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人生リハーサル『ぶっつけ本番!』

abさんの「人生リハーサル」のシナリオを投稿させて頂きます!

あらすじ

大手家電メーカーの営業を担当している能勢は、仕事が出来る人間と評判である。そう2日目は...。
能勢はとある能力をもっている。それは各曜日が2日間あるというもの。
能勢はその能力を活かし仕事、恋愛に勤しんでいる。
とある週、取引先との仕事で書類を自宅に忘れてしまい上司に叱責される能勢。バカにする部署の面々。そして、想いを寄せる吉野由奈まで...。
その翌日、月曜日の2日目。
書類を忘れず提出し、取引先の好みの差入をして商談は成功を収める。上司も同じ部署の面々も吉野も喜んでくれた。
1日目は失敗しても2日目でカバーすればいい。未来が分かりきったイージー人生を歩んできた能勢だったが、次第に失敗をカバーしてもその先に新たな壁が立ちはだかるようになってきてしまう。
上司からの叱責、吉野とうまくいかない恋愛。
とうとう、金曜日の1日目、感情が抑えきれずに上司を殴ってしまう。
2日目でカバーすれば良いと思った能勢だったが、上司の態度に納得がいかず2日目も拳を振り上げてしまう。
しかし、上司はまるで行動を読んでいたようにその拳をするりとかわした。
上司は、「私もリハーサルしてたんだ」と告白。リハーサルの能力は公言すると能力がなくなると聞いた。
能勢は未来が分かりきった人生はもうやめようと吉野にリハーサルしていることを告白。
これでドラマは終わりと思いきや、吉野もリハーサルをしているかの様な素振りを見せ…。

登場人物

能勢良太 ノセリョウタ(25)
・・・能勢は大手家電メーカーの営業。仕事に恋愛に勤しんでいる。周りからは完璧な男と思われているが、それは2日目の話。1日目はとても冴えない男である。

吉野由奈 ヨシノユナ(24)
・・・能勢の後輩。能勢に想いを寄せている。

高宮悟 タカミヤサトル(45)
・・・能勢の上司。厳しいと評判の男である。

水野圭 ミズノケイ(50)
・・・能勢の会社の取引先の男。

シナリオ

○とあるレストラン・中(夜)
  能勢良太(25)と吉野由奈(24)が食事をとっている。
吉野「能勢さんってすごいですよね、何でも完璧っていうか」
能勢「全然そんなことないよ」
吉野「人生ってリハじゃなくて、全部本番じゃないですか。能勢さんみたいに、完璧にこなせる人生歩んでたら楽しいでしょうね」
能勢「……」
能勢M「そう、普通は人生にリハーサルなんてない。いつもぶっつけ本番だ」

○オフィス
  能勢、仕事をしている。
能勢M「ライブのリハーサル、結婚式のリハーサル、オリンピックの聖火のリハーサル。それはどれもリハーサルのようだが、どれも毎日ぶっつけ本番だ。でも僕は違う。各曜日が2日間くる。1日目がリハーサル。そして2日目が本番だ」

○商談室
T「月曜日1日目」
 能勢と上司の高宮悟(45)が、取引先の水野圭(50)と名刺交換をしている。
高宮「さあ、どうぞお掛けください」
 と、三人座り。
高宮「良かったら会社のお土産に」
 と、お菓子の紙袋を渡す。
水野「ありがとうございます。へえ、これ何ですか」
高宮「私の地元のお菓子でして、すごく甘くて美味しいんですよ」
水野「(素っ気なく)ああ、そうですか。で、話し進めますか」
高宮「そうですね。能勢、書類」
能勢「あ、はい」
 能勢、バッグの中を漁りだす。しかし、いくら探しても出てこない。
能勢「あれ、おかしいですね」
 苛立つ水野。
高宮「どうした?」
能勢「書類、家から持ってきたはずなんですけど...」
 能勢、商談中の机の上にカバンの中身を全部出す。
能勢「……ないですね。ハハッ……」
高宮「(怒りを噛み殺し)能勢くん、あとで話そうね」

○オフィス
 落ち込んで歩いている能勢。
 同僚たちが意味深に能勢に視線を送る。
 能勢、吉野由奈(24)とばったり会う。
能勢「吉野さん」
 吉野、無視して去ろうとする。
能勢「ちょっと」
吉野「大きな商談、ダメになったそうですね。 私の部署まで噂が広がってますよ」
能勢「えっ」
吉野「仕事できない人と一緒にいると、こっちも仕事できないって思われるんで」
 と、吉野去る。
能勢「ええ…」
能勢M「これがリハーサル」

