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機動戦士ガンダム 全話レビュー第35話「ソロモン攻略戦」


あらすじ

 ワッケイン司令の率いる艦隊と合流したホワイトベースは補給を受けると同時に、連邦軍・ソロモン攻略戦の先鋒を命じられた。ジオンの重要拠点であるソロモンを叩き、ジオン本国へ総攻撃をかけるための足がかりとする作戦である。連邦軍艦隊集結の動きを受け、ソロモンのドズルは戦力の補強を要請するが、回されたのはわずかに試作段階のモビルアーマー、ビグ・ザム1機だけだった。

脚本/松崎健一 演出/久野弘 絵コンテ/    作画監督/ 

コメント

 ジオン軍の宇宙要塞、ソロモンを攻略しようという軍事作戦が展開される回で、第13独立部隊となったホワイトベースが、はじめて他の艦隊と共同で作戦行動をすることになる。途中、アムロが「これが戦場か」とつぶやく場面があり、君ずーっと戦場にいたやろ、と突っ込みたくなってしまうが、これまではほぼホワイトベース単独での戦いだったのに対して、その規模においても緊迫感においても桁違いであることから、そういう言葉が出てきたのだろう。
 結果的に、今回で連邦軍はソロモン攻略の足がかりをしっかりと固め、ある意味物量に勝るいけいけドンドンの戦闘を繰り広げていくのであるが、その中で、そうだからこそ、作者らの目は敗れ去る者に向けられている。ミリタリー色の強い回だが、そういうところに目を留めつつ話の流れを見ていきたい。

補給を受けるホワイトベース。
ブライトは艦隊司令のワッケインにあいさつに行き、
ソロモン攻略の作戦について聞く。

 結局<サイド6>で補給も修理も受けられなかったホワイトベースは、作戦目標のソロモンへ向かう途上で第三艦隊から補給を受けることになる。艦隊司令はワッケイン、第4話で<サイド7>から脱出したホワイトベースがルナツー基地にたどり着いたとき、塩対応をした将官だった。ブライトは司令から、次の作戦行動の説明を受ける。目標はソロモン、主力は大きく迂回して進み、ホワイトベースはワッケインの艦隊とともに先鋒を務めることになった。

 ホワイトベースにとっては、初の共同作戦である。「われわれにできますか」と不安を口にする。これに対してワッケイン司令は「君自身、そんなことを考えられるようになったのもだいぶ余裕が出てきた証拠だな。大丈夫だ」と答え、ブライトを安心させようとするが、ブライトには連戦からくる疲労の蓄積が気がかりだった。

しかし、ホワイトベースのパイロットは完全にオーバーワークです。ことにアムロは・・・
ああ、あのガンダムの坊やか。素晴らしい才能の持ち主だ。彼は我々とは違う>
違う?どう?>
そう思えるんだ


 パイロットとして飛躍的な成長を遂げているアムロについては、すでに艦隊でも評価されるようになっていることが伺えるが、「我々とは違う」という言葉が、妙にひっかかるところである。何がどう違うのか、言葉では説明されないが、すでに33話あたりから、その違いというのは視聴者自身が受け止めているところであろう。

満足に補給が受けられず、回されたビグザムも
開発途中と部下から聞かされるドズル。
ララァはシャアとともにサイド6を出港しようとしていた。
カムランに誰かと聞かれて「妹、とでも言っておこうか」とはぐらかすシャア。

 一方、迎え撃つ宇宙要塞ソロモンの体制はといえば、盤石とはいえなくなっていた。ギレンからの補給はたった一機の開発中のモビルアーマー、ビグザムだけ、満足な補給も受けられず、今あるリックドムだけでは数が足りないと、ドズル中将は不満を爆発させる。しかも、連邦軍のティアンム艦隊の動きも、ミノフスキー粒子が濃くダミーが多いとあってなかなか掴めず、すべてが後手に回っていた。

 これまで見てきた地上戦とは明らかに違い、強敵で、万全を尽くしてホワイトベースを迎え撃とうとしてきたジオン軍とは異なって見えるところがポイントの一つである。モビルスーツの量産に成功し物量で押してきた連邦軍に対し、ジオン軍は徐々に追い込まれてきているのである。

 その頃<サイド6>ではシャアがララァを連れてザンジバルで出港するところだった。出港前のチェックをする前に現れたララァの不思議な雰囲気にカムランは圧倒される。どなたです?と聞かれて「私の妹、とでもしておいてもらおう」とはぐらかす感じも怪しげである。

横一文字体形を取るワッケイン艦隊。
ビーム撹乱幕を張るためパブリク突撃艇が出撃し、
いよいよ戦闘が始まる。

 さて、連邦軍の作戦はこうである。ワッケイン司令が指揮する第三艦隊が、まずパブリク突撃艇を出撃させ、ソロモン空域に特殊なミサイルを発射して、ビーム撹乱幕を形成する。こうして、敵のビーム攻撃を無効にする策を取ったのち、モビルスーツ隊が出撃、ソロモンへの侵入路を開く。そして、いよいよ作戦は決行の時を迎えた。

