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第5話「帰還命令」2 小林昭人

 本作は2005年に小林昭人さんがホームページにて連載していた小説で、作者の許諾を得て、飛田カオルが本サイトに再掲するものです。 

「ガニメデ基地とて軍需物資ツフューエンが無限にあるわけではないのだぞ! 戦艦の砲身だって本国から運ばねばならないのだ! 砲弾もミサイルもコンピュータも電子部品もモビルスーツも全部そうだ! 乗員だって最近ではガニメデには来ない! 本国では兵士たちが「つまらん戦いで死ぬのは嫌だ」と言っているというのだ! 本国への物資輸送も滞っているから、割り当ても減らされている! 無益な戦闘カンプフがいったい何をもたらすというのだ!」
 司令官の剣幕に、電話の相方のクロイ少将が恐れをなす。
「まあまあ落ち着いて。ボスバッハ艦長も悪気があったわけじゃなし、これは任務に忠実、レダの戦いで穴だらけのイカれた艦でも体を張って敵艦を撃退した「艦長の鑑ヘルデンカピタン」であったということで、、」
 クロイが具申したボスバッハの叙勲を、彼女はにべもなく撥ね付けた。
「船を壊すことのどこが任務! どこが「艦長の鑑ヘルデンカピタン」なんだ!」
表彰エールングはちょっと無理のようですね。」
当たり前だフライリッヒ!」
 続く報告で、衝突の原因が不法就労目的でイオに向かっていたアリスタ共和国の難民船だと分かった時、彼女は戦闘の目的のあまりのくだらなさに思わず泣き出した。アリスタ共和国はサイド2のコロニー国家で、木星に主権を持っていない。
「アリスタだと、、同盟でもジオンでもないではないか、何でそんなもののために、、」
 ウッウッ、、と、ソファに突っ伏して泣いている彼女に驚いたヘレンの呼び出しを受け、ガニメデでのハマーンの侍従頭、ヘンデル夫人がやって来た。肩書は侍従頭だが、ジオン軍中尉の階級を持ち、レダ会戦ではハマーンの護衛として戦艦グワダンにも乗艦した女傑である。皇女の信頼も篤く、もちろん彼女とマシュマーの関係は知っている。それでもハマーンがヒステリーを起こしたのを見たのは夫人も初めてである。優しく肩を抱きながら、夫人は彼女に声を掛けた。
「ハマーン様、あのお方とお話をすべきでは、、」
 ハマーンは涙に濡れた顔をようやく上げた。

アリスタ共和国:サイド2のコロニー国家で同地域の10%を占める最大の国家。旧パシフィック共和国から独立し、首都はビリニュス。第三部に登場。ビリニュスは宇宙世紀以前のビアスト連邦の首都。

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