見出し画像

サトーくんの思春記

まず断っておくが、これは私の話しではない。
兄の知り合いの友人のサトーくんが学生時代に犯した小っ恥ずかしい物語である。
そう、他人である。
赤の他人であるからこそ、責任も感じず自由に描ける。
そんなサトーくんの変わった思春期のお話しをしたい。

【第一話】サトーくんブルートゥースでピンチの回

僕、いや、サトーくんが高校生のときの話し。
サトーくんは実家トイレの空間が好きだった。
トイレは少し余裕のある広さで、よく便器に座って長時間過ごしたものだ。

高校生の頃のサトーくんは歌手になることが夢で、親が仕事で家を空けている時はブルートゥーススピーカーにスマホをリンクさせ大好きなミスチルの音楽を流して歌っていた。
自宅はマンションで角部屋と言うこともあり、多少音が大きくても気にすることはない。
レコーディングルームのようにトイレの個室で歌声を録音することもあるし、時には桜井さんになりきり少し上ずった声で「もう一回やらせて」と一人録り直すこともある。

そんなある日、サトーくんはリビングでミスチルの「蘇生」を熱唱していると母が予想よりも早く仕事から帰ってきた。
母の帰宅を察知したサトーくんはすぐに音楽を止めソファに腰掛ける。
恐らく母は歌声に気づいていたと思う。
気まずい空気が漂っていた。
しかし、母は気遣い上手。
何事も無かったかのように夕食の準備に取り掛かってくれた。
そのままソファに寝転び、暫くスマホをいじっていると、アイフォンのホームボタンの上にいかがわしい広告が現れた。

サトーくんはこの当時高校生である。小学生並みの下ネタで盛り上がれるような普通の男子高校生。
親指は一心不乱にページを進めていった。
この親指め。
サトーくんは気づくとトイレの個室にちょこんと腰掛けていた。
鍵は掛かっている。トイレットペーパーも十分にある。ズボンも脱いだ。
いでよ!封印されしエクゾディア! 
全ての準備は整った。

ここから自粛したいところではあるが、文章にモザイク加工するのでぜひ書かせて頂きたい。

いつもお世話になっている大人向け動画サイト様にアクセスさせて頂き、お気に入りの動画を再生させる。

・・・おっと。
再生するときの気をつける点は、先にダミー動画を流し音量0状態を確認するのが鉄則だ。
サトーくんはハブVSマングースの動画を流した後、お気に入り動画を再生させた。
音量は0。
よし、セット完了。
アイフォンのサイドボタンを押して一段ずつ音量を上げていく。
ここでの注意点は聞こえないと思って上げ過ぎてしまうと演者(ここでは演者と呼ばせてもらう)がいつ大きな声を出すか分からない。
あれ?これ音なしのパターンかな?と思って音量を一気に上げてトラップに嵌った経験がある。
愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶのだ。byビスマルク ※サトーくんは前者

演者の動き、仕草から音を想像し、音量を上げていく。


あれ?

音が聞こえない。

確かに5回くらいサイドボタンを押したが一向に音は聞こえなかった。

サイレントパティーン?

しかし、これはサトーくんのお気に入り動画。
何百、何千と見てきたものだ。ビデオテープならとっくにテープが切れているレヴェルだ。
何かがおかしい。
石橋を叩いて渡るどころか石橋を信用せず川に入って渡るようなサトーくんはこの状態に不安を覚えた。
しかし、この時のサトーくんは賢者タイム前の愚者モードである。
音量をもう一つ上げてみる。
すると、微かに音は聞こえる。

よし。

サトーくんは早くも音階を掴んだ。
あと5回は音量を上げれる、と。
ポチポチとサトーくんは音量を上げていく。

しかし、またしても違和感が。
演者のセリフがリビングから聞こえてくるではないか。


・・・ぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!


ブルートゥース繋ぎっぱなしやないけ!!!!!!!!!!!!!!


石橋は崩れた。
ここで聞こえる音が1だとすると、リビングでは100くらいの音で流されているはずだ。

誰か俺を殺してくれ!!! 
サトーくんは天を見上げた。

しかし、このまま死んでは一生俺は変態サトーくんとして名を刻まれることになるだろう。

リビングから流れたのはサトーくんのスマホからではなく、隣の部屋の住人か、下の部屋の住人が見ていた動画の音が誤ってリビングのスピーカーに繋がったのだ。
そう拡大解釈し、自分に言い聞かせた。

