見出し画像

機動戦士ガンダム 全話レビュー第24話「迫撃!トリプルドム」

あらすじ

 マ・クベの敗退に業を煮やしたキシリアは、ドム3機を回す手配を確認した。一方ホワイトベースでは、ブライトがマチルダからオデッサ作戦についての指示を受ける。レビル将軍は、敵の黒い三連星」が地球に降下してきたこともつかんでおり、オデッサデーの日を早めることを決意する。地上に降りた「黒い三連星」は早速WBの探索にかかっていた。WBはメインエンジンの出力が上がらず、発進に手間取っている。これを見つけた「黒い三連星」がWBに猛攻をかけ始める。

脚本/山本優 演出/関田修 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和

コメント

 24話は、結末を知っている者にとっては見るのが辛い話である。憧れの女性、初めて恋心を抱いたマチルダという大人の女性と接して、この辛い、生き延びるために戦いを強いられる日々の中に、キラキラとまばゆいばかりの青春を輝かせるアムロ。その輝きが、あまりにも一瞬で消えてしまう儚いものであることを知っているからこそ、それらの源が失われることの重さを、ひしひしと感じてしまうのだ。

 マ・クベの思わぬ敗退に業を煮やしたキシリアは、高級将校たちから提出されたWB追撃作戦の計画書を「話にならない」とたたきつけて叱責する。今は男子のメンツや軍の権威を振りかざすときでない、総力を上げて地上の拠点を守れといい、ドム3機を回す手配を確認した。キシリアの口からは、ガルマの国葬以降姿を決しているシャアの名が語られ、今後の展開にもわくわくするところである。

いつまでもホワイトベースに手こずる将校らを
叱責するキシリア・ザビ。彼女は月にいて直接指揮することができない。
その彼女の差配で、戦艦ザンジバルが
新型モビルスーツ・ドム3機を搭載して地球へ向かう。

 一方、ホワイトベースはマチルダの補給部隊から補給を受ける。アムロはガンダムのパワーアップ用部品を整理していたが、そこに通りがかったマチルダに「さすがです」と声をかけられ、舞い上がる。そして少しでも彼女を見ていたい、という思いでブリッジへ向かう彼女を案内する。途中でばったり出会ったフラウのヤキモチが微笑ましい。

マチルダ中尉は憧れの女性
エレベーターに二人乗るのを見たフラウはアムロに
「さっき私の部屋のエアコン直してくれるって言ったでしょ?」とヤキモチを焼く。
マチルダさんを恋人にしたい、という会話を聞かれて赤くなるカイ。

 補給部隊の到着でホワイトベースに訪れた小休止の中で、浮かれているのはアムロだけではなかった。「マチルダさんが恋人だったら最高」と語る言葉を本人に聞かれたカイは「恥のかきついでに」と言って、一緒に写真を撮らせてほしいと申し出る。マチルダと一緒に写真を撮ってもらう少年たち、その1枚を胸ポケットにしまい、取り出して喜ぶアムロの姿は、まぎれもない思春期の無邪気な少年そのものである。

恥のかきついでに、と写真撮影を申し込む。
わっと集まってくる少年たち。
マチルダと撮った写真を手にして「ひゃっほー!」と喜ぶアムロ。

 対照的なのが、オデッサ作戦を進めようとするレビル将軍とその周辺である。各隊の遅れを気に留めたレビルは、エルランの終結を急がせるように命じるが、そこへ、空軍のパトロール隊がキャッチした情報が届く。ジオンの戦艦ザンジバルが降りてきた、という報告だった。そこには「黒い三連星」と呼ばれる敏腕パイロットが、新型モビルスーツとともに搭乗しているという。レビルは彼らが「ルウム戦役で私を捕虜にした兵士たちだ」と、かつての因縁を暴露する。
 その動きに即応するため、オデッサデーの開始日を早める決断を下すレビルだが、もちろん、その情報もまた、エルランからジュダックを通じて敵将マ・クベにもたらされることになる。

ザンジバル降下の情報がレビル将軍に届く。
そこに乗る「黒い三連星」はかつてレビルを捕虜にした宿敵だった。
ジオン軍に通じるエルランは、ジュダックがダブルスパイではないかと疑うが…