撹乱幕よりビーム攻撃が無効になり苦戦するジオン軍。
いよいよ本隊が突撃を開始する。
連邦軍はジムを発進させ、その物量を見せつける。

 戦局の厳しさを察したドズル中将は、妻のゼナと乳飲み子のミネバにグラナダに向かうよう促す。万が一、というドズルだが、満足な補給も受けられないまま物量に勝る連邦軍を迎えなければならない現実を彼は冷静に捉えていた。

「これが、戦場か」とつぶやくアムロ。
1機撃墜ではしゃぐカイに、「カイ、息を抜いては駄目よ」
と言いつつ後方から援護するセイラ。
カイは思わず「セイラさん、愛してるよ」と軽口を叩く。

 そのドズルの懸念は現実のものとなる。動きの掴めなかった主力のティアンム艦隊は、脅威的な新兵器を準備していたのだ。
 この兵器「ソーラシステム」については、本編中に一言の説明もないので、映像からどんな兵器なのかを判断するしかないが、原理は至極簡単である。大きな鏡を多数、並べて空間に巨大な反射鏡をつくり、太陽光を反射させ、それを目標物に照射する、というものである。この鏡の設営に時間をようすることから、いわばワッケインの第三艦隊とホワイトベースとが、陽動の役目を担ったのだ。

被弾するガンタンク。
戦況が思わしくない中ドズルは妻ゼナのところへ行き、
退避カプセルに移るよう促す。

 ソーラシステムは脅威的な能力を発揮し、ソロモン要塞を守備するジオンの兵力を根こそぎ焼き払った。そして手薄になったところを狙い、アムロは先陣を切って要塞内部に突入する。

ソーラシステム作動を命じるティアンム提督。
太陽光をミラーが反射させるとソロモンの右翼ゲートを焼き尽くした。
その間にハヤトはコクピットに被弾し負傷、撤退を余儀なくされる。

 この回注目すべきは、敵将であるドズル・ザビ中将の描写であろう。見るからに粗野で力攻めの猛将、というキャラクター造形であるにもかかわらず、冒頭から、彼は最新鋭の巨大モビルアーマー、ビグザムを好まず、それよりもリックドムを、と、パワーよりも戦術、という一面を感じさせる発言をしている。
 戦局が厳しい状況であることがわかっていても、司令官室ではどっしりと冷静に構えているが、本当に厳しい状況に陥る前に、さりげなく妻子と侍女たちを脱出させているところも、実に懸命である。家族愛であるのはもちろんだが、それ以上に、ザビ家の存続という、ある意味戦後の動向まで意識した上での判断であるといえよう。
 そして、アムロが先陣を切り連邦軍がソロモン要塞内部に侵入してくると一転、決戦に向けて部下を鼓舞しつつ、自ら先頭に立って戦う姿勢を明らかにする。冷静な頭脳と熱いハート、こういうリーダーには無理をしてでもついていきたくなるものではないだろうか。そして主人公らにとって敵であるジオン軍にこそ、こうしたリーダーシップを発揮する魅力的なキャラクターが多いのだ。

先陣を切ってソロモン要塞に突入するガンダム。
ソロモンが救援を欲しがっていると知り、
シャアはララァにいよいよ戦場に出ることを告げる。
決戦を前にドズルは体制を整えるとともに部下たちを鼓舞する。

 しかし、戦いは非情である。ソロモンでの決戦を前に見せつけられるのは、圧倒的な連邦軍の物量である。量産化されたジムとボールが、群れとなって襲ってくる。ジオン軍には開発に遅れを取り、おそらくはパイロットも大半は一対一ではジオン軍には敵わない程度の実力だろう。だが、連邦軍は数の力で、実力の差を埋め尽くしたのだ。こうなると、もはや戦いは、いくらアムロの駆るガンダムが圧倒的な強さを誇ろうと、それで決着がつくという段階を超えている。

 そうした段階で、この圧倒的物量の差を覆すべく投入されることになるのが、おそらくはシャアの秘蔵っ子ララァ・スンということになるのであろう。個の能力が軍団を圧倒するとき、何が起こるのか。その前に、物量に勝る軍団、そして大量破壊兵器によって個々の力を粉砕していくという、まさに戦争たるべき戦争の有り様を、ここでは描き出したといえよう。


この一言! ハヤト。アムロは、違うわ、あの人は。私たちとは違うのよ。

 無機質で人格を感じさせない、連邦軍の大部隊。そしてソーラシステムという大量破壊兵器。堅固な要塞ソロモンを、巧妙な作戦と圧倒的な戦力差で攻略していく、というのが今回の大きな流れであり、チームとしてのホワイトベース、パイロットとしてのアムロも大きな戦果を上げ活躍はしているが、スポットはむしろ、違うところに当てられている。この圧倒的な力の前に敗れ去る者、へのまなざしである。

