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もう私は蘭ちゃんじゃなくて、コナンくんの方だった

幼いころ、戦隊モノのピンクに憧れていた。
いや、ピンクっぽいポジションに憧れていた。

そこそこ戦闘能力があって、だけどチームじゃ1番守られるポジションで、たまに大活躍すると「さすがピンク!」わっしょい!
もちろん、レッドはピンクの私が好き。
ピンチには1番に助けに来てくれる。

幼い私は、お風呂で美しく溺れる練習もした。
ゆっくり後頭部から沈む。
髪の毛はふわふわと顔まわりを沿って漂う。
そこにレッドだ。
「ピンクー!!」(※変身してない)
そして美しく助けられる。髪の毛がヌメっと顔にへばりつかないよう、真上から真っ直ぐにお姫様抱っこで掬い上げて欲しい。
そして、優しくほっぺをペチペチ、私は「うっ」と小さくうめいて覚醒する。
「大丈夫か!?行けるか?」「ええ…行くわ、もちろん!」そして再び戦闘に向かう。

一滴も水飲んでないやんけ、気絶すんなや。
なんて、レッドは言わないからね。


そして、大人になって、戦隊モノを観ることもなくなり、そんな幼い頃の憧れを忘れ初めていたころだ。
ピンクポジションに似た女性を見つける。

毛利蘭だ。

戦闘能力がそこそこ高いうえ、工藤新一、改めコナンくんに四六時中助けられている。
隙あらば爆弾魔と居合わせ、密室に閉じ込められ、昔の恩師に裏切られる。
その度に「らーーーん!!!」と愛の叫びをほしいままにし、「オメーなら出来る!」と、その戦闘力の高さも信頼され、美しく救出されるのだ。

いい!いいよ!理想の助けられ方。
だけど、私の身の回りでそうそう事件は起こらない。当たり前だ。そんなに回りで次々と殺人が起こってはいけない。
もう、バカなんだから私!
と冷静になれるぐらい大人にはなっていた。

しかし、早い段階で助けられる日が来た。


茨城県ひたちなか市で行われたロックインジャパン。私は20代前半にそれに初めて参戦した。
おそらく、ロックインジャパン第2回目か3回目だ。
当時、モンゴル800が人気絶頂で私は彼らを一目見ようと、会場の中央位置で友人と今か今かと待っていた。

友人は、私より2回りほども小さいような、小柄な女の子だった。私たちは、ロックフェスが、どんなものなのか知らなかった。
モンゴル800がステージに上がった瞬間、人の波がどっと押し寄せ、初心者の私たちは、驚く間も無いまま、地面から足が浮いた状態でもみくちゃになった。
死ぬ…!やばい、これが圧死…!

本当に死を覚悟するような圧だった。私がこの状態だ、友人は、確実にどこぞを折ってしまうー!
私は焦って、とにかく人の波をかき分け、友人を端へ端へと押し出した。
そしたら、観客席をグルリと囲んでいる、屈強な黒人の警備員さんが私たちに気がついてくれた。ありがたい!私はまず、小さな友人を押し出した。
すると、彼は、まるで赤子を高い高いするように、友人の両脇を抱えて、フワッと会場の外へ出してくれた。

い、いいなぁー!あれ、すごく素敵!
まさに理想の助けられ方だった。
「おいでハニー」だ。

よし、次は私の番ですダーリン!
私は、彼に手を伸ばした。彼も私に手を伸ばす。
キタ!!フワッ!!

がしかし、屈強な彼は、おそらく私の全身スキャンを行ったのち、抱えるのムリ!と判断したのだろう、「Hey!Come on!」と叫び、しっかりと手を握ってきた。


完全にアレだ。懐かしの。


ファイトォォォォーーー!!
いっぱぁぁぁぁぁつ!!



yeeeeeeeeah!!!!
の方だった。


美しく救出されるのって難しい。

だけど、あの時彼は、私なら、腕一本あれば、自力で抜け出せると踏んでの救出方法だったとも言える。
か弱いだけの女子ではないと、少しでも思ってもらえたのなら本望だ。蘭ちゃんも何回かはこんな感じで助かっていると思う。

まぁ、人生において良いことなんだけども、あれから今に至るまで、美しく救出されるという夢は叶えられていない。

そして現在だ。
美しく救出されてはないのだけれど、コナンくんばりに娘の名前を呼んでいる。
娘が生まれて今に至るまで、風呂場で、あぜ道で、運動会で、川で、山で、海で。
「娘ぇぇぇぇぇぇーーー!!!」
「まさか…娘!!!」
「娘がそこにいるんだ!!娘!!」

命を守るとはこういうことなのだ。
全身全霊をもって君の名を叫ぶ。
まぁ、今のところ、せいぜい転ぶか、ほんの一瞬居なくなってしまうかなんだけれど。

いやそれでいい。間違っても蘭ちゃんのように、やたらめったら事件に巻き込まれないで欲しい。
お母さんと同じぐらい、命の危機と無縁に生きて欲しい。
それでも私は、きっと君の名を呼ぶ。
「バーロー、心配だからに決まってるだろ」

毛利蘭に憧れていた私は、多分、もう、コナンくん側の人間だった。夢は叶えられぬまま、次の段階へ進んでいる。

謎は解けない、真実はいつもたくさん、
頭脳は大人、体も大人!
それ、普通の大人な。
いや。それでいいのだ。







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