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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (13)想い出のリトルジャパン

あらすじ



 世界連盟は月面のM129地点に基地を構築すべく工作隊を派遣する。そこには廃棄された都市リトルジャパンがあった。廃墟のはずのその都市で、工作隊は地球の戦闘艇に攻撃される。雷太は故郷の調査を志願するが、なぜか人質になってしまう。

Aパート:廃棄都市リトルジャパン、雷太の故郷、調査命令、雷太人質
Bパート:リトルジャパンの真相、アルデバロン来襲、雷太解放、老人特攻

コメント

 ここまで、いまだ地球上に拠点を築けないアルデバロンだが、太陽系内への侵出は著しく、月に魔の手を伸ばしつつあった。月面に、ここを抑えれば地球上のどこへへも無差別攻撃が可能な地点があるとアフロディアは幹部会議で報告。新型メカ、ガニムなら必ずできる、と豪語する将校にすべてが託される。

 一方世界連盟は、月面のM129地点に基地を建造すべく、工作隊を派遣していた。だがここには20年前に廃棄された植民都市リトルジャパンの廃墟があった。その上空で、工作隊は味方と思しき戦闘艇に攻撃される。報告を聞いた月影長官は驚きを隠せなかった。リトルジャパンは無人のはずだったからだ。ぜひ俺を月に行かせてください、と申し出る雷太。リトルジャパンは、雷太のふるさとだったというのだ。

 というわけで、今回は雷太の個人エピソードということになるのだが、正直、雷太の過去に興味のある人はそうそういないだろう。作者もそう思ったのか、ある意味雷太=日本人、という設定から膨らませて、本作全話の中でも屈指の、展開予測不能な想定外エピソードを作り上げている。見終わった後、なぜこんな話を? 何を伝えようとしているのか? と考えさせられること請け合いである。ぜひ、楽しんでいただきたいと思う。

 舞台となるリトルジャパンは、月面のM129地点に開拓された都市である。2250年、激増する人口対策として日本が月面に建造したものだった。しかし、2300年に世界連盟が発足するとM129地点は異星からの攻撃をもっとも受けやすい危険地域としてリストアップされ、住民らは金星への移住を余儀なくされる。だが、金星に向かう船は隕石に直撃、雷太はその唯一の生き残りだったのだ。
 リトルジャパンには誰かがいる、と確信した雷太は、俺一人でやりたい、とマリンらの同行を断る。月影はそれを聞き入れ、リトルジャパンの調査を命じ、マリンとオリバーには月面の別地点での待機を命じた。

 廃墟となっているリトルジャパンに入った雷太は、そこで驚きの光景を見る。ギリシャ・ローマ時代のような服装の人々が憩っていたのだ。さらに奥に進むと、そこで日本の戦闘艇を発見する。が、眼前の風景が一瞬にして変わり、廃墟のような宮殿に彼はいた。さらに扉を通り抜けると、今度は日本の江戸時代ぽい街並みが。そこで、彼は両親と思しき二人に再会したのだ。しかしそこで雷太は何者に倒されてしまう。

 やがて、待ちくたびれたオリバーらに通信が入る。世界連盟にあてたその通信は、雷太を人質に取ったことと、リトルジャパンへの手出しをすれば彼の命はない、と伝えるものだった。

 一方、目を覚ました雷太は、母がいるのを目にする。そこは20年前雷太が生まれた家だった。再会を喜ぶ父に対し、雷太は「おれの親父とお袋は死んだはずだ」と対話を拒む。そこへやってきたのは、さっきの通信の男だった。彼は、「この人は君の両親そのものじゃ」という。彼は、リトルジャパンの若者に見捨てられた老人の代表、と名乗る。そして20年前の出来事を話すのだった。 その話によれば、金星への移住を余儀なくされたとき、自分たちが辛酸を舐めながら開拓してきたリトルジャパンを離れたくない、と残ったのが、この老人たちだったのだ。

 しかし、雷太が案内されたリトルジャパンの市街地にいたのは、老人だけではなかった。雷太と同世代に見える若い男女も大勢いたのだ。それに、死んだはずの雷太の両親も。老人は彼に、ここにいる若者らは「わしらを絶対に見捨てない」というが、その言葉で雷太は「そうか!」とひらめく。そして、老人らに、異星人の侵略を防ぐためこの場所を明け渡すように頼むが、彼らは断固としてそれを拒否。アルデバロン軍の来襲を受けると、再び雷太を捕縛し、リトルジャパンを死守するため、自ら戦闘艇で出てゆくのだった・・・

