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機動戦士ガンダム 全話レビュー第25話「オデッサの激戦」

あらすじ

 オデッサ作戦を前に、アムロとセイラはGアーマーの慣らし運転をしつつ哨戒飛行を続けていた。ブライトは「6時30分にマ・クベの基地の後ろから突入せよ」との命令を受けるが、偵察中のアムロとセイラはジオンの基地から連邦軍の機体ドラゴン・フライが発進するのを目撃する。不審に思った2人は、その機体を追跡した。そしてビッグトレーに帰還するところを確認すると、アムロは、Gアーマーを着艦させ、エルラン中将に面会を求める。

脚本/荒木芳久 演出/貞光紳也 絵コンテ/    作画監督/富沢和雄

コメント

 いよいよ、オデッサ作戦が開始される。その目的は、マ・クベ隊が守備する特殊鉱物資源基地を叩き、ジオン軍の補給を断つことである。オデッサ(現在はオデーサと呼称される)は黒海に面した港湾都市で、描かれた平原を見る限りは、その近郊なのか、もっと内陸なのか、いずれにせよオデッサという都市の攻防戦でないことは確かだ。1974年にフレデリック・フォーサイスの「オデッサ・ファイル」という小説が出てベストセラーとなり、私も読んだ覚えがある。案外、そんなところから引っ張ってきた名前なのかもしれない。

 ストーリー上では、これまで戦争に巻き込まれ、不本意ながら戦闘を強いられてきた少年らの船、ホワイトベースが、はじめてレビル将軍の配下で、大規模な地球連邦軍の作戦に初めて参戦するという展開を、(1)黒い三連星・ガイアの敵討ち(2)エルラン将軍の裏切りの顛末(3)追い詰められたマ・クベの暴挙 という3つの要素で、しかもすべての要素にアムロら主人公を絡める形で描いている。ランバ・ラル隊討伐以降の物語の積み重ねと、織り込まれた伏線が、ここに結晶したといっていい一話である。

 ホワイトベースでは、マチルダの死がクルーたちに重くのしかかっていた。Gアーマーの整備を迅速に進め、なんとかオデッサ作戦に間に合わせようと必死のアムロは、ふと彼女を思い出し感慨に耽る。「いけないわ、出撃命令が出ている」と諭すセイラ、「大丈夫?」と心配そうなフラウの姿が対照的で、にわかに「アムロには、どっちが気になる存在?」という思いがもたげてくる瞬間である(こういう、ちょっとした人間関係のニュアンスをにじませるところが心憎い)。
 アムロとセイラは、Gアーマーの慣らし運転をかねて偵察のため出撃。セイラに代わってフラウが通信席に座る。そんな交代劇が冒頭に描かれる。

Gアーマーの整備を急がせながら、マチルダを思い出すアムロ。
いけないわ、と諭すセイラ、
大丈夫?と心配そうなフラウ・ボゥ。
これから、どうなる?! とヘンな胸騒ぎ。

 一方、マ・クベ隊ではマッシュを追悼する儀式に時間を費やし、なかなか出撃しようとしないガイアとオルテガに、マ・クベ大佐が業を煮やしている。「敵討ちではない、我が軍のうしろを乱そうとする木馬をたたく、これは作戦だ!」と、彼らの行為を諌めようとするマ・クベは、敵討ちをしようとする彼らの心情が、ともすれば作戦の遂行の目的とは相いれず、後ろ向きであることが足を引っ張ることにつながりかねないと恐れているのであろう。言い換えれば、黒い三連星をもってしても倒せなかった、木馬への恐れが彼を駆り立てているのである。

戦死したマッシュの冥福を祈るガイア、
オルテガとともに弔砲を捧げる。
儀式に手間取りなかなか出撃しない彼らにキレるマ・クベ。

 そんな中、アムロとセイラのGアーマーは怪しい機体を発見し、ホワイトベースからの帰還命令より重要と判断して追跡を開始する。マチルダの「ミデア隊の動きがジオンに筒抜けのようだ」という言葉を思い出したからだ。
 ホワイトベースのブリッジでも、ブライトとミライが同様の会話をしており、彼らが寄せ集めではなくチームとして機能していることをうかがわせる。

