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[ナカミチの考察(VOL.17)]580 - サイレントメカ初搭載機

トライ・トレーサー1000を始めとするナカミチブランドでのメカを第一世代とすると第二世代となるサイレントメカは三協メカ搭載モデル発売後も併売されることとなります。今回はそのサイレントメカ初搭載機となる580を取りあげたいと思います。


はじめに

トライトレーサーことナカミチ1000はナカミチブランドとして最初のカセットデッキでデビューは1973年でした。弟分としてデザインコンシャスな700が登場、その後はピアノキー操作型の2ヘッド機である500、600、ポータブル機の550、350、250と展開され、また1000、700、600も改良版となる1000ii、700ii、600iiがリリースされるものの社内ではメカの刷新を望む声が多く上がっていたそうです。
そして、これまでとは全く発想が異なるサイレントメカが誕生したのです。

580のサイレントメカ

共振拡散(デュフィーズド・レゾナンス)、サイレントメカニズム

基音を変調させて、音に濁りを生じる有害な成分を追求しました。
一般にはワウフラッターといわれ、これはカタログ等に表示されている数値はWrms(聴感補正付実効値指示)といって、フラッター成分を除去して測定されます。フラッター成分は回転ムラとして感じなくても音の濁りを生じます。規格に示された聴感補正付きの数字が変わらなくとも、音が違うのです。

この有害なフラッター成分を取り除くために580では、共振拡散方式のメカニズムが開発されました。

①共振拡散方式メカニズム

フラッターを起こす原因にモーターその他の回転体から生じる振動があります。その振動を除くために先ずシャーシの材質と構造から検討を加え、鉄よりはるかに減衰特性の大きいアルミを主体とし、更に一歩踏み込んだ樹脂成型で振動を伝えない。加えて回転部の防振対策などにより、テープに対してフラッターとなる有害な微振動を伝えない構造体となっています。

②サイレントメカニズム

カセットではカセットハーフの中にヘッドを移動させますが、電子制御の場合は通常ソレノイドプランジャーを用いますが、今回のサイレントメカでは、テープコントロールにモーターを使用し、コントロールスイッチのPLAY、REW、FF、PAUSE、STOPなどの命令により、ロジック回路が働きコントロールモーターが回転して、連動されたメカニズムが動作します。
このために各動作がスムーズで、ソレノイドの場合はヘッドベースがテープに接近するほど速度が速くなりますが、サイレントメカのモーター式ではテープに接近するほどゆっくりとした速度にすることが出来るため、ソフトタッチが可能でテープにダメージを与えることがありません。
電気的にも、機械的にも損失が少なく、ソレノイドのように大電流を必要としないので発熱もなく、安定したテープ走行と性能が得られます。
これと同時に動作時の騒音を追放したサイレントメカニズムを実現することが出来たのです。

周波数分散型、ダブルキャプスタン方式

ダブルキャプスタン方式により、フラッターを軽減できることは知られています。そのうえ、サイレントメカではサプライ側、テイクアップ側両軸のキャプスタンとピンチローラーの直径が違っています。キャプスタン、ピンチローラーの両軸の直径が同じだと、回転数も同じで発生するワウやフラッターの周期もほぼ同じになるため、ワウフラッターの周波数成分のピークが重畳され強め合ったり、弱めあったりするためにワウフラッターの大きさが変動します。サイレントメカでは、直径、回転数が異なるためにピークが重なることなく安定して動作します。
また、適切なテープテンションを確保し、ドロップアウト、レベル変動を極力少なくすることが出来ます。
キャプスタン・モーターはPLL方式サーボコントロール、ベルトドライブでフライホイールは鉄の丸棒から削り出し加工されているので、ダイナミック・スタティックのアンバランスがなくワウフラッターの改善に寄与しています。

ナローギャップ・録音再生・スーパーヘッド

0.9ミクロンという超ナローギャップで20KHzを超える高域の再生は勿論のこと、録音はギャップを広くしなければ良い特性を得られないという定説を覆したナローギャップ・レコーディングを可能にし、特殊な構造の採用で10000時間以上のロングライフを実現したスーパーヘッドは600iiで実現されていました。

