[ナカミチの考察(VOL.9)] DRAGON-CT – アジマスに拘るナカミチがリリースしたアナログプレーヤー
1983年、カセットデッキのアジマスに対して一番コダワリをもっているナカミチがリリースしたアナログプレーヤーが、ドラゴン・コンピューティング・ターンテーブル。つまり、DRAGON-CTです。
はじめに
1982年、ナカミチが独自開発した星形着磁の「スーパーリニアトルクDDモーター」及びアブソリュートセンターサーチ機能を初搭載し、センセーショナルなデビューを飾ったのが、ナカミチ初のアナログレコードプレーヤーであるTX-1000でした。(発表は1981年) その翌年である1983年9月、兄弟機として登場したのが、今回のDRAGON-CTとなります。ちなみに開発中のモデル名はTX-700、販売時にDRAGON-CTとなりました。
まず、最初にTX-1000とDRAGON-CTとの相違点を列挙してみます。
・TX-1000はアームレス、DRAGON-CTはストレートアーム搭載(トーンアームパイプ交換式)
・DRAGON-CTはオートリターン機能搭載のセミオートマチック機
・アブソーリュートセンターサーチ機能をTX-1000はプラッター内、DRAGON-CTはプラッター外に搭載
・TX-1000は偏心量をデジタル表示
・TX-1000は電源部が別ユニット
・TX-1000はピッチコントロール時もクオーツロック
簡潔にまとめると、TX-1000は電源ユニットが別、アームレス、ダストカバーレスというエキスパート向けのモデルであったのに対し、DRAGON-CTはダストカバー、ストレートアームをコンポサイズの1ボディに収め、現実的で使いやすいプレーヤーに仕上げ、価格もTX-1000の110万円に対して40万円と半値以下に抑えたモデルです。
それでは、順に各機構を追ってみましょう。
偏心による音質劣化を解消した「アブソルートセンターサーチ機構」
アブソルートセンターサーチ機構を解説する前に、レコードの偏心とは何かを説明する必要があるでしょう。レコードの規格では、中心穴径が7.24+0.09mm、-0mmと決まっています。そして、ターンテーブルスピンドル径の規格は7.05~7.15mmです。スピンドルが規格の最小値、レコード穴径が規格の最大値の場合、すき間が0.28mm、偏心量はその半分である0.14mm。そしてレコードは、音溝に対する中心穴の偏心量は0.2mm以下という規格になっています。これら全て最も悪い条件を想定すると、0.34mmの偏心量となります。この状態では、仮にターンテーブル自体のワウ・フラッターが無いとしても、レコードの最内周では約0.15%(WTD RMS)にも達するのです。当時のDD方式最高級ターンテーブルのワウ・フラッターは0.003%(WTD RMS)程度だったと思いますが、偏心があったならば瞬殺されてしまいます。それほど偏心は重要であり、取り除く必要があるとナカミチは考えたのです。
DDモーターのスピンドル上にメインプラッター、その上にガラス製のセンターサーチプラッター、さらにその上にターンテーブルマットが載っています。センタースピンドルを中心にして、ガラスプラッターを押すためのセンターサーチロッドがあり、同一直線上の反対側に偏心量を測るためのセンサーアームの針先があります。センターサーチを開始すると、センサーアームがレコードのエンドグルーブ(最内周円の溝)をトレースし、偏心量の測定と併せてメインプラッターに刻まれているスリットにより、プラッター回転角を測定します。最大偏心時(センターサーチロッドを押す方向と180度反対方向に対する最大値)でプラッターを停止させ、センターサーチロッドにてセンターサーチプラッターを偏心量α分(補正量)を押すことで偏心を取り除く仕組みになっています。
TX-1000はプラッター内にプラッターを動かす機構があるので、プラッターを停止させることなく補正することが出来るのですが、DRAGON-CTは補正機構が外部にあるためにプラッターを停止させる必要があるのです。しかし、私はこれはデメリットではなく、この一連の動作を見て楽しめるというメリットであると思います。
そして、アブソリュートセンターサーチ完了後は、偏心量は±20ミクロン以内に補正され、偏心による音質劣化が全く感じ取れないほどの数値となるのです。
アナログプレーヤー技術のすべてを結晶