「ホワイトベースは6時30分にマ・クベの基地の後ろから突入せよ」と
レビル将軍からの指令が届き、ブライトはGアーマーに帰還命令を出す。
しかしアムロとセイラは不審な連絡機を追跡することに。
ブリッジでもスパイ疑惑の話が出る中、敵機が接近。
「この高度でキャッチされるはずがないのに」と漏らすオスカ。

 マ・クベの基地から飛び立った連邦軍の連絡機「ドラゴンフライ」は、レビル将軍率いる連邦軍の旗艦、ビッグトレーに着艦。つづいてアムロ・セイラ組のGアーマーも着艦する(そこに?!と突っ込むところである)。アムロはエルラン将軍のもとに連れてこられるが、そこで証拠写真を見せて、ビッグトレーにスパイがいるのではないか、と問いただす。少年たちの乗る船が、大人のやり方、軍のやり方に反発し彼らを乗り越えてきた、というこれまでの流れに浸ってきた身には、胸のすく思いのする瞬間である。そしてまた、実は連邦軍という組織が、少年たちにとっては必ずしも「無理解、無慈悲な大人の集団」というわけではなかった、ということが示され、彼らが組織の一員となっていくことへの心理的な壁が取り去られる、という効果も見事である。

敵基地から出てきた連絡機を追ってきたアムロとセイラは、
Gアーマーをビッグトレーに着艦させる。
アムロはエルラン将軍のもとに連行された。
エルランはそのとき、作戦中でありながら酒を手に
ジュダックからマ・クベの計画を聞いていたが…
エルランと対面したアムロは人払いを願い出る。
アムロの告発で逮捕されるジュダック、
証拠写真を突きつけられたエルラン将軍は…

 余談だが、かつて黒い三連星によって捕虜となったレビル将軍と、その下にいるエルラン中将との因縁については触れられてはいなかったが、エルランが裏切った動機ともつながりそうな話で、想像してみると面白い。レビル将軍がジオン軍の捕虜となったとき、エルランはどこにいたのだろうか。棚ぼたで、彼がレビルの座を襲うことになっていたのに、レビルが脱出・帰還したことでその期待が裏切られたことが、寝返りの動機になったのか、そもそもレビルが捕虜になった背景に、エルランの寝返りがあったのか。そう考えをめぐらせてみると、つくづくおじさんたちの心の闇は深い、と思わされる。

 前半で、このエルランの捕縛劇が片付いてしまったので、あとはオデッサ作戦で連邦軍が勝利するだけだな、と油断していると、とんでもないことになるので注意が必要である。

 マ・クベ隊は、エルランの裏切りを予定していたために手薄にしていたラインを突破され、窮地に陥る。が、頼みのガイア、オルテガは案の定「マッシュの敵討ち」を最優先事項にかがげ、背後の木馬を叩くより、ガンダムを探して戦場を駆け抜けていた。

激戦を繰り広げる連邦軍。
黒い三連星のオルテガは、マッシュの仇の白い奴を探す
ハヤトのガンタンクが被弾する。
帰還してきたGアーマーは前部に被弾していたので
コアファイターに換装、セイラからハヤトに交代し再び戦場へ。
エルランの裏切りがなくなったため防衛ラインを突破されるマ・クベ隊だったが、
黒い三連星はガンダムとの決戦に挑もうとしていた。

 そこでマ・クベは最終手段に出る。

 ここで手を引いてくれねば、我が方は水素爆弾を使う用意がある
 むろん、南極条約に違反はするが、我々も負けたくないのでな


 水爆を落とす、というのだ。しかし・・・

レビル将軍は一言も語らなかった、ただ前進を示す手を振っただけであると

 実にしびれる一場面であるが、レビルの懐刀となって活躍したのが、アムロであった。結果的に、マ・クベの目論見は崩れ去り、彼はガンダム史に燦然と輝く捨て台詞、

 戦いはこの一戦で終わりではないのだよ
 考えてみろ、我々が送り届けた鉱物資源の量を
 ジオンはあと10年は戦える

 もとい、名セリフを残して、ザンジバルで地球を去っていく。この戦艦で地球に降りてきた黒い三連星は、ホワイトベースの前に散っていったのだった。

この一言! 水爆が本物なら、ここもやられるんだ、やるしかない、アムロ

 先に、この25話には(1)黒い三連星・ガイアの敵討ち(2)エルラン将軍の裏切りの顛末(3)追い詰められたマ・クベの暴挙 という3つの要素がある、と書いたが、そのうち、もしかしたら一対一のモビルスーツ戦ではもっとも盛り上がったかもしれない(1)ガイアの敵討ち が、マ・クベの水爆ミサイル処分の合間に片付けられて、気がついたら散っていた、という扱いになっていた。