 その一人が、前述した敵将、ドズル・ザビである。防衛ラインが突破され、いよいよ要塞内部に連邦軍が侵入してくるというとき、彼は妻子を脱出させグラナダへ行くよう命じる。

ゼナはいるか?
あなた、いけないのですか?
馬鹿を言うな、ソロモンは落ちはせんて・・・
では
いや、脱出して姉上のグラナダへでも行ってくれ
いけないのですか?
大丈夫だ、案ずるな。ミネバを頼む。強い子に育ててくれ、ゼナ
・・・あなた
私は軍人だ。ザビ家の伝統を創る軍人だ。死にはせん。行け、ゼナ、ミネバと共に!

 もちろん、彼はすぐれた指揮官であり、もはやソロモンの陥落は避けられないことを悟っているのである。しかし、軍人として、彼はただ無様に敗れ去るわけにはいかない。「ザビ家の伝統を創る」という最後の大仕事が残っている。一つには、ミネバを無事脱出させてその血脈を残すということであり、もう一つは、ザビ家の男にふさわしい死に様を見せつける、ということだろう。それは集団に対する強烈な「個」の発露であろう。

 もう一人、敗れ去る者へのまなざしが向けられるのが、ホワイトベースの一員でガンタンクのパイロットを務めるハヤトである。高速戦闘で不利なガンタンクではやむを得ないともいえるが、彼はアムロのガンダム、カイのガンキャノン、セイラとスレッガーの駆るGアーマーに遅れを取り、コクピットに被弾して負傷してしまう。

 フラウ・ボゥに見守られながら輸血を受けるハヤトは、自分だけが被弾したことを恥じてこうつぶやく。


悔しいな、僕だけこんなんじゃ。
セイラさんにもカイさんにも敵わないなんて、情けないよ
何言ってるの、ハヤト。
立派よ、あなただって
やめてくれよ、慰めのことばなんて。こんなぼくだってね、ホワイトベースに乗ってからこっち、アムロに勝ちたい、勝ちたいっていって、このざまだ

 連邦軍は戦いを有利に進め、いまやソロモン内部にまで入りこもうという勢いだが、ハヤトには、そうした大局とは別の個人的な戦いがあり、そこで今、敗れ去った自分を認めざるを得ない状況に追い込まれたのである。ハヤトは、アムロに勝ちたいと思いながら、戦っていた。しかし、ガンダムに搭乗してその才能を開花させたアムロに、ハヤトは追いつくことができなかったのである。ハヤトが、仲間であるアムロをライバル視していたのに対し、アムロが「勝ちたい」と言葉にしたのはあの人、ジオン軍の部隊長であるランバ・ラルであった。冷たい言い方かもしれないが、勝ちたい、と思われる相手になっていないことで、ある意味、すでに負けていたともいえる。だが、今自分は敗れたと認めることは、彼の敗北ではなく成長へとつながっていくだろう。まだ、彼とて16歳なのだから。

 しかし、アムロの名を出されたフラウ・ボゥの心にあるのは、ある種の諦観であった。

ハヤト。アムロは、違うわ、あの人は。私たちとは違うのよ。

 物語が始まった当初、アムロとハヤト、フラウ・ボゥは同級生の友達同士で、むしろハヤトやフラウ・ボゥの方が機転がききしっかり者の印象があった。だが、今となっては何か違う。そう思わざるを得ない「差」が、戦果という物差しによって生じてしまっている。オーバーワークを心配されるほど戦い詰めのアムロは、決してフラウから心離れてしまったわけではないが(食事を持ってくる兵士をフラウと見間違えたり)、彼女の方が近づき難い距離感を感じているのである。
 敗れ去るハヤトには、寄り添い慰めるフラウがいた。先に挙げたドズルにも、その身を案じる妻ゼナがいた。むしろ勝者こそは孤独である。その意味で、敗れ去る者へ向けられる作者のまなざしは、どこまでも優しい。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
宇宙要塞ソロモンとその周辺空域
<戦闘記録>
■地球連邦軍:ホワイトベースは第三艦隊と合流。主力のティアンム艦隊が迂回して進軍する間にソロモンへ直行、ビーム撹乱幕を張り先鋒となって突撃する。その間にソーラシステムを展開、ソロモンの右翼スペースゲートを攻撃し、要塞内部へ突入する。
■ジオン公国軍:地球連邦軍の攻撃に備え迎撃体制を取ろうとするものの、ギレンから満足な補給が受けられず、またティアンム艦隊の動きも満足に補足できないまま、連邦軍の突撃をゆるしてしまう。さらにソーラーシステムにより壊滅的な打撃を受けたため、ドズル中将は妻子を脱出させ、自らも出撃して決戦に持ち込むことを決意する。

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