[ナカミチの考察(VOL.15)] 1000mb - ミュージックバンク・システムを突き詰めたCDトランスポート
以前、ナカミチ初のミュージックバンク・システムを搭載したCDプレーヤーということで、「CDPlayer2」を紹介しましたが、今回はそのミュージックバンク・システムをとことん極めたCDトランスポートである1000mbを紹介します。
はじめに
高級CDプレーヤーにおいて、床振動やメカニズムの振動に対して、ボディの高剛性化や高性能インシュレーターを装備するなど、かなり徹底した対策をとることは常識となっています。しかしながら、もうひとつの振動要因である「空気振動」に対して、そこに着眼した技術は見受けられるものの、十分な解決策が講じられたとはいえないでしょう。
ナカミチでは、スピーカーの音圧などによる「空気振動」が与える影響は決して無視できないと気が付いたのです。サブミクロン精度で、ディスクのピットに対してフォーカスを合わせる必要があるピックアップ部やディスクを振動させ、サーボ回路で取り切れないフォーカスエラーを引き起こしていると考えたのです。そこから開発はスタートしました。
アコースティック・アイソレーション・システム
「空気振動」の影響を排除するには、まず第一のポイントして、空気の流れをシャットアウトする必要があります。そこで1000mbでは、アルミ押し出し材による一体型のメインシャーシを採用。それを1000シリーズの1000DAT、1000pと共通の分厚い外板シェルで覆い、極めて剛性の高いボディを構成するとともに、シャーシ結合部にシール材を充填。さらにディスクトレイドアも、ゴムパッキンでシールドし、併せて9mm厚のアルミドアを使用するなど、メカニズム部を完全密封しました。その徹底したエアシールド構造により、わずかな空気の流入を許さない、高い気密性を確保しました。
ところが、ボディの気密性をあげることは、内側からのみると共鳴箱を作ってしまうことにもつながります。もし内部で振動が発生すれば、却って振動を増幅させかねない危険もはらんでいる訳です。
1000mbでは、重量級の高剛性シャーシや、亜鉛ダイキャスト製の堅牢なピックアップベースを採用するとともに、スピンドルモーターにやシャフト長を長くとり、スリコギ状の振れを抑えた新開発ブラシ&スロットレス・モーターを採用。併せて大きな振動要因である電源トランスからメカニズム部を構造上完全に隔離するなど、内部振動の発生を極限まで減少させたのです。しかし、どれだけ振動源をつぶしたとしても完全に振動をなくすことはできません。そこで発生した振動をいかに効率的に吸収するかが第二のポイントです。1000mbでは、独自のダブルサスペンション方式を採用。これは特殊ゴムブッシュにより、ピックアップベースをメカニズムから浮かせ、さらにメカニズムを取り付けたサブシャーシをコイルスプリングと特殊ゴムダンパーによって、メインシャーシからフローティングさせる二重の振動吸収機構です。
アコースティック・アイソレーション・システムは、この「エアシールド構造」と「ダブルサスペンション機構」を併せた完璧なまでの空気振動対策でデジタルマスターに記録された高密度で生々しい音楽をCD再生で体験できるモデルです。
弱点?
