見出し画像

1万歩で手に入れるもの見失うもの

ウォーキングは好きですか?

1日1万歩、心と体の健康のために。
歩いていたら、色んな景色が楽しめる。
季節の移ろい、花の香り、草を刈り始めた土手では虫たちの乱舞。
雲の流れ、髪をすり抜ける風の囁き、指先に触れるのは鳥たちの求愛の声かしら。

なんてな。
私はそんなに歩いておりません。
引っ越してから手に入れたのは人類の叡智を集めた(?)電動自転車!
さぁ、私の足となり、大地を駆け抜けるのだ!
向かい風もなんのその、これなら3km先の駅だってすぐ着いちゃう!

「当たり前じゃん」

シラッと呟くのは夫。

夫、2年前から週末のウォーキングで10kmほど歩くのが日課になった。
在宅ワークで時間の調整さえ出来れば、平日も10km。
雨が降れば、散歩を待ち侘びる犬のようにベランダに張り付き、雨雲レーダーを見ながら東に雲が流れる様子を確認。
2年の年月でマイナス10kg、スーツだって新調した。

素晴らしきかな健康体。
なかなかの肉体改造をして、夫、今絶好調。

しかしだ。
たった一人絶好調が過ぎると、どうやら不協和音になるらしい。

「あそこの店まで1.2km、めっちゃ近いな」
「バスが来るまで待つより、歩いたほうが早く着く、たかだか2㎞だ!」
「ほーほー目的地まで3km、よしいいぞ!」

何がいいんだ、行くって言ってないからな!?

とにかく、家族を巻き込んで、歩かせたがる。

いや、わかる。
彼からしたら、健康のお裾分けだ。
「つまらないものですがどうぞ」

娘からしたらつまらなさ1200%、公園で1万歩とウォーキングで1万歩のモチベーションの差は明らかで、己のペースを崩さずにひたすらに歩く父の後ろ姿に舌打ちを繰り出す始末。
この舌打ち、君に届け!

先日、京都水族館へ行った。

「ニモだ!」「ちんちんちんちんチンアナゴー!」と喜ぶ娘に
「それよりこっち見てみてー」と先の水槽へを誘導する夫。
「エイの写真を撮りたい!」と水槽に張り付く娘に
「上から見た方が、エイが見やすいぞ」と上の水槽に誘導する夫。

明らかにイラつき出す娘。
「ちょっとペース合わせてあげてよ」と苦言を呈したところ
「俺今日、一万歩歩きたいからさ」

知らねーよ!!回遊魚か!!

どうやら、歩き出したら最後、一歩ごとに立ち止まるなど酸素を失うサメのようにストイック人生を歩み出した夫、娘のペースを見失う。

ちなみに、京都水族館へは京都駅から徒歩で行った。
もちろんそれは、夫にとって余裕の距離だし、むしろ一駅電車に乗るなど彼にとっては拷問も同じ。
マイカーで目的地に辿り着くのが当然な娘からしたらそこそこの距離感だけれど、電車の旅も楽しいからと、家を出る前から「今日はたくさん歩くからね」と何度も伝えておいた。

自宅から駅まで20分以上歩き、京都駅から目的地までの距離も文句を言わず、さぁやっと着いたと水族館で魚やクラゲに見入っていたら、もっと早く次の水槽へと誘われたら、それはキレるに決まっとるやろがい。地獄の詰め込みツアー思い出すわ。


「イルカショーがやってるよ」
「その後もぐもぐタイムもある!」
私たち母娘が、休憩を挟みながらタイムテーブルを確認しつつ、ぬいぐるみを買うか買わないか盛り上がっている頃、我が家のサメは、どうやらとうとう酸素不足に陥った。

ふと気がつくと、彼はこっそり姿を消し、電話をすると既に水族館から脱走していた。サメのくせに。

「俺、ちょっと寺見てくるわ」
自由だな回遊魚。

対して娘は、それに文句を言うでもなく
「お母さん!次どれ見に行くー?」とむしろ思い切り水族館を楽しみ出している。
イルカショーなんて2回観たし、イルカの水飛沫も堪能。
どうしても欲しいぬいぐるみ(3300円)をためていたお年玉で買うか我慢するかで20分ぐらい悩んでいて、母は心の中では「高ぇ!!」と思いはしたものの、お金の生きた使い方なんかを語って、最終的に自分のお金で買ったその大きなクラゲのぬいぐるみを大切に抱える娘の超絶激カワ表情を独り占めしたりした。


おい夫よ・・・!

ウォーキングで健康体を手に入れた代わりに、何か大切なものを見失っているぞ!!


1万歩に目的を見出してはいけない。
考えるな感じるんだ。
今見逃しているのは、娘の好奇心、大好きなものを選び取る眼差し、そして満足感。
それは今しか見せてくれない、刹那の表情。
1万歩より大切な瞬間目白押し。
2000歩の日があったっていいじゃぁないか。
のんびり観察を楽しむだけの日に育まれる健康もある。
(ちなみにこの日、私は2万歩を超えていた)

ウォーキングは好きですか?

季節の移ろい、花の香り、草を刈り始めた土手では虫たちの乱舞。
雲の流れ、髪をすり抜ける風の囁き、指先に触れるのは鳥たちの求愛の声かしら。

歩く目的はそれぞれあるけれど。
どうぞ感じることを大切に。
娘のさえずりは、いつか聞けなくなるかもしれないのだから。

…それを夫に教えてあげたかって?
自慢だけはしっかりしたが、それを汲み取れるかは彼次第。
ふふふ。そんなに優しいわけないやろがい。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?