【詩】静けさと報い



彼の絵は彼が死んだあとに値段がつけられた。

彼を軽蔑していた遺族は莫大な資産を得た。

彼は彼の絵により金銭的に報いられることがなかった。


生前の彼には十分な報いがあった。

描きたい絵をうまく描けるかどうか。

彼の悩みはその一点だけだった。

彼はそれを十分に実現した。

絵筆を手に取り、キャンバスに触れるだけで満足だった。

絵を書き終えた彼が温かい珈琲をすすると、限りないやすらぎが訪れた。



彼は貧困のまま周囲に理解されずに死んだ。

けれども生前の彼は誰よりも満ち足りた表情を浮かべていた。


莫大な資産を得た遺族はそれぞれ不幸な末路をたどった。

ある者は酒におぼれ、ある者はギャンブルに依存した。

いずれも荒廃した人生を送り、資産を使い果たした。


彼の人生は誰よりも静かで、誰よりも豊かだった。

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