スーパーリニアトルクD・Dモーターは、1982年に発売されたTX-1000、DRAGON-CT、ZX-9に搭載されたDDモーターと基本構造は同じです。アナログプレーヤーで、未だにベルトや糸によるドライブ派が根強いのは、DDモーターによるSNの極が切り替わる際に発生するトルクムラによるフラッター成分です。このトルクムラをなくすためにS極からN極への磁束変化がサイン形状となるようローターマグネットに特殊な着磁を施し、さらに駆動コイルへの電流切り替えもサイン波状として、磁気的90度ずれた2対のサイン波状トルクを重ね合わせるという方法を採用する事により、合成トルクが常に一定となり、ゴギングやトルクムラの無い滑らかな定トルク駆動を実現し、フラッターの発生を根本から抑える事に成功したのです。
このモーターの特性が良くなったことで、ターンテーブルの慣性マスを必要以上に大きくする必要がなくなり、軸受けへの負担を抑えることが可能となり、ランブルが発生する危険性も減っています。
また、メインプラッターとセンターサーチプラッターは数ミクロンの空気層を介して密着していて、この空気層により互いの振動を吸収して、ターンテーブルの鳴きが低く抑えられています。
[キャビネット]
ハウリングや外部振動による悪影響も、プレーヤーの音質劣化の大きな要因となります。これを防ぐために、ターンテーブルやトーンアームをスピーカーから発せられる振動から完全に遮断することが必要で、そのためDRAGON-CTではダブルサスペンションシステムで床振動を吸収し、2重構造キャビネットで空気振動を通過させるという2段構えで万全の振動対策を施しています。
ボトムボードは、フェルトパッドとラバーインシュレーターで制振、その上にスプリングインシュレーターとラバーダンパーがあり、トップボードが載っています。そして、ダストカバーはボトムボードに取り付けられているため、ダストカバーが受ける空気振動はトップボードに直接伝わることがありません。そのため、ハウリング特性は極めて良好なものとなっています。
回路部、メカ部はトップボード裏にマウントされていますが、パンチングメタルでカバーされています。多くのレコードプレーヤーは、キャビネット内部をくり抜いてマウントされるのですが、トップボード、ボトムボード共に中空部がないため共振しにくく、横から受ける空気振動はパンチングメタル部分を通過させることで、影響を受けにくくなっています。
この効果は、トップボードを指の背でコンコンと叩いても、音を拾わないことを体感済みで、感心しています。
[オールダンプ方式高剛性ストレートトーンアーム]
DRAGON-CTは、このクラスの常識をやぶり、たったひとつだけのトーンアームを選択しました。ユニバーサル型とせず、ローマス・ハイコンプライアンス設計の高性能MCカートリッジにターゲットを絞ったのです。
アームパイプは剛性の高い真鍮製とし、アーム先端部の軽量化と強度アップを両立。針先の微妙な動きに対する追従性を高め、アームパイプ部の強度のバラツキに起因する部分共振の発生を防いでいます。しかも、垂直方向軸受けはレコードのソリによってトーンアームが上下動しても、針先が音溝に対して常に垂直となるように設計し、また水平方向軸受けも高精度ラジアルボールベアリングを採用して、水平方向での初動感度を高めるなど、トーンアームの最も重要な性能である動的バランスを極めて高いものとしています。
また、アームパイプは交換式とし、オプションで追加購入する事で各種カートリッジに広く対応しています。アームパイプと本体との接合には確実なチャッキングジョイント方式を採用。パイプ内のリード線を太くし、さらにコネクター部を金メッキ割ピンによる挿入方式でセルフクリーニングを兼ねた面接触としたため、カードリッジの出力ロスは最小限となり、音質劣化を防いでいます。
さらに、経年劣化の少ないシリコンオイルによるオイルダンプ方式を採用し、5~10Hz付近での低域共振を抑制し、低域のセパレーションと共振特性を大きく改善。ローマス・ハイコンプライアンスタイプの高性能MCカートリッジのクオリティを余さずに引き出します。
[オートリターン方式のセミオートシステム]
DRAGON-CTの特筆すべき点は、使い勝手の面において、音質に一切の悪影響を与えない範囲でセミオートシステムを採用していることです。
トーンアームは光学スイッチと専用コアレスリニアモーター駆動によるオートリターン方式。もちろん、レコード演奏中にはトーンアームへ全く負荷を掛けません。アーム・キューイングや演奏カットも、前面のコントロールパネルから可能です。アームの昇降はオイルダンプ方式の滑らかなアームエレベーターにより、とてもスムーズとなっています。
[付属品について]
販売台数が100台ほどと云われているTX-1000程では無いですが、DRAGON-CTの生産台数も数ロットということですから、全世界で数千台程かと思われます。
以前に、その付属品一式(トーンアームダンピングオイル注入用注射器を除く)を別途入手したので、紹介します。