○商談室
T「月曜日2日目」
  能勢と高宮が、水野と名刺交換をしている。
高宮「さあ、どうぞお掛けください」
 と、三人座り。
高宮「良かったら会社のお土産…」
能勢「こちらをどうぞ」
 と、紙袋を渡す。
高宮「(え、と)?」
水野「ありがとうございます。へえ、これ何ですか」
能勢「最近有名な辛子明太の煎餅なんです。行列のできるお店で中々手に入らないのですが、ちょうど今日手に入りまして」
水野「あ!これ知ってます。この間テレビでもやってたやつですよね。私、辛いのがすごく好きでね」
高宮「あー、辛いの、美味しいですよねー!」
能勢「それじゃあ、商談を始めましょうか」
 能勢、バッグの中から書類を取り出す。
 その顔は自信に満ちた表情である。

○オフィス
 能勢、やってくる。すると、同僚たちが立ち上がって拍手。
高宮「能勢くんが商談を決めてくれました!」
 能勢、照れ臭そう。そこへ、吉野がやってきて。
吉野「商談決めたらしいですね」
能勢「ま、まあ」
吉野「良かったら明日、ご飯行きません?」
能勢「え!」
能勢M「これが本番である」

○レストラン(夜)
T「火曜日1日目」
 能勢と吉野、食事をとり終えて席で精算をしている。
吉野「ご馳走様です。良いんですか、全部出してもらって」
能勢「全然、いいよ。それに吉野さんと食事できて嬉しかったな」 
吉野「(照れて)…もう」
能勢「これからどうしますか」
吉野「え……」
 二人の間に予感めいたものがあり。
吉野「とりあえず出ますか」
能勢「そ、そうですね」
 と、吉野立ち上がるとワインを持ったウエイターとぶつかり、ワインを被ってしまう。
吉野「あ!」
能勢「ププッ……」
 と、思わず吹き出し。
吉野「いま、笑いました?」
能勢「いや、全然」
吉野「最低です」
 と、吉野去っていく。
能勢「えぇ……」
×     ×     ×
T「火曜日2日目」
能勢「これからどうしますか」
吉野「え……」
 二人の間に予感めいたものがあり。
吉野「とりあえず出ますか」
能勢「そ、そうですね」
 吉野、立ち上がろうとした時、瞬時に能勢が吉野をガード。
 能勢の背中にワインがかかる。
吉野「能勢さん大丈夫ですか?」
能勢「こんなこともあろうかと安いシャツ着てきたんで」
吉野「こんなことも?」
能勢「いえ、ちょっと着替えないといけないので近くに休憩できるところがあれば……」
能勢M「そう、こんな感じにリハーサルすれば大体のことは上手くいく。未来が分かるから2日目はイージーなのである」

○オフィス
T「水曜日1日目」
 能勢、デスクで仕事をしていると、高宮がやってきて。
高宮「おい、能勢」
能勢「はい」
高宮「この間の取引先の書類、発注数が間違えてたって。お前ちゃんと確認したのか!?」
能勢「そうなんすか。まあ...大丈夫じゃないですか?」
高宮「はあ? 何が大丈夫なのか言ってみろよ」
能勢「明日になったら分かりますよ」
高宮「今日どうにかしろよ!」
能勢「わかってますって、今日どうにかしますから」
 と、能勢去ろうとして。
高宮「おいどこいく」
能勢「帰って寝ます!」
 と、去る。
高宮「おい!」
 心配そうに見つめる吉野。
×     ×     ×
T「水曜日2日目」
能勢、デスクで仕事をしていると、高宮がやってきて。
高宮「おい、能勢」
能勢「はい」
高宮「この間の取引先の書類、発注数が間違えてたって。お前ちゃんと確認したのか!?」
能勢「もう先に手をうってありますから。この発注書を作って先ほど先方に送りました」
 と、発注書を見せて。
高宮「もう遅いんだよ。別の業者にお願いするって」
能勢「え?」
 吉野、心配そうに見つめて。
能勢「……」
能勢M「そう、曜日が2日間あるからといって全ての人生がよくなる訳ではない。ある程度、問題回避出来るということだ」

