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機動戦士ガンダム 全話レビュー第26話「復活のシャア」

あらすじ

 オデッサでの敗戦により、ジオン軍はヨーロッパからの撤退を余儀なくされた。激戦を勝ち抜いたホワイトベースは、北アイルランドのベルファスト基地に、補給と修理を受けるために向かう。この地で「107号」としてスパイ活動をしている少女が、その情報をジオンに流した。ベルファスト基地で、アムロらはレビル将軍と会見し、ジオンがモビルスーツの量産体制に入っていることを知らされる。一方107号からの情報は、あの男に伝えられていた。

脚本/松崎健一 演出/藤原良二 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和

コメント

 ジオン軍の攻撃を受けたサイド7から避難するため、逃避行をしながら戦闘を続けてきたホワイトベースだが、レビル将軍が指揮するオデッサ作戦に参画し戦果を挙げたことで、その立場が変わってくる。そのターニングポイントに絡んでくるのが、あの男、シャアである。
 タイトルにその名が出てくるだけに、彼の動向や復活の理由について掘り下げたくなるが、それはあとにして、ひとまず26話全体を俯瞰してみよう。
 というのも、オデッサ作戦という一大イベントを終えて、この戦いに至るまでの様々な伏線がほぼ回収され、ランバ・ラル、マ・クベといったホワイトベースの前に立ちはだかった敵も姿を消したこの時点は、ある意味第二のスタート、といってもいい状況にあるからである。つまり、26話は「これから」の展開を面白くするための仕掛けがいっぱいされている話、ということができるのである。

 オデッサ作戦後、はじめて正式にレビル将軍と会見したホワイトベースの面々は、その拠点であったベルファスト基地に、補給と修理のために入ることとなった。そこで収集された彼らは、南米の連邦軍本部ジャブローへ行くように命じられる。


ベルファスト基地へ向かうホワイトベース。
やっと羽を伸ばせるというカイに対して僕らもう正式な軍隊です、
何をやらされるかわかりません、とシニカルなアムロ。
アムロとカイの立場が逆転しているように見える。

 召集前のカイとアムロの会話が面白い。やっと羽を伸ばせる、とリラックスした様子のカイに対して、僕らはもう正式な軍隊です、何をやらされるかわかりません、とシニカルに答えるアムロ。いつの間にか、言いそうなことが入れ替わっているように思える。ここまでの経験から、アムロが軍隊で戦うことをやむを得ないこととして受け入れているのに対し、カイはそこまでの心情にいたっていないことが示唆されているからである。

ベルファストに暮らす少女が登場。
ホワイトベースが飛来したことに気づいて写真を撮影、
その情報を風船で飛ばして何者かに送る。
少女が飛ばした風船が届いた先はジオンの潜水艦だった。
木馬がベルファスト基地に入った、という情報は
その男、シャアに届く。

 フラウ・ボゥは、そんなカイの心情をレビル将軍の前で言語化していた。「軍隊に入りたくない人はどうするんですか?」と。それに対し、レビルは「すでに諸君らは立派な軍人だ、軍を抜けたいというのなら一年間は刑務所に入ってもらう」と厳しい対処をすることを明言した。フラウは自分自身よりもっぱら子供たちのことを気にかけて質問したのだろう。子供たちが置いていかれるなら、自分も彼らと一緒にいてやりたい、と。しかし気になるのはカイである。彼には、フラウのように思いやる他人がいなかったのだ。

ベルファスト基地に入ったホワイトベース。
アムロらはレビル将軍から今後についてブリーフィングを受ける。
軍隊に入りたくない人はどうするのか、とフラウは大胆な質問をするが‥‥

 さて、ここでカイに小さな出会いがある。ベルファスト基地の通用口で、兵士らを待ち構えていた物売りの少女である。彼女はベルファスト基地にホワイトベースが入港してきた際、その様子を双眼鏡で確認し、家の2階からカメラで撮影。机に隠したタイプライターで文章を打ち、その紙片を風船で飛ばしていた。

 受け取ったのはジオン軍の潜水艦、マッドアングラー。その少女、ジオンのスパイ107号からホワイトベースの情報が伝えられた相手こそ、「復活の」シャアであった。ベルファストの物売り少女は、ホワイトベースとシャアとを再び巡り合わせるための繋ぎ役だったのだ。
 そんな少女が、ホワイトベースの一員であるカイと顔を合わせ、言葉を交わす。ここから、何が起こるのだろうとワクワクさせられる仕掛けである。