 ところでこの新型モビルスーツ・ドムだが、もとはといえば、ガルマの仇討ち部隊であったランバ・ラル隊にまわすべきものだったはずである。ところがマ・クベは、自身の部隊が占領する地域でドズル中将配下のランバ・ラル隊が動き回り、戦果をあげることが面白くなく、ランバ・ラル隊に供給しなかったという経緯がある。冒頭でキシリアが「今は男子のメンツや軍の権威を振りかざすときでない」とキレまくっているのは、そうした背景があることを踏まえたものだろう。エルランという裏切り者を抱えた連邦軍は危うく見えるが、内部の派閥争いで足を引っ張り合うジオン軍も、それに劣らず脆弱さを見せている。それもまた、面白いところである。

 地上に降り、マ・クベの部隊に合流した「黒い三連星」の3機のドムは、さっそく木馬の探索を始める。ホバークラフトのようにジェット噴射?で地表から浮いて高速で移動するモビルスーツは、「飛べない」ガンダムに対して驚異的に映る。しかもホワイトベースはエンジン修理がはかどらず、いまだ動けずにいる。
 そんな中、新メカ・Gアーマーにセイラをパイロットとして出撃させる指示が出される。セイラを待つ間、ガンダムで出撃準備をするアムロのところに出向き、「ブリッジで見せてもらいます」と彼を鼓舞するマチルダは、不安を勇気に変えるモチベーターとしての有能さを併せ持つことが伺える。

マ・クベの部隊に合流した3機のドムと
「黒い三連星」
夜陰の中、早速ホワイトベースの探索を開始する。
ハヤト、カイが出撃する中、突然呼び出されGアーマーの
パイロットとして出撃を命じられるセイラ。
ブリッジで見ている、とアムロを励まし投げキッスを飛ばすマチルダ中尉。
戸惑いながらもセイラはアムロの指示で奮戦するが…

 Gアーマーは、アーマー(鎧)のようにガンダムに装着し、ガンダムを内部におさめて戦闘機になるというもので、セイラが操縦、アムロが攻撃を担当する。動きの速い敵メカに対応するために、ぶっつけ本番の出撃となったが、ここでは一転、アムロがセイラに前向きな言葉をかけているところに、今までにないたくましさを感じる。

 「黒い三連星」3機のドムと対戦したGアーマーだが、敵に対して小回りのきかない点が不利となり、アムロはGパーツを切り離すことを決断。しかし、ガンダムとなって待ち受けるアムロに対し、三連星は目標をホワイトベースに定め、まだ動けないホワイトベースは攻撃を受け始める。

「しまった、モビルスーツめ、先にホワイトベースをやるつもりか!」

 動いたアムロを排除するため、得意のジェットストリームをかける三連星。一度はその攻撃をかわすアムロだったが、背後には、ホワイトベースの危機を打開するため出撃したマチルダのミデア機が迫っていた。

いまだ修理の終わらないホワイトベースのエンジン。
小回りのきかないGアーマーを切り離す決断をするアムロ。
しかしホワイトベースがドムの攻撃を受け始め…
ドムの意図を察したアムロは三連星の攻撃を引きつけようとする。
「あのモビルスーツにジェットストリームアタックをかけるぞ」とほくそ笑むガイア。
3機1列になってガンダムに向かってくるが…

 この、黒い三連星との死闘は、本作でも一、二を争う戦闘シーンの名場面である。そこについては、ここで語るよりもぜひ本編を見てほしいと思うが、レビューのために再視聴して、改めて驚いたのは、その結末の「心理的重さ」とは対照的な「軽さ」であった。

「いいニュースだ、ホワイトベースが黒い三連星を退けて戦線に復帰したよ。さすがだな、ホワイトベースもいよいよ本物だ」

 と、報告を受けたレビル将軍は、オデッサデーに向けて幸先のよいスタートを切ったとでもいうように言い放つ。そこには、ホワイトベースを守りきるため犠牲になった、ミデア隊の人々の名前はない。戦場を離脱するホワイトベースでは、全員が艦上に出て、犠牲者に対し敬礼する。

 「マチルダさーん・・・」というアムロの心の叫びが響くその戦場には、ただ爆発の痕跡が残るのみである。

この一言! 戦いは破壊だけでも、人間はそれだけでは生きていられないと私には思えたから

 今回のラスト、ホワイトベースが飛び去る後に残された爆発の痕跡を見ながら、マチルダがアムロに伝えたこの言葉を振り返ってみたい。

 ホワイトベースのエンジン修理のため、放射線防護服を着用して機関部に入っていたマチルダとアムロ。除染をしながら(当時、防護服とか除染という言葉は一般的ではなかった。そういう言葉が今はスラスラ出てくるのは、もちろん私たちが、福島第一原発事故という史上最悪の原発事故を経験しているからだ。作中に説明はないが、ホワイトベースのエンジンは原子力(核融合エンジン)によるのだろう)、アムロはマチルダ中尉に「なぜ補給部隊に入ったのか」と問いかける。そのとき、マチルダはこう答えた。