 それはなぜなのだろうか、ということを、アムロの成長という視点から少し掘り下げてみたい。

 マチルダの死は、アムロをはじめホワイトベースのクルーたちに大きな心理的ダメージを与えたが、彼女の犠牲によってもたらされたGアーマーによって、アムロは戦場で、セイラ、ハヤトと組んで戦う、という立場を得ることになった。「ガンダムを一番うまく使える」と天狗になっていた彼は、共闘する仲間を与えられたことで、パートナーシップというものを学んでゆく。それは、ミデア隊を率いたマチルダが、ホワイトベースに示したものであったといえるだろう。ミデア隊との共闘で、彼らは黒い三連星の猛攻から抜け出すことができたのだ。

 セイラに代わって戦闘中に通信席に座ることになったフラウへの、アムロの一言に、その心理的変化があらわれている。

 不審機追跡からのエルラン捕縛劇を経て、ホワイトベースの戦う戦線にGアーマーが戻ってきたとき、フラウはいつものように「アムロ、見えるわ」と喜ぶが、そんな彼女にアムロは「戦いはどうなっているんだ?」と問いかける。 「えっ」戸惑うフラウだが、「ガンタンクが戻ったわ、キャタピラーをやられたって。それで、カイさんのガンキャノンが1人で危ないの」と、把握している状況をアムロに伝えた。

「よし、落ち着いて戦いの様子を教えてくれればいいんだ、頼むよ」

 と、ここにも、アムロのパートナーシップを意識した言動が見受けられ、独りよがりで戦っていた頃からの心理的成長が伺える。

 実はこのとき、敵討ちのためガイアはガンダムを戦場に探していたのだが、アムロにとっても、彼ら黒い三連星は、マチルダのミデアを撃墜した敵であり、まぎれもない敵討ちの相手であった。だから、ここで再び相見えて、互いに「マッシュ、オルテガの仇!」「よくもマチルダさんを~!」となっても十分に盛り上がったと思うのだが、マ・クベの水爆ミサイル発射という緊急事態が発生する中で状況は一変する。水爆ミサイルの核弾頭を、ガンダムのビームサーベルで切りおとせ、というブライトの無茶振りに「そんなことできるわけないでしょ!」と憤るアムロだったが、ブライトの、この一言にアムロの「ギア」がまた一段上がったのである。

「水爆が本物なら、ここもやられるんだ、やるしかない、アムロ」

 その言葉に、アムロは身を呈してホワイトベースを守り抜いたマチルダの姿勢を思い出したに違いない。そして彼は、一か八かの賭けに出るわけだが、それは、個の感情を抑え、組織のために自分を無にして戦う、という、ある意味別の次元へと、アムロを連れていく行為となったのだ。

 のちに、その組織のために自分を無にして戦うことの虚しさを、戦場でアムロに突きつけてくる存在に巡り合うことになるわけだが、そのとき改めて、このことについては掘り下げる機会があるだろう。振り返ってみると、そうした布石としても、重要な一場面ではなかっただろうか。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
黒海沿岸に近い平原部
<戦闘記録>
■地球連邦軍:マ・クベ隊から発進した連邦軍の連絡機をアムロらが追跡、エルラン中将の裏切りが発覚して逮捕される。レビル将軍は、マ・クベ大佐から南極条約違反の水爆ミサイルを使用すると脅されるが、それを無視して前進。アムロの手で核弾頭は起爆装置から切り離され、この激戦に勝利する。
■ジオン公国軍:マ・クベ隊は連邦軍のエルラン中将の裏切りを予定していたが、事前に発覚したため、手薄だった防衛ラインが突破される。頼みの黒い三連星は敵討ちのためガンダムを深追いしてしまいオルテガ、ガイアは相次いで撃墜される。水爆ミサイル使用も事前に阻止されたマ・クベはザンジバルで戦線離脱。

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