新方式消去ヘッド

消去ヘッドはテープ上に記録されたシグナルを消去することが必要で、勿論これで良いのですが、落とし穴がありました。この消去ヘッドでノイズを録音してしまうということでした。これはバルクイレースしたテープを再生したときと、消去ヘッドを通過させて消去したときの差で判断することが出来ました。
サイレントメカに採用された消去ヘッドは、これまでの消去ヘッドの概念を打ち破った新しい構造を持つもので、磁化されたテープに対して損失の無いフラックスを発生させ、バルクイレースしたときとほどんど同じまで消去率を確保することが出来、100Hzで70dB以上の消去率という、ほぼ理想ヘッドといえると思います。
これは、スーパーヘッドによりうMOLの向上と併せて、ダイナミックレンジの拡大に大きな役割を果たしています。

新方式ヘッドマウント機構

特性が向上すればするほど、ヘッドとテープの相対関係の安定化が要求されます。サイレントメカのヘッドマウントは、ダブルキャプスタンの間に録音・再生ヘッドだけ配置され、安定したヘッドタッチでクリアな再生音を可能にしています。

2段スピードのキューイング方式

曲の頭出しや途中のキューイングが出来ます。早送り状態で、60分テープを約60秒で巻き取ることができますが、キューイングをしたい時には、その状態からPAUSEボタンを押すとヘッドがわずかに前進し、録音されている信号がアウトプットされ、同時にスピードが1/2にダウンします。
次にFFまたはREWボタンを押し続けると更にスピードが1/2とより、容易に頭出しをすることが出来ます。ちなみに私はヘッドの摩耗を考えて、キューイングは使わないようにしています。

DC録音アンプ

カセットデッキでは、ヘッド自体の飽和や歪などの限界から増幅器系は軽視されがちです。サイレントメカではコントロールアンプやヘッドアンプの性能を取り入れ、幾度となく改良が行なわれています。
録音系アンプはリニアリティーを改善し、クリッピングレベルを十分高くとり、低歪率化を計り、いかなる入力に対しても忠実な録音が出来ます。更に録音アンプから録音ヘッド間はコンデンサを廃止しDC化を行い、低域の改善と低歪率化を行いました。
再生系イコライザーは特殊なNFB回路を採用し、ヘッドアンプ並みの特性を確保しています。

タイマー録音・再生

先代のメカでは、ピアノキー操作を除くロジックコントロール可能な1000/700のみオプションの専用タイマーを使うことでタイマー録音・再生が可能でしたが、サイレントメカでは専用タイマーを使用することなく、汎用タイマーにてタイマー録音・再生が可能になりました。

オプションのワイヤレスリモコン(RM-580)について

これまでのリモコンはワイヤード・リモコンでしたが、オプションの赤外線ワイヤレスリモコンがリリースされました。
これにより、離れたところからすべてのテープコントロールが行えるようになりました。

RM-580

580Mについて

580リリースされてから1年後の1979年、メタルテープに対応した480、680がリリースされました。それに併せて580もメタルに対応した580Mがリリースされました。

530について

580と同意匠でレシーバーの530というモデルがあります。以前に730というレシーバーを取りあげましたが、機会があればこの530も取り上げたいと思います。

スペック

トラック型式   :4トラック・2チャンネル・ステレオ方式
ヘッド      :2(消去x1、録音・再生x1)
モーター     :PLLサーボモーター(キャプスタン用)x1、DCモーター(リール用)x1、DCモーター(メカコントロール用)x1
電源       :100V、50/60Hz
消費電力     :最大20W
テープ速度    :4.8cm/s
ワウフラッター  :0.04%以下(Wrms)
周波数特性    :20Hz~20kHz ±3dB(SX、EXⅡテープ)
総合SN比     :63dB以上(3%THD、WTDrms、ドルビーNRin、70μs)
総合ひずみ率   :1.5%以下(400Hz、0dB)
消去率      :60dB以上(飽和レベル、1kHz)
チャンネル・セパレーション :37dB以上(1kHz、0dB)
クロストーク   :60dB以上(1kHz、0dB)
外形寸法     :幅500x高さ130x奥行350mm
重量       :約8.3kg

最後に

ナカミチを蒐集する前は、この58Xシリーズは標準的なコンポサイズに対して幅500mmとワイドなこと含めてデザイン的に好みでは無く、入手することは無かったのですが、実際に入手して手元に置いて眺めていると、これはこれで良いなあと思うようになりました。不思議なものですね。
蛇足ですが、もし入手される方がおりましたら、ラックの内寸幅に注意してください。

2024.1.27

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