「そうね、戦争という破壊の中でただひとつ、モノを作っていくことができるからかしらね…戦いは破壊だけでも、人間はそれだけでは生きていられないと私には思えたから」

 その言葉に、アムロは本来の自分自身を思い出す。自律型ロボットのハロを夢中で作り上げていたのが、戦争に巻き込まれる前の彼の姿だった。モノを作る、それが生きがいだったのだ。だからこそ、「破壊だけでは、人は生きてはいられない」という彼女の言葉、破壊の中でモノを作っていくことのできる部隊に身を置いた、という生き方に共鳴するとともに、今まさにホワイトベースに命がけでガンダムのパワーアップパーツを供給し、壊れたエンジンを修理するためにチームを動かすという行動でそれを体現している彼女に「強さ」を感じたのだろう。

 彼女は、アムロの才能を認め、パイロットとしての彼に信頼を置いていることを言葉と行動で示した。そのことが、アムロ自身にも影響を与えたことは間違いない。ぶっつけ本番でGアーマーに搭乗することになったセイラに指示を出し、ガンダムを切り離してパーツをドッキングさせることになったとき、不安を覚えるセイラに対して、

「できますよ、セイラさんなら。セイラさん、いつも僕にそう言ってくれました」

 とポジティブな言葉をかけて励ましていることからも、その変化が伺える。そして、そこからやがて、ただ生き延びるだけの戦いから、新しい時代を生み出すための戦いへと、少しずつ流れは変わってゆく。

 24話のレビューの最後に、その潮流を感じさせる場面をピックアップしようと思う。

「少し、間に合わないかもしれない」ミライのつぶやきの意味するものは?

 ついにホワイトベースが敵モビルスーツに発見されるが、ホワイトベースのエンジンはいまだ修理中で身動きが取れない。そんな中、ブリッジでマチルダは、ブライトの代理で指揮をとるミライに「大丈夫、セキ大佐はやってくれます」と声をかけるが、それでもミライの不安感は収まらなかった。そして彼女は、こうつぶやく。

「少し、間に合わないかもしれない」

 どうしてそう思えるのか、と問ひ返すマチルダに、ミライはただ「わかりません」と答えるが、次の瞬間、何かを見たように驚きの表情を見せた。
 一体彼女は、何を見たのだろうか。マチルダはそんな彼女を「心配性」と捉えたが、それ以上の「予感」が彼女を捉えていたように、私には思えた。

何かを見たかのように、空(くう)を見上げて驚くミライ。
黒い三連星と対峙する中、眉間から何かがスパークするアムロ。

 そして、ジェットストリームを仕掛けた黒い三連星との戦いで、アムロは相手の攻撃を予知するような動きを見せる。このとき、はじめて彼の眉間にスパークする光が描かれた。この、ミライの予感、アムロのスパークの意味するところは、ここではまったく語られることはない。しかし、この戦いの勝利を受けてレビルが放った言葉、「さすがだな、ホワイトベースもいよいよ本物だ」の意味するところとリンクしてゆく、と考えると、その「本物」とは一体何なのか、という興味がさらに掻き立てられてゆくのである。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
黒海沿岸
<戦闘記録>
■地球連邦軍:レビル将軍のもとに、黒い三連星参戦の情報がもたらされる。三連星を出迎えるホワイトベースはGアーマーを投入。エンジン不調で動けないホワイトベースの盾となりアムロは三連星のジェットストリームをかわし1機を落とすが、支援のため出たマチルダ中尉のミデアが撃墜される。マチルダ・アジャン中尉戦死。
■ジオン公国軍:マ・クベのもとに、キシリア少将からの差配で新型モビルスーツ・ドムと「黒い三連星」が到着。ホワイトベース撃沈に向けて探索を開始する。発見したホワイトベースを仕留めようとするが、ガンダムに阻まれマッシュが撃墜され、ガイアとオルテガは退却を余儀なくされる。


この記事が参加している募集

アニメ感想文

最後までお読みくださり、ありがとうございます。 ぜひ、スキやシェアで応援いただければ幸いです。 よろしければ、サポートをお願いします。 いただいたサポートは、noteでの活動のために使わせていただきます。 よろしくお願いいたします。