もし、母に問い詰められてもシラを切ろう。

ズボンのチャックを上げ、恐る恐るリビングに戻る。

母の姿はない。
あれ?
母はベランダにいた。洗濯物を取り込んでいたようだ。
サトーくんは何も言わず定位置のソファに腰掛ける。

リビングに戻った母は何と言わず洗濯物を畳みだした。

母は気遣い上手である。


【最終回】ようこそサトーさん

大学生になったサトーくんは少し浮かれていた。
彼女が家に遊びに来るのだ。
彼女は高校の時に同じクラスだった子。
一人暮らしの家に彼女を呼ぶのは学生時代の一大イベントである。
気合いが入るサトーくん。
玄関、廊下、リビング、トイレ、、、と動線の整理整頓を入念に行う。
兄のおさがりでもらった香水を手首に3プッシュ。
勿論、香水なんて使ったことはないが、プライベートではつけてますけど?的な感じで彼女を待った。

暫くして彼女は現れた。
彼女もきっと今日に向けて色々準備してきてくれたのだろう。
シワ一つないオシャレな洋服に包まれていた。

彼女が買ってきてくれたポテロングとファンタなんかを飲み食いしながらくだらない話しをした。
話しの内容といえば高校の時、クラスメイトだった坂本くんがプールの授業にシャンプーを持ってきたことや、クラスメイトの坂本くんだけティッシュ配りの人から無視されることや、修学旅行で坂本くんがいない!と捜索していたら最初からずっと側にいて坂本くんも一緒に探してくれていたことである。

そしてクラスメイトの坂本くんが天体望遠鏡を使って女子更衣室を覗こうとしたという話しから、男子ってそういう動画とか見るの?という流れになった。

俺は見たことねぇけど。。。
サトーくんはウソをつく。

もしここで、見るよ。と安直に答えれば、どんなの見るの?と聞かれてしまうのは分かりきったことだ。
ウソをつくのは申し訳ないが何よりナース系動画を好んでいることがバレてしまうのが怖かった。

彼女と付き合う前の話し。
彼女がハロウィンの時に撮ったプリクラを見せてくれた。
その時、彼女はナースのコスプレをしていた。

ナースが好きなのは僕の方が先だ。
ナースが元々好きだったから、ナース動画を見ていただけで、彼女がナースコスプレをしたからナース動画を見始めた訳ではない。
彼女始まりのナース好きだと完全超絶気持ち悪い。
そこだけはハッキリさせておきたい。

じゃあ動画見てみようよ。彼女はノリノリだった。

これは、、、もしや、、、ある?
流れに的にはこれはあるのではないか?
いでよ! 封印されしエクゾディア!
準備は整った。

サトーくんはパソコンを開く。

どんなサイトがいいのかなー?と分からないフリして、いつも大変お世話になっている大人向け動画サイト様にアクセスする。
安定したサーバー。サムネイルの見易さ。豊富な動画数。
ありがとう、シェイシェイと心の中で感謝を告げてサイトを見る。


、、、ん?


彼女の目線は画面右上に向けられていた。


👤「ようこそ、サトーさん」


、、、ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!


ログアウトしてなかったああああああああああああ!!!!!!!

さらに彼女の目線は画面中央に移る。


「サトーさんにおすすめ動画」

そこにはナース姿の演者たちが、、、


ふぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!


終わった。

大学生1年で俺の人生は終わった。
今までありがとうよ、大好きなサイト様。
決してあなたのレコメンド機能が悪い訳じゃない。僕がログアウトしてなかったのが悪かったのよ。
サトーくんは天を見上げた。

彼女は動画をまじまじと見ながら言う。
「へ~、ナース好きなの? 面白そうだから見てみようよ」

、、、えっ?

彼女は最高に優しくて思いやりのある人だった。

彼女は楽しそうに動画を見ている。
ナース好きなのは僕の方が先!とか意地張ったのが恥ずかしい。

その日、何事もなく夕方に解散した。

彼女と別れる前、最後にハグをした。
下心とかじゃなく、何か自分を認めてもらえた気がして嬉しかったのだろう。
胸の中で彼女は言う。
この香水臭い、と。


最後に

これがもし賞を取るとなると、発起人の岸田さんがツイッターで拡散するという。
(賞がとれる前提で話してます)

岸田さんはフォロワー数7万6千人いるらしい。
関ヶ原の戦いの東軍の兵士に匹敵する人数だ。
岸田さん、もしかして徳川家康?

そんな影響力のある人が拡散するとなると、僕、、、サトーくんの恥ずかしい過去が晒されてしまうじゃないか。
まあ、僕の話しじゃないからいいんだけど。

とりあえず、この話しで読者の皆さんに一番伝えたかったことは、僕の話しではないということだ。


         制作・著作
         ━━━━━
          ⓃⒽⓀ

宜しければサポートをお願いします。サポート頂くとすごく励みになります。9:1で嫁さんの懐に入るかもしれませんが!