これは1000mbだけではないのですが、1000DAT、1000pを含めた1000シリーズの脚に使用されている滑り止めのゴムが経年劣化による加水分解でベトベトになる点が唯一の弱点です。ポリエチレン手袋+洗剤で除去作業は作業環境の養生を含めて大変な作業なのです。これまで作業した経験から、劣化しにくい特注のゴム部品に交換しています。
付属リモコンについて
1000mbの操作パネルをそのままリモートコントローラーにしてます。キーレイアウトやサイズはもちろん、キーのストロークまでも1000mb本体のものを忠実に再現し、リモート操作時の違和感を払拭しています。質感、操作感、重量のどれをとっても、これまでのリモコンの概念を根底から覆す作りになっていて、最初に手にしたときにびっくりしたことを今でも覚えてますし、偶に使用する時にも感じます。ちなみにワイヤレスでなくワイヤードも注文時に選ぶことが出来たそうです。プロのスタジオでの使用にはワイヤードだったのかもしれませんね。
1000mb/iについて
CDトランスポートである1000mbがリリースされた後、高い基本性能を持つ1000mbにD/Aコンバータを内蔵させたバージョンをリリースして欲しいという声がオーディオファイルから多く寄せられたそうです。
1000pのフルキャリブレート20ビットコンバーターの良さを引き継ぎながら、エンハンスト20ビットD/Aコンバータをコンパクトに1枚のボードに集約して搭載し、CDプレーヤーとして完成させました。
エンハンスト20ビットD/Aコンバータについては、CDPlayer2の過去記事で紹介しておりますので、そちらをご覧ください。
1000mb/iのフロントパネルは、右下にあるモデル名表記は1000mb/iではなく1000mbとなっています。これは鋳型で作っていて流用したためと思われます。
リアパネルに廻ると、1000mbがブランクパネルであるところの上段部分がDAC基板が追加されています。
リアパネル右側にあるモデル名表記がありますが、こちらはフロントパネルと違って印刷ということからでしょう、1000mb/iになっています。
スペック
1000mb
本体
形式 デジタルオーディオシステム(コンパクトディスク方式)
読み取り方式 非接触光学式(半導体レーザー使用)
エラー訂正方式 CIRC方式
チャンネル数 2チャンネルステレオ
標本化周波数 44.1KHz
量子化 16ビット直線
ディスク回転速度 約200-500rpm
ワウ・フラッター 測定限界以下
周波数特性 5-20,000Hz±0.5dB
S/N比 105dB以上(IHF A-WTD)
全高調波歪率(1KHz) 0.0025%
全高調波歪率+雑音(1KHz) 0.003%
チャンネルセパレーション 100dB以上
デジタル出力 75Ω同軸/光(パラレル)
出力レベル/インピーダンス 2.0V/600Ω
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 最大23W
大きさ 435(幅)x133(高さ)x370(奥行き)mm
重さ 約16Kg
リモコン
方式 赤外線パルス式
電源 DC3V(SUM3x2)
外形寸法 307(幅)x44(高さ)x123(奥行き)mm
重量 約920g(乾電池を含む)
1000mb/i
形式 デジタルオーディオシステム(コンパクトディスク方式)
読み取り方式 非接触光学式(半導体レーザー使用)
エラー訂正方式 CIRC方式
チャンネル数 2チャンネルステレオ
D/A変換方式 EL20ビットデュアルD/Aコンバーター
デジタルフィルター 8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター
標本化周波数 44.1KHz
量子化 16ビット直線
ディスク回転速度 約200-500rpm
ワウ・フラッター 測定限界以下
周波数特性 5-20,000Hz±0.5dB
S/N比 105dB以上(IHF A-WTD)
ダイナミックレンジ 100dB以上
全高調波歪率(1KHz) 0.0025%
全高調波歪率+雑音(1KHz) 0.003%
チャンネルセパレーション 100dB以上
デジタル出力 75Ω同軸/光(パラレル)
出力レベル/インピーダンス 2.0V/600Ω
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 最大23W
大きさ 435(幅)x133(高さ)x370(奥行き)mm
重さ 約16Kg
出典: ナカミチ株式会社 1000mb カタログ (1991年)
最後に
以前、元ナカミチの技師長である小林耕三さんと対談させて頂いたときにこのデザインコンセプトでアンプ系などのフルシステムを製品化するという構想はなかったのかをお伺いしたところ、それは無かったとお答えいただきました。この1000mbをはじめとする一連の1000シリーズは性能は勿論、デザイン面で気に入っていたので個人的には製品化してもらいたかったと思っています。なお、今回はDATレコーダーの1000DAT、デジタルオーディオプロセッサーの1000pを含めた1000シリーズからCDトランスポートの1000mbを取りあげました。1000DAT、1000pはまたの機会に記事にしたいと思います。
2023.12.30
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