお年頃である。
私も29歳になったら、典子(山口智子)のように、恋に仕事に全力投球をし、信頼する友人と行きつけの居酒屋で酒を酌み交わす大人になるに違いない。

しかし、29歳を過ぎて私は愕然とした。
なんか擦りもしないまま、大人になっとる!

ちなみに29歳あたりの私は、転職を重ね仕事にあれこれあったものの、実家暮らしに危機感は皆無であったし、社内恋愛を経て結婚した夫とは、誰から反対されることもないNO山場。
なんだったらプロポーズさえもなかったし、唯一揉めたことといえば、結婚式に流す曲目とマイクに飾りつける花の価格ぐらいである。

特に不満があるわけじゃない。
しかし、思い描いていた大人はもっと都会的で、もっと波乱に満ちていて、友人ともっと本気で喧嘩をしつつ、泣きながら孤独の夜を過ごすなど。
お酒と共に、酸いも甘いも飲み下すみたいな大人になっていると思っていたのだ。
お酒を飲む夜と自分の交わり方が思ってたんと違っていた。

私の『29歳のクリスマス』っぽいお酒との絡みといえばだ。

その1 波乱
合コンという名の飲み会の席でえらく気に入られたことがあり、その日の解散直後にこっそり唇を奪われたことがある。
酒の効果もあって、猛烈にときめいてしまったのだが、数日後に「緊急連絡!至急至急!」と友人が、戦隊物のアニメキャラの体で連絡をよこしてきた。起承転結で言うところの『転』を担いでいるのが見える。

何事かと問うと、友人は耳をつんざく様な大声で言った。
「あんた、○○さんとまだ致してないよね!?」(※表現を変えています)
なんてお下品な…!
恥じらいつつ「まだよぅ」などとクネっていると
「あいつ、奥さん妊・娠・中…!!」

妊娠中…?
彼が、お腹の中に奥さんを…??

……!!!???
何情報だ!?
情報は確かか!?
今まさに、ここで戦争が始まろうとしている。『転』というか『爆』。
「誰が既婚者を合コン会場に連れてきやがった…!?」
「とき子、付き合ってないよね!?」
「付き合ってはいない、だが、唇は奪われた…!」
「じゃあ、致してはないのね、良かった!!」

良くねえわ…!!

付き合ってるか付き合ってないかで言ったら付き合ってないけど、もうなんか好きの入り口に立ってたしな!!
トントン入ってますか?って扉をノックしたら、私の恋心は「トントン入ってますよ♪」って返事しちゃってたし、あとは、あなたが心の鍵を差し込めば恋の扉オープン…ってうるせーわ。
雰囲気に飲まれやすい自分に心底嫌気がさした瞬間であったし、不倫とはこんなにも入り口が身近にあるのかと驚愕した瞬間でもあった。

ちなみに「なんでそんな男しか寄ってこないの!?」とくだを巻くのに憧れて友人と飲みに行ったのだが、「モテてるみたいに言うなや」と冷静なツッコミによってそのセリフはかき消された。
尚、既婚者男性に対しては、友人経由で「シネ、チクるぞ」という短い脅迫伝言を残し、奪われた唇は今も0・2㎜ほど薄いです。嘘です。

その2 男友達
「男女の友情はあるか?」というよくある問いに対して、Noが私の考えだ。
なぜなら、29歳のクリスマスで、あんなに男女の友情を見せつけ楽しく過ごしていたのに、最後の最後で男と女の関係になってしまったのを目撃したから。

いや、友達は確かにいる。
性別など関係なく楽しくおしゃべり出来る存在は確かにあると思うし、実際、私はあまり性別関係なく喋れるタイプなので、友人と呼べる異性はいる。

しかし、一方がわずかでも「あわよくば」と思った時点でアウト、なんなら「弱っている」感じを全面に出し始めてもアウト、「特別な友情」と認識した時点ですでに危ういのではないかと思っている。
もうそれ、立派な恋ですやん…!とその男女に対してお尻がモゾモゾしてしまう。
(※愛情をもって異性間の友情を育んでいる人に対して否定的な気持ちは待っておりませぬ)

そんな私、若かりし頃にとても仲が良かった男友達に惚れてしまった経験ありだ。
しょっちゅう2人で飲みに行き「あんたとはなんでも話せる」「あんたと一晩過ごしても絶対何もない」と恋愛フラグとも言える異性間の友情を象徴するセリフを吐いて、セオリー通りまんまと惚れた。
きっかけは、彼の「お前といると飽きねぇわ」トークだった気がする。
「何を今更!」と笑いつつ、安定のトゥンク…!やだ今更なんでトゥンク…!

私は一度感じたトゥンクに黙っていられるタイプではないので、割とすぐ告白に踏み切った。
確かバレンタインに煎餅が入っていた缶缶に手作りのシフォンケーキを入れて渡して「これが本当の恋ならば、もっとラッピングは美しいはずだ!」と怒られた上でフラれたのである。
友情から芽生えた恋は雑になりがち。

ちなみに、この時は「半径2メートル内の異性に惚れたらダメー」というクダを巻きに友人と飲みに行ったのだが「私の見るがぎり、あんたの好きになる人って、半径2メートル内の人だと思うんだけど?」
その後、社内にて、隣の席の男性と結婚する流れになるので、彼女は預言者だったと思われる。

私主演の『29歳のクリスマス』が展開された場合、夜の空気感の薄さに謎の敗北感を覚える。
いかんせん、展開が妙に早い。
「ひとりになりたい夜」も「ひとりじゃ淋しい夜」ももう少しコッテリ煮込んでからお届けすべき事案ではなかろうか。

そして大人になりきった46歳のクリスマスは、「娘にサンタの正体を伝えるか否か」が最大のテーマであり、ほぼ9割バレているのに、残りの1割サンタを信じたいという眼差しでもって
「ヘアアイロンが欲しいのだけど、サンタさんに手紙…書いた方が良い?」との娘の問いに、なんと回答すべきか迷っている、超山場な夜を迎える予感である。

とりあえず、サンタ会議と称して飲みにいきたい所存です。


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