 一方、ホワイトベース入港の情報を受け取ったジオン軍側では、シャアより先に木馬を倒して名を上げようと動き出す者たちがいた。シャアの副官、ブーンである。彼は、自ら木馬の確認に出ていったシャアを差し置き、水陸両用モビルスーツ・ゴッグを出撃させて、ベルファスト基地に停泊している木馬を狙い始める。ベルファスト基地は警戒体制に入り、ホワイトベースは戦闘準備を始める。

ジオン軍がモビルスーツの量産に入ったことを告げるレビル将軍。
マッドアングラー隊はシャアの副官ブーンが、
水陸両用モビルスーツ・ゴッグを出撃させていた。
基地を出たところで、スパイの少女に声をかけられたカイ。
ジオンのモビルスーツは上陸し、
出撃したガンダムと市街で戦闘を繰り広げる。

 しかしオデッサの激戦を戦い終えた後で、出撃できるのはガンダムのみ、しかもビームライフルは使えない。そこでガンダムはガンダムハンマーを手に出撃する。レビル将軍からは、ジオン軍がモビルスーツの量産体制に入ったことについて「ガンダム一機が呼び水になった」と発破をかけるようなことを言うが、もはやそんなことは意に介さないアムロもまた、印象的である。

 敵のモビルスーツ2機はベルファストに上陸し、戦いは市街戦の様相を見せ始める。ビームライフルの使えないアムロはバルカンで応戦するが、それが敵モビルスーツにはまったく通じず、驚きを隠せない。ビームライフルさえ使えば・・・と思案の末ひらめいたのが、Gブルの主砲を使うことだった。一旦ホワイトベースに戻ったアムロは、Gパーツと合体してGブルでセイラとともに再度発進。見事主砲で敵モビルスーツ1機を撃墜した。

副官の進言を退け、危険を承知で戦場を注視するレビル将軍。
スパイの少女もまた、市街地で戦闘の様子を見て情報収集をしていた。
そこで再びカイと鉢合わせる。
ホワイトベースに戻り、Gブルに換装して再出撃するアムロ。
ゴッグの攻撃をものともせず、
その主砲で1機撃墜。

 ビームライフルが使えない、という伏線を、しっかりGパーツ合体シーンを織り交ぜて回収するあたり、作話に不自然さのないスポンサー対策に匠の技を感じる。

 一方、ホワイトベースのブリッジでは、オムルがこんな疑問を投げかけていた。「しかし妙ですね、敵のモビルスーツが消えたあとミサイル攻撃もやんでいます」
 それを聞いたブライトは、ふとひらめく。「そうか、敵のモビルスーツ、水中から現れたな」

 そしてついに、ガンダムは宇宙、大気圏突破、地上に引き続き、水中という第四のシチュエーションで戦闘を繰り広げることになるのだった。

敵が水中にいると気づいたブライト、
アムロはガンダムで海中へ飛び込む。
ゴッグを相手に苦戦を強いられるが‥‥

 ゴックの爪に頭部を引っ掛けられ、水中を引き摺り回されるガンダムだったが、モニターが使えなくなる?という状況を逆手に取り、敵モビルスーツのモノアイを破壊したアムロ。もはや彼はモビルスーツの性能まかせのひよわな少年兵ではなく、歴戦の勇士さながらに変貌してたのだった。

 アムロの生還にホワイトベースのブリッジは湧く。その一方で、市街戦の最中、カイは情報収集に勤しんでいたスパイの少女107号と鉢合わせていた。どうやら彼女は、この役割だけで退場するわけではない気がする。

 余談だが、スペースコロニーを領国とするジオン公国軍が、開戦し地球上に降下してから半年余りで、はやくも潜水艦や水陸両用モビルスーツを開発・運用していることには驚かされる。海洋という、スペースノイドにとってまったく未知の領域で、彼らはいかにして地球連邦軍を凌駕する軍備、それに航行技術や戦闘技術を体得することができたのだろうか。あるいは海洋、とくに海中は宇宙と似ているところがあるのかもしれない。しかしもう少し現実的に考えると、地球上で、船舶や潜水艦の建造・航行技術を持った民間企業等の人材を多数確保していたことは間違いないだろう。107号と呼ばれたスパイの少女の存在は、このように、ジオン軍に便宜を図って生き延びようとする多数の人がいたことを暗示していると見ることもできよう。