[社外品について]
・ディスクスタビライザー(オーディオテクニカ製 AT-665BX)
レコードは、保管状態の悪かった場合や輸入盤ではソリがあるものがあります。折角、絶対中心を合わせたのに、針の上下動が大きいことが気になり、その場合に限定した対策として「吸着型スタビライザー」を使用しています。DRAGON-CTは、アーム高を調整する事ができないので、オリジナルのラバーマットの厚みと同等であることが、このモデルの選定理由です。(オリジナルのラバーマットの厚みは6mm、AT-665BX/665は5mm、AT-666/666EXは9.5mm) ちなみに、このスタビライザーは真鍮製で重量は約1kg、オリジナルのラバーマットの550gに対して少しだけ重くなります。(AT-665は550g)
ただ、製造から年数が経過しているので、吸着の要となるラバー部の状態の良い個体が少ないのが難点です。
・S字アーム(オーディオクラフト製 MC-300)
ターンテーブルが好きな方の多くは、ソースによりカートリッジを交換して聴き比べをしたいと思います。交換用アームパイプが複数あれば良いのですが、現時点での入手は困難ですし、カートリッジシェル単位での交換もしたいと考え、オーバーハング、アーム有効長が同じで、アーム接合部が勘合するS字アームを検討した結果、このモデルになりました。
まとめ
DRAGON-CTに基本的に満足しているのですが、強いて不満点を挙げるとするならば、
・アームをアームホルダーから移動させると連動してターンテーブルが廻るという構造になっているため、ゼロバランス調整時にターンテーブルが動き出し、カートリッジの針先破損など注意が必要という点
・アーム高が調整できないため、カートリッジ取り付け時にスペーサーで調整するという点
また、これまでに2台のDRAGON-CTを入手し、友人所有の1台と併せても3台という、サンプル数としては少ないと思いますが、不具合に関して少々。
不具合については、3台ともアブソリュートセンターサーチ機能が故障していましたが、経年劣化した電子部品の交換、可動部の注油で完治しました。その他は、アーム・エレベーションの動作がスムーズで無いなどの軽微なものであり、モーター不動など致命的な個体はありませんでしたので、比較的故障の少ないモデルではないかと思います。
スペック
≪フォノモーター部≫
駆動方式 ダイレクトドライブ
ドライブモーター Quartz PLL DC、ブラシレス/スロットレス/コアレス
スーバーリニアトルクモーター
回転数 331/3、45 R.P.M
ピッチコントロール ±6%可変
メインターンテーブル アルミダイキャスト製(厚さ18mm、直径310mm、重量1.4kg)
センターサーチターンテーブル ガラス製(厚さ6mmm、直径313mm、重量1.1kg)
ターンテーブルマット ゴム製(厚さ6mm、直径303mm、重量550g)
起動特性 1回転以内
回転数偏差 測定値限界外(クォーツロック時)
時間ドリフト 測定値限界外(クォーツロック時)
ワウ・フラッター 0.008%(WTD RMS/FG直読法)
0.03%(WTD RMS、センターサーチ後)
S/N比 78dB以上(DIN-B)
慣性モーメント 380kg・cm2
≪トーンアーム部≫
形式 スタティックバランス、ストレートアームパイプ型、
●オイルダンプ機能内蔵 ●アームパイプ交換可能
全長 305mm
実効長 237mm
実効質量 14g(カートリッジ含まず)
針圧可変範囲 0~3g
適合カートリッジ重量 4~11g
カートリッジ交換方式 アームパイプ交換方式(チャッキングジョイント方式)
オフセット角 21°30′
オーバーハング 15mm
トラッキングエラー +2.5°~ -1°
アームリフター オイルダンプ方式
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 23W
大きさ 546(幅)x230(高さ)x421(奥行)mm
重量 約20Kg
販売年 1983年
当時の定価 400,000円
出典: ナカミチ株式会社 DRAGON-CT カタログ (1983年)
最後に
レコードの偏心を自動補正し、絶対中心に合わせるというターンテーブルは世界唯一です。この偏心が音に対して悪影響を及ぼすという点に気が付き、克服する事に挑戦し、世にリリースしたナカミチに賞賛を贈ると共に、自動偏心補正を現代技術で再構築したプレーヤーを改めて見てみたいとも思います。
2023.9.30
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