 実はアンドロイドだった「両親」に助け出された雷太は、マリン、オリバーと合流。バルディオスに合体し、「じいさん、あとは任せろ」・・・となるのが普通だろうか、このエピソードは初めから終わりまで、すべてがある意味、想定の斜め上をゆく展開になってゆくのである。 その「斜め上」展開の問いかけるものは何なのか・・・、それを最後に取り上げることにしよう。

今回の謎都市:リトルジャパン

 人口増加に対処するため、月面のM129地点に開拓された日本の植民都市。だが、なんの資源もない月面での開拓と生活は苦難の連続だったという。それから50年後の2300年、世界連盟が発足すると、M129地点は異星人の攻撃をもっとも受けやすい脆弱性が指摘され、金星への移住が決定しこの都市は廃棄された、はずだった。しかし、そこにはその後も住み続け、まるでテーマパークのような老人の楽園が内部に築かれていたのだった。
 人口減少局面に入っている現在の日本からは出てこない発想だが、一方で、80年代からすでに予想されていた高齢化社会の行き着く未来を、シニカルな視点で描き出したともいえる。そのシュールな都市の風景は、まさに驚愕の一言である。

今回のスポットライト:老害


 見終わったあとに、とても微妙な後味の残るこのエピソード、そのなんとも言えない感情はどこからくるのか・・・と考えた末に思い当たったのが、最近よく聞くようになった「老害」という言葉である。わかりやすくいえば「迷惑な老人」で、年を取っているというだけで、若い世代になにかとマウンティングを仕掛けてくる面倒な人々がそこかしこに存在している。
 本作が制作された1980年にはどうだったか、今ほど顕在化はしていなかったかもしれないが、ある意味、高齢化社会の厄介な一面を予見したかのような展開に、驚かされてしまうのである。

 2300年、世界連盟に、M129地点に開拓した月面都市リトルジャパンからの退去をもろめられた住民らの間では対立が起きていた。より豊かな暮らしを送るためには、金星の新天地をめざすより他にない、という入植第二世代の若者たちに対して、入植第一世代の中高年らは、断固として立ち退きを拒み、あくまで自分たちが開拓した地に留まりたいと主張した。


 かくて、若者世代は老人たちを見捨てる形でリトルジャパンから旅立ち、「ここで死にたい」と居残った老人らは、自分たちを世話してくれるアンドロイドを作って、この月面都市を老いらくの楽園に作り変えたのだ。

 彼らは、アルデバロン軍の侵攻により地球が危機に陥っているにも関わらず、20年前にそうしたように、断固明け渡しを拒んだ。時代の変化に対応できず、自らの生き方を変えられない、そればかりか、そのために周囲をも自分らのやり方に合わせるよう巻き込んでしまう。まさにこれを「老害」と言わずして、何と言おう。。

 アンドロイドだった両親が、人質になっていた雷太を解放したときの「ご主人様の命令です 雷太さんはリトルジャパンに残されたたった一人の後継だから、殺すわけにはいかない、ご主人様はそうおっしゃいました」という言葉を聞いたとき、そうは言っても彼らには、未来に思いをつないでいこうという気持ちはあるのだなと、一瞬明るい希望を感じたが、製作者らは実にシニカルである。バルディオスが、リトルジャパンの戦闘艇に助太刀しようとしたそのとき、彼らは言うのだ。

来るな、これはわしらの戦いじゃ

 そして、アルデバロンの大型メカに果敢に特攻して果てるのだが、特攻はまるで相手に通用せず、ただ弾き飛ばされて終わるのだった。
 普通なら、ここで老害だった年寄りらが命を犠牲にして相手を倒す、までいかなくとも深手を負わせることで、最後に死に花を咲かせ、美しく散らせて見せるだろう。しかし、そうは描かないところに、製作者らの強い思いを感じる。老害は、最後まで、地球の平和のためでなく、自分の名誉、主義主張のためだけに戦って果てたのだ。

 雷太のふるさと、リトルジャパンはこうして、消えていった。「おまえのふるさとは消えちまったな」という最後のセリフには、1980年代当時、数多の山村がダム建造のため消えていった、そんな過去を思い起こさせる。しかしこのセリフはやがて、本作全体を象徴する一言になってゆくのだ。ある意味で、13話は製作者らが本作の全体像を縮小して見せてくれたものなのかもしれない。

評点

★★★★★
 予想もつかない展開と、全体を貫くペシミズムで、見終わった後考えさせられる。

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