この一言! そう、私のプライドを傷つけたモビルスーツだからな

 さて、「復活のシャア」と題された26話だが、肝心のシャアは復活どころか、最初と最後にしか出てこない。107号からの連絡を受け、司令官でありながら自ら前線に視察に向かうという腰の軽さがやや軽率にも思える。振り返ってみれば、デギン・ザビ公王の愛息子であったガルマ大佐を守れなかったとして、ドズル中将麾下の部隊から左遷され、それをキシリア親衛隊に拾われたところで、前回の登場場面は終わっていた。とすれば、彼は今キシリア少将の配下に組み入れられた、ある意味新参者であるはずだ。だからこそ、マッドアングラー隊の副官ブーンは、シャアが出た隙に木馬を倒してやろうと、この新参者にキシリア部隊の洗礼を浴びせてやろうとしたとも考えられる。

 もし、その目論見がうまくいっていたなら、シャアは復活せずに終わっていただろう。この場合の復活とは、単に戦線離脱していたシャアが戦場に戻ってきた、ということではないのだ。ガンダム、そしてアムロの宿敵として、彼は復活したのである。ガルマが散ったあの戦いからオデッサまで、シャアが戦線離脱していたその間に、ガンダムを操るパイロットは、その性能をフルに活かし、瞬時に敵の弱点を見抜いてピンポイントに攻撃できる戦闘巧者へと変貌していたからなのだ。

 ここで少し、シャアが一旦ストーリーから消え、また戻ってきた裏事情を明かしておこう。「宇宙戦艦ヤマト」のヒットによって開拓された、ハイティーンという年齢層に向けたロボットアニメとして制作された「機動戦士ガンダム」だったが、放映当初より視聴率は伸び悩み、同時展開された玩具の売り上げも低迷していた。その原因として槍玉に上がったのが、シャアという敵キャラだったのである。あの陰気臭いキャラがいけない、あれをなんとかしろ、という声で、シャアは退場することとなった。

 だが、その状況はやがて一変する。シャアとガルマという敵の美形キャラの絡みから、本作の熱狂的なファンになった少女たちがいたのだ。そしてシャアを出してほしい、というファンレターがきっかけとなり、再び彼は、ストーリーラインに戻ってくることになったのである。もしそのファンの声が届いていなかったとしたら、今に至るガンダム人気はなかったのかもしれない。本作に感じるある種異様なまでのダイナミズムは、そうしたところからも生じているのではないかと感じる。

しかし、いざ復活させるとして、シャアという敵をどのように輝かせればいいのだろうか。そこが、実はこの回の最大の見どころである。ガルマを死に追いやることで復讐の思いを果たした彼にとって、ジオンが勝とうが連邦軍が勝とうが、その後の趨勢は実はどうでもいいことだからだ。ある意味、このストーリーの中で第三者的な位置にある彼が、それでももう一度戦いたいと思われたものは何か。それが、彼の一言に凝縮されている。

 2機のゴックを出撃させながら、木馬を沈められず、ガンダムに撃墜されてしまった副官のブーンはシャアから「そのくらいは当然だな。あのモビルスーツは量産タイプの安物じゃあない」と、敵を甘くみたことを諭される。
「しかし、残念であります」となおも悔しがるブーンを笑い、「それでいい」と返すシャア。そして、彼はこう名言するのだ。

「私は、これだけは私の手で倒したいと思っているくらいなのだ。子供じみているだろう?そう、私のプライドを傷つけたモビルスーツだからな」

 自分のプライドを傷つけた。それが、シャアの戦う動機なのだ。なんという誇り高い男なのだろうか。組織のために、他の誰かのためにではなく、ただ自分自身のために戦うことのできる男。やはり、彼は他のキャラとは際立った違いがある。それを見せてこそ、シャアは「復活した」と言えるのだ。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
ベルファスト基地周辺
<戦闘記録>
■地球連邦軍:ベルファスト基地でホワイトベースが補給中、ジオン軍の攻撃を受け市街戦になる。ガンダムが出撃し2機の水陸両用モビルスーツを撃墜。
■ジオン公国軍:スパイ107号からの情報で木馬がベルファスト基地に入ったことを確認したマットアングラー隊が、ゴック2機で基地に攻撃を仕掛ける。しかし出撃したガンダムにより1機は地上で、1機は水中で撃墜される。




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