○オフィス内の物置部屋(夜)
 T「木曜日1日目」
 壁時計は20時を指している。
 扉が開くと能勢の姿。
 中には吉野がいる。驚いた表情。
能勢「どうしたんですか、こんなとこで」
吉野「ちょっと探し物を……」
能勢「一緒に探そうか」
 と、躓いて吉野と触れてしまう。
能勢「……」
吉野「……」
 能勢、雰囲気に任せて吉野をだきしめる。
吉野「能勢さん、ダメです」
 と、扉のあく音。
 現れたのは高宮。
高宮「こんなとこで何してんだ」
吉野「ごめんなさい」
 吉野、去っていく。
能勢「えぇ……」

○オフィス(夜)
 T「木曜日2日目」
 壁時計は19時30分を指している。
能勢「(独り言)先に行って脅かすか」

○オフィス内の物置部屋・前〜中(夜)
 中へ入ってくる能勢。
 すると、吉野と高宮が抱き合っている。
能勢「(え、と)」
 能勢、とっさに扉を閉める。二人にはバレていないよう。
 部屋の中から声が漏れて聞こえる。
高宮の声「まだ少し仕事残ってるからまた8時くらいに来るよ」
能勢「えぇ……」

○オフィス
 T「金曜日1日目」
 仕事をしている能勢。高宮がやってきて。
高宮「能勢、ちょっと」
能勢「?」

○商談室
 能勢、高宮が話している。
高宮「この間の取引先の件だが、もうウチとの取引をやめるそうだ」
能勢「え…、自分のせいってことですか」
高宮「お前のせいじゃなきゃ誰のせいでこうなったと思ってるんだ」
能勢「…原因はなんですか?」
高宮「はあ?」
能勢「その、こうなった原因ですよ。どうすればこの失敗をリカバリーできたんですか」
高宮「失敗はどうにも覆らない」
能勢「覆ります」
高宮「もうお前は違う部署に異動してもらう。これも覆らない。社長のご意向だ」
能勢「えっ」
高宮「嫌なのか」
能勢「……」
高宮「土下座しろ。そうしたら、もう一度社長に掛け合ってやる」
能勢「……」
高宮「早く、土下座」
 能勢、高宮を殴る。吹き飛んだ高宮。
高宮「お前はクビだ!」
能勢「クビにしてみろ!」
 と、去る。

○オフィス
 T「金曜日2日目」
 仕事をしている能勢。高宮がやってきて。
高宮「能勢、ちょっと」
 能勢、その場で土下座する。
能勢「申し訳御座いません」
 みな、何があったのかと興味深々に見いている。
高宮「能勢、何してるんだ。みんな見てるじゃないか」
能勢「取引先との取引が終わってしまったと聞きました。私の責任です。誠に申し訳ございません」
高宮「謝って済む問題じゃない。土下座したって覆らない」
能勢「それは承知の上です」
高宮「お前はクビだ」
能勢「それは納得が」
高宮「お前が納得しないとか関係ないの。クビなんだよ」
能勢「……社長に掛け合うって言ってたのもウソだったんですね」
高宮「?」
 能勢、立ち上がり、高宮を殴ろうとする。
 しかし、殴られるのが分かっていたかのように避ける高宮。
能勢「(え?と)」
高宮「(耳元で)お前も各曜日2日間あるんだろ?」
能勢「(なんで、と)」
高宮「(小さく)各曜日2日間あったって人生はそう良くなるもんじゃない」
能勢「……」

○レストラン(ファーストシーンに戻って)
 T「土曜日2日目」
 能勢と吉野が食事をとっている。
吉野「人生ってリハじゃなくて、全部本番じゃないですか。能勢さんみたいに、
 完璧にこなせる人生歩んでたら楽しいでしょうね」
能勢「そんな完璧じゃないよ」
吉野「リハあったらいいのになー」
能勢「リハなんてあったら人生って退屈だよ。だって、おれ……人生リハーサルしてるんだ」
吉野「えっ、能勢さん何言ってるんですか?(微笑う)」
能勢「(微笑って)」
吉野「じゃあこれもリハーサルして本番だっていうんですか。成功しました?」
能勢「うん」
吉野「能勢さん、ウケますね」
能勢「実はこの能力って他人に公言するとなくなるらしいんだ」
吉野「……」
 吉野、急に立ち上がる。
能勢「?」
 ウエイターがワインをこぼす。
 それを背中で受け止める吉野。
能勢「えっ?」
 吉野、意味深に微笑って。

終わり


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