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第14話「新共和国成立」2 小林昭人

「お集まりの各国の軍および政府関係者の皆さん、プラント&キーゼ・エンジニアリングの最新作をご紹介しましょう。RX─178マークⅡを超える真の宇宙戦用モビルスーツスペース スペリオリティ ファイター、リック・ディアス!」
 連邦からわざわざ呼び寄せた特殊効果の演出師、アツシ・ヒガシによるレーザーとフラッシュとスモークの派手な演出の後、キーゼは「ディアス」の説明を始めた。機能部品の80%をガリバルディと共用するが、センサーレンジは4倍、コンピュータの能力は10倍を超え、最新の第五世代の思考誘導制御デバイスを備える。核融合エンジンはガリバルディ最新型と同じプラントP─1500を二基搭載し、五倍以上のエネルギーゲインを誇る。P-1500は土星でガリバルディが用いたGR─100よりさらに高性能なエンジンだ。推力を二倍強に増大させる再推力増強装置「アフターバーン」を備える。ビームライフルとサラミス艦の二倍の初速度を持つ160㎜レールキャノンを併用するクレイ・ライフルを扱うことができる唯一の機体であり、超々ガンダリウム合金を用いた装甲強度はガリバルディの三倍、対ビーム能力は五倍、独自の軽量化設計でガリバルディの弱点だった航続距離も240%伸びる。全てにおいてケタ外れの性能だが、操縦系の基本はガリバルディと同じで、訓練しやすく扱いやすい機体である。機能部品や電子機器、武装は新型防空システムや新鋭戦艦と同じ部品を使うことができ、整備性も高い。
(「ガリバルディβ」などは、これを作るための叩き台に過ぎなかったのだ。松下が単にライセンス生産によるガリバルディの生産立ち上げだけを依頼してきたら、私はジオンに帰るつもりでいた。しかし、プラントは次を考えており、それを私に任せた。)
 キーゼは三年前のプラント工場での松下博士との出会いを思い出した。あの時は同盟公用語アライド フェデラルができず、買い物にも苦労したが、今はそんなことはない。NOWA(語学教室)に通って言葉はちゃんと覚えた。リック・ディアスの開発にはキーゼが連れてきたノイマン技術者ばかりでなく、大勢のプラント開発者も従事している。松下はディアスのエレクトロニクスを担当した。
 キーゼがグラナダに持ってきた展示機は赤色に塗装されており、操縦席にはシャア人形が置かれている。人形の首にはキーゼ直筆の看板が掛けられており、「これに乗れば誰でも赤い彗星レッド コメット」と書かれている。シャアは伝説的なジオンのパイロットだ。
 発表会の説明を終えたキーゼは会場の天幕に戻ると、来賓の中にいる金髪のサングラスの男に目を留めた、やはり来ていたようだ。
 彼の視線に気づいた男が振り向き、キーゼ社の天幕に向かって歩いてくる。引っ掛かったな、それはそうだろう。誰のために当時の配合をわざわざ選んでディアスを鮭紅色サーモンピンクに塗ってやったと思っているんだ。近づいて来た男は彼に名刺を差し出した。
「ゲオルグ・キーゼ博士、連邦警備隊グラナダ鎮守府、エウーゴ課のクワトロ・バジーナ大尉です。ディアスの資料をいただけませんか?」
 そら来た、高性能なモビルスーツの発するオーラには抗えまい。貴様の性癖は良く知っている。スパイスはふんだんにまぶしておいたのだ。ちゃんとホルンも付けた。ジオンにおいて男はキーゼの最高のモルモットだった。しかし、趣味の悪い服だな。キーゼは怪訝そうな顔で、クワトロのエウーゴでの制服である赤いノースリーブを見た。
「ニュータイプ専用機ではないでしょうね。」
 ニュータイプ専用機とは、当時のキーゼらジオン技術者の間では、「およそまともに動かない」の婉曲表現ユーファマイズを指す。一言で言えば駄作レモンだ。完成度の高い機体が多い現在では死語になっているが、自分が造語した懐かしい言葉を聞き、キーゼはニヤニヤしながらクワトロの肩を叩いて商談室に誘った。

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「ATZ」vol.3は、第14話~20話までの7